二十二、件の流星
私は向く方向を変え、階段に向かって歩き出した。
「何にせよ、ここにこれ以上留まる理由は無さそうです。神社にでも戻って、今後の動き方を考えま…。」
『あなた、そこの階段を2段目で踏み外して頭をうちますよ。ヒッヒッヒ。』
「!」
「え?」
突然後ろから、禍々ししい気配を感じた。不気味な笑い声の方に振り向こうとした瞬間、足が滑った。階段の2段目を踏み外し、ゴッという鈍い音がした。後頭部に痛みが走り、声にならない叫びをあげる。
「楯本!」
「〜っ!!!いった〜っ!」
私は痛みに顔を歪ませ、後頭部をさすった。とりあえず出血は無く、意識もあるため、今のところは大丈夫そうだ。でも…。
顔を上げると、視線の先に、体は牛、顔は人間という不気味な老父が笑みを浮かべていた。
「でででででででで出たーっ!?」
初めて見た!気持ち悪っ!こわっ!
「見たとこあんた。予言か、言ったこと現実にする能力持った妖怪みたいやなぁ。何モンや。」
小雪以外の霊的なものを初めて見た私は、その姿と禍々しさに、驚きを隠せなかった。それとは対照的に、恭士さんは冷静に目の前の怪物を分析する。
『ヒッヒッヒ。なぁに、とって食ったりは致しません。わたしゃあるお方の遣いでしてね。あなた方を探しておりました。件と申します。』
不気味に笑う老妖怪は、殺意こそ感じられないが、明らかに味方では無いと感じさせる何かがあった。
「俺らを探しとった?」
恭士さんは敵意を押し殺した声で尋ねた。
『はい。私の能力は凶事の予言。絶対に外れる事はありません。本日は我が主のご好意で、陰界から忠告をしに来ました。』
2人はいつでも陰陽師化できるよう、警戒したまま話を聞いた。
『ヒッヒッヒ。あなた方に、大災厄を止める事はできませんよ。』
「「!」」
件は、一体何者なのだろうか。少なくとも大災厄のことを知っている時点で、只者では無いだろう。
『悪いことは言わない。大人しくさだめを受け入れることです。死にたくなければね。ヒッヒッヒ。』
「はいそうですかなんて受け入れる訳無いやろ。止めなアカンヤバいもんやから大災厄言うてんやろが。」
私は体が震えて、動かなかった。
『おっと…。』
恭士さんは件を、倒すべき敵とみなし、詠唱を始めた。しかしらそれが終わる前に件は移動し、私と恭士さんの間を通り抜けた。
『いけませんねぇ。先人の話は素直に聞くものですよ?』
その姿からは想像できない移動の速さに、2人で息を飲んだ。
『まぁいいでしょう。今回の用件はあくまで忠告です。また会う事が無いよう、祈っておりますよ。ヒッヒッヒ。』
件はそう言って笑うと、夜の空へと飛んで消えてしまった。