十七、新たな世界
「とりあえずこれが、今分かっとることの全てや。信じる気にはなったんとちゃうか?」
恭士はそう言って千晶の顔を覗き込んだ。私は無言で、ただ俯いていた。
「…1つ嬢チャンに、謝らないかんな。」
恭士は目を泳がせながらそう呟くと、小さく「すまん」と言って首を垂れた。
「…え?」
「…陰陽師の力を持った以上、魑魅魍魎たちにも狙われやすくなる。今後は否応無しに、戦いの世界に身を投じることになるやろ。当事者とはいえ、現世の嬢チャンをこの世界に巻き込んだのは俺や。」
部屋の中に暫しの沈黙が流れた。
「…顔上げてください。恭士さん。」
私は口を開いた。
謝らなくて、いいのに。
「京都で会った時、恭士さんがあの場に駆けつけてくれていなかったら、私は悪霊に殺されていたんだと思います。」
そんな辛そうな顔して、どうして謝るんですか。
修学旅行の夜のことは、鮮明に脳裏に焼き付いている。
得体の知れないものに出くわした恐怖、友だちを失うかもしれないという恐怖、自分が死ぬかもしれないという恐怖。
その恐怖から私を救ってくれたのは…。
「今私がここに立っていられるのは、あの時恭士さんが、私たちを助けてくれたおかげです。」
恭士はゆっくりと顔を上げた。
「大災厄が来れば、怖い思いをする人が増える。友人たちも、また危険な目に遭うかもしれない。そんなのは嫌です。」
分からないことが沢山ある。
私がまだ知らない世界が、この先に広がっている。
千晶は、恭士に手を差し出して言った。
「大災厄を止めましょう。一緒に戦わせて下さい。」
恭士さんは一瞬驚いた表情を浮かべたが、安心したようにふっと微笑んだ。
「よろしくな。楯本。」
恭二さんが、私が差し伸べた手を握り返した。
まだ陰陽師のことも、あなたのこともよく知らない。
でも、もう少し知ってみたいと思った。
私の世界を変えたあなたを、広がった新しい世界を。
私にしかできない何かを、私は見つけ出したい。