二十、何の時間?
「…ねぇ。」
「…なんや?」
外はもうすっかり暗くなっている。私と恭士さんは、まだ競馬場の中で座っていた。自分たち以外に、人の気配は全くない。
「言わなきゃ分かりませんか?」
私は恭士さんを見つめた。恭士さんは暫く考え込み、ハッとしたような顔をした。そして一瞬間をとり、深呼吸をして私の瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
「…すまん。悪いけど俺は…ガキには興味あら…。」
「ちっがーう!!!誰がこの状況で告白なんかするか!!!馬帰っちゃったから!調査のしようが無いんじゃないかってこと!!!何が悲しくて競馬場でそんなことしなきゃいけないの!!!ていうかガキってなによガキって!!!」
私は怒りながら、恭士さんの肩を激しく揺さぶった。
「うぉっ!おっ…おまっ、首折れるっ…やめいっ!」
恭士さんはどうにかこうにか私を引き剥がした。そして落ち着くと、申し訳なさそうに言った。
「いやぁ、実を言うとな。俺普段競馬なんかやってへんねん。競走馬て普段は、近くの小屋的なもんで生活しとるもんやと思っとったけど、違ったらしいな。まぁどっちにしろ、馬から嫌な気配せぇへんかったからここは外れなんやろ。」
どうでもいいカミングアウトをして苦笑いしている恭士さんを見て、思わずため息をついた。
「さっきスマホで調べてみましたけど、競走馬って普段はトレーニングセンターにいるみたいですよ?」
「お前、なんでそれはよ言わんねん。」
「なにか考えがあってのことと思っていたもので。」
恭士さんはガックリと肩を落とし、私はスマホを片手に、しらーっとした視線を送った。