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傍らにある闇 1

「大丈夫かい?」


「ああ、問題ない」


 心配そうに覗き込んでくるヴァルターに、ルードヴィヒは一言返して再び書類へと向き直る。


 刻一刻と大議会が始まろうという時間は迫ってきている。


「おい。ジルケはまだなのか?」


「リックが呼びに行っているから、もう来るころだと思うが」


「どこまで呼びにいっているんだ、あいつは」


 ルードヴィヒは書類から視線を上げて大きく息を吐いた。


 とうとうこの時が来たのだ。


 これですべての片が付けられる。


 そう、忌まわしい出生の記憶にも。


 神は果たして自分に微笑んでくれるのだろうか。


 神の言葉を否定し、拒絶し続けてきたこの自分に。


 そう思うとルードヴィヒは異様な高揚感に、身体が小刻みに震えてくるのを止めることが出来なかった。これは不安からくる焦燥感か、はたまた歓喜からくる震えだろうか。


 瞳を閉じて拳を握るルードヴィヒを、ヴァルターが緊張した面持ちで見つめている時だった。


 扉を叩く音と共に、返事も待たずにフェリクスがジルケを伴って部屋へと入ってきた。


「お待たせ~」


「お前は返事をするまで待てないのか?」


 険しい顔で言い放つルードヴィヒに、フェリクスは気にするふうもなく笑った。


「ごめん、ごめん。時間がないと思って急いで来たんだよ」


「緊張感の欠片もないな、リック」


「え~、緊張してるよぉ。失礼な」


「ルードヴィヒさま、お呼びだと伺いましたが」


 フェリクスの傍らに立っていたジルケが待ち切れずに口を挟む。


「ああ、ジルケ。髪を切ってくれないか?前髪は目が隠れない程度のところまで。あとはあまり短くならない程度に適当に」


「いよいよ、なのですね?」


「ああ」


 ルードヴィヒの短い返事に、普段は無表情なジルケが珍しく唇を噛みしめて俯いた。


「畏まりました。喜んで切らせて頂きます」


 ジルケは机の上に用意されていた小さなナイフを手に取ると、それを器用に滑らせて髪を削いでゆく。


 肩の下程まであった後ろ髪を襟足が出るくらいまで短く切っていく。片目を覆い隠していた前髪が切られ、閉じられたままの左目が顔を出した。


 少し離れたところから、ヴァルターとフェリクスはその様子を感慨深げに黙ったまま見つめていた。


「終わりました」


 ぐるりと前後左右から確認した後、ジルケは静かに告げ手鏡を差し出す。


 それに応えるように、ルードヴィヒはゆっくりと目を開けた。そして、何度か瞬きした後にぼそりと一言呟いた。


「見慣れないな」


 その言葉に、ヴァルターもフェリクスも思わず苦笑する。


「景色が変わったのだから仕方がないだろう」


「横もスースーするな」


「横の髪も長めだったもんねえ」


「なんだか変な感じだな」


「ですが、その方がお似合いですよ」


 滅多に私語を口に出さないジルケが放った珍しい言葉に、ルードヴィヒはにやりと笑うと勢いよく椅子から立ち上がった。


「さあ、始まるぞ。ジルケは着替えて大議会の後の残党狩りのために待機だ。カレナの護衛とスッペ公爵の見張りを残して全員に伝えてくれ」


「畏まりました」


 丁度その時、この部屋の扉を叩く音が響き渡る。


「は~い」


 先ほどとはまったく違う声音でルードヴィヒが答えると、扉が静かに開いた。顔を覗かせたのはフランツの執務室付きの侍従だった。


「フランツさま、お時間でございます」


「わかったよ~。さあ、行こうか~、ヴァルターにリック」


 ルードヴィヒの言葉に、ヴァルターとフェリクスは小さく頷き二人揃ってこう呟いた。


「「フランツ・ルードヴィヒ・ブルグミュラーさまの仰せのままに」」







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