十八、競馬場
陰陽神社を訪れてから翌々週、私はあからさまに不機嫌な顔をしていた。その原因は、自分の視線の先を走る十数頭の馬たち。そして、中年男性たちに混ざって歓声を上げている、顔見知りのおかしなテンションに他ならない。
「…で、何で午で調査する場所がココなんですか?」
千晶は隣にいる恭士に尋ねた。
「そう怖い顔しなや。午言うたら一番集まんのここやろ。」
「だからって自分まで馬券買う必要がどこにあんの!普通にただ楽しんでるじゃん!」
私は恭士さんに向かって不満をぶつけた。
「やいやい言いなや!それに俺かてそんだけの理由でここに来た訳とちゃ…。!」
その時、周りの喧騒が一段と激しくなった。よそ見をしている間に決着がついたらしい。
「うおぉぉぉおランアウトォォォォォオ。」
恭士さんは賭に負けたらしく、競走馬の名前を叫んで膝から崩れ落ちた。それを私が、軽蔑するように見下ろして言った。
「恭士さんの運がrun outしてたんじゃないですか?」
恭士は一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐ意味が分かったらしく、不気味な笑みを浮かべてゆらりと立ち上がった。
「…お前…上手いこと言うてくれるやんけ。慰めろやすこしは。」
「自業自得ですよ。」
run out=尽きる。つまり、そういうこと。
「で?ここに来た他の理由は何ですか?」
私たちは、都内の競馬場に来ていた。勿論、交通費をかけることなく、陰陽神社を経由してだ。
こんな簡単に移動できるなら、修学旅行でもこれを使いたかったとか思ったが、あえて口には出さないでおこう。
「せや!」
急にテンションが戻った恭士さん、が話し始めた。
「この前流星群が地球の近く通ったやろ?」
「あぁ。おうし座流星群ですね。私は寝ちゃったから見てませんけど。」
1ヵ月程前、おうし座流星群が見られると、テレビが言っていたのをうっすらと覚えている。
「その期間中、都内で奇妙な流れ星の目撃情報が多発しててん。何でもその流れ星、地上から上がって、またどこかに飛んでったそうや。」
「地上から?」
恭士は頷いた。
「ネットじゃ、新型の花火やとかUFOやとか色んな憶測が飛び交っとる。」
「実際その可能性は無いんですか?」
「う〜ん、無いとも言い切れん。けど、思い当たる節があんねん。」
恭士さんは自分の予測を話し始めた。