十二、選ばれし陰陽師
遥か昔、日本には悪霊や妖怪といった魑魅魍魎たちが、数多く存在していた。それらを相手取り、不思議な力を使って人々を災厄から守護していたのが、安倍晴明をはじめとする陰陽師たちだ。
彼らの活躍により、少しずつ魑魅魍魎たちは数を減らし、それらを目にすることも少なくなっていった。
しかし、この話には続きがある。
恭士さん曰く、安倍晴明の死没から200年後、魑魅魍魎の数が急速に増えていった。それを止めようとしたのが、12人の陰陽師とその式神たち。
しかし、その式神たちに呪いがかけられ、強力な悪霊が彼らに取り憑いた。結果、陰陽師たちはやむなく、自らの式神ごと悪霊を封印した、ということらしい。
そして今、なんらかの作用で再び魑魅魍魎が増え、各地で悪行を働いている。
また、その影響で封印されていた式神たちも、とり憑いた悪霊と共に目覚め始めているという。
「その強力な悪霊が、なんで今の私に浄化できたわけ?」
私は話を聞いていて、疑問に思ったことを質問をした。
「さぁな。1つ言えるんは、前世で式神と絆を結んだヤツにしか、その悪霊は浄化でけへん。分かってんのはそれだけや。」
『この800年の間に、呪いが劣化でもしたんですかね?』
それまで、恭士さんの横でこじんまりと座っていた兎が口を開いた。
「劣化ねぇ…。」
「でも、それが事実なら、あなたのこと封印したの私たちってことになるよ?嫌いにならないの?」
割と真剣な顔で言うと、キョトンとした顔で兎が答えた。
『…正直封印された時の記憶があまり無いので…それに。』
兎は一瞬、懐かしいものを見るような目で私を見てきた。
『ご主人は、とても優しいお方でした。きっと最後まで、封印以外の道も探してくれたはずです。嫌いになんてなりませんよ。』
兎はキッパリとそう言うと、膝の上に跳び乗ってきた。
『千晶様には、私の瞳が蒼く見えたんですよね?それは千晶様と私が、強い絆で結ばれている証拠です。私はご主人の決断は正しかったと信じてます!』
「はぁ…。」
いや…そんな真っ直ぐな目でそう言われても困るんでけど…。
信じてるなんて言われても、当の本人は全く記憶がないし、どう反応していいか分かんないよ…。
「つまりや。」
恭士さんが再び口を開いた。
「俺らは800年前の…前世の戦いにケジメをつけなアカンらしいっちゅうこっちゃ。自分が覚えとるかどうかは別にしてもな。」
彼はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
「とりあえず、今日はもう遅いから帰るで。なんかあったら、そいつに聞いてみぃ。」
恭士さんはカーテンを開き、ガラッと窓を開けた。
「まだ教えなアカンことはぎょーさんあるからな。とても一晩じゃ伝えきれんわ。また近いうちに来る。」
「あっ…。」
冷たくなった秋の風が、部屋の中に吹き込んだ。
恭士さんはニッと笑うと、ポンッと音をたてて姿を消した。窓の方へ歩みより、外を見ると、人の形をした紙がひらひらと夜の闇へ消えて行った。
「あ…助けられたお礼…言いそびれちゃった…。」