十三、小雪
「まったくも〜、こっちは前世を信じるかどうかも、陰陽師として活動するかこ返事も、何もしてないのにさぁ。」
私はぶつぶつと文句を言いながら、道を歩いていた。その脚に、もう以前着けていた装具はない。
「せっかく休日なのに、近所の氏神様がいる神社に行けだなんて、無茶苦茶だよ。」
『文句を言っている割には、しっかり神社に向かってるじゃありませんか。』
小雪にそう言われ、私は頬を膨らませた。
「だって気になるじゃない。ここまで巻き込まれたらさ。状況分かんない方が気持ち悪いもん。」
今日は日曜日だ。本来であれば、家でごろごろしているか、友人たちと遊びに行きたいところだ。
しかし、恭士さんに呼び出された私は、しぶしぶ雪と2人で神社に向かっていた。
いや、1人と1匹か…。
私は、喋る兎に何の違和感も抱かず、ただ横を通り過ぎていく通行人たちをちらりとみた。
「やっぱり、小雪の姿はみんなには見えないんだね。」
『私は霊側の存在ですからね。以前も言ったように、霊感や霊的能力を持つ者にしか、基本的に姿を見ることはできません。』
小雪と言うのは、以前の主人…つまるところ前世の私がこの白兎につけた名前らしい。名前を尋ねたところ、そう呼ばれていたと答えたため、そのまま使うことにした。
雪は式神の中でも、「悪行罰示式神」という種類の式神だ。過去に悪行を働き、それを成敗されて式神となったものらしい。
ちなみに、どんな悪さをしていたのか、一応聞いてみた。すると、恥ずかしそうに顔を背けて、蚊の鳴くような声で言った。
『…く…。』
「く?」
『食い逃げ…です…。』
名前:小雪
種類:ユキウサギの霊
罪状:食い逃げ
え…それだけ?
目が点になった。選ばれし陰陽師に従属した式神ならば、さぞ凶悪な何かをしでかしたのだろうと、勝手に思っていた。それなのに、まさか食い逃げだったとは…。
他の選ばれた陰陽師の式神たちも、全員悪行罰示式神らしいが、彼らは一体何をしたんだろう?