〜千年前、京都〜
「…おそらくこれが、私の最後の仕事となろう。晴信、後のことはお主に任せたぞ。」
炎に包まれる京の都。その中央に位置する大きな屋敷の中、一人の老人が穏やかな笑みを湛え、隣に立つ青年に語りかけた。青年は、ほんの一瞬寂しげな表情を浮かべたが、真っ直ぐな眼で老人へと向き直る。
「…はいっ。必ず…果たしてみせます。」
老人は満足げに微笑むと、五芒星が描かれた大きな和紙の上で、怪しげな言葉を唱え始めた。
「金色の烏兎の勾玉…」
老人の言葉に呼応するかのように、地面が大きく揺れ、幾つもの稲妻が天を貫き始める。青年はそれと同時に表へ飛び出すと、ポンッと音を立てて人ならざるものへと変化し、森へ向かって走り出した。
「炎を纏いて天へ羽ばたき…」
目指す先は、封印の祠。
「蒼き三日月、白雨を降らす…」
「…っ!」
彼が祠にたどり着くと、思いがけない先客がそこに立っていた。先客はゆっくりと振り返ると、にっこりと微笑み、こう言った。
「ご苦労。」
体中にはしる激痛。斬られたのか刺されたのか、よく分からない、痛み。彼は地面に倒れ込み、涙を流しながら、ある人物の名を呟いた。
「…清明…様…。」
彼の意識はそこで途切れた。