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4人目 魔王

 仕事を終えて帰宅すると、家の前に見知らぬ影がひとつ。

 またかよと、げんなりせざるを得ない。


「うちに何か御用ですか?」


 振り返ったその人は、明らかに見目がその辺の庶民と違った。


 長い銀髪に紫瞳、整った顔立ち。類稀なる体躯にビロードの真紅のマントを纏い、凝った装飾品を身に付けている。

 この世界の主要なキャラクターだと、すぐわかる。


「お前に逢いにきた」

 おまけにいい声してやがる。

 CV誰だ?


 何にせよ、またオレの魅力に引き寄せられてしまった憐れな仔羊が一匹が訪れたわけだ。

 もうこの展開に慣れてしまいそうだな。


「……そうですか。お茶くらいなら出すけど飲んできます?」

「頂く」


 見知らぬ人を家にあげるのもすでに抵抗ない。

 どのくらいの時間、オレの帰宅を待っていたのかわからないが、心なしか顔色が良くないようにみえる。




「それで、あんたは何者?」

「あまり言いたくはないのだが」

「へぇ、誇れる者じゃないって?こちとら最近出逢った人種が、勇者に賢者に王子にとバラエティに飛び過ぎてて、もうちょっとやそっとのことじゃあ驚かねぇからな」

「そうか」

「ああ、そうだ」

 驚かないから言ってごらん。


「魔王だ」


 彼はそう言ってズズッと茶をすする。ちょっと熱かったようでベロをちらりと出す。


「ふーん、魔王か。……まおうねぇ。まままま魔王!!??」


 ちょっとやそっとのことじゃなかったから、驚きを隠しやしない。


「魔王って、魔族の王の!?」

「そうだ。知ってるのか?」


 知らないわけがない。ファンタジー世界のラスボスであり、邪悪な悪魔や魔物たちの根源。

 近年では些かあちこちでネタにされがちな気もしていたが、ファンタジーには欠かせないキャラクタと言っても過言ではないだろう。

 だから、この世界で今までその存在の話を耳にしたことはなかったが、多分いるはずだと思っていた。


 よくよく見ると、銀髪の中に二本の黒いツノが覗いてる。もっと雄山羊みたいな立派なツノを想像していたが故に油断した。

 先程見えた舌も先が二つに分かれていた気がする。

 見抜けなかった自分にほとほと呆れる。


「ま、魔王がこんなところで油売ってていいのかよ!」

「油は売買してないが、するのも悪くない。ガマの油と熊脂はどちらが売れるだろうか」


 なんかズレてる!

 そのズレてるところが、なんとも魔王らしい。


「一体どうして魔王がこんなとこに?」

「能力の高い人間を確かめに来た」


 真っ直ぐオレを見る。

 能力って魅力値MAXのことか。ていうかそれ以外無かったわ。

 それは警戒なのか、観察なのか、どちらにしろ危険視されていると思っていいだろう。


「オレは魅力値がぶっ飛んでるだけで、なんの脅威でもないし、非戦闘員だから魔王の敵にはなりませんよ!」


 両手を見せて対抗するつもりがないことを意思表示するが、魔王は不思議そうにオレを見る。

 実際、魔王の表情の変化は乏しいが、なんとなくわかる気がする。


「オレは人間と争うつもりはないが?」

「へ、そうなの?」


 あれ、そういえば勇者たちも打倒魔王感はなかったな。クエストや称号が目当てのようだった。

 魔王の存在をも、まだ認識していない可能性もある。


「じゃあ、経験値や名声のために魔物を狩る人間は憎くないの?」


 ふと湧いた疑問を口にする。

 してから少し後悔するが、魔王は躊躇わず答えてくれる。


「オレは魔物や魔族の王ではあるが、すべての個を管理するつもりはない」


 そっか、そりゃあそうだよな。

 女王や大統領が一個人を管理するわけがなく、愚問だった。



「人の王は、一人の人間が魔物に襲われることがあれば、魔物のすべてが悪と咎めるのか?魔物を根絶せよと唱えるのか?」

「うーん。人はそういうところが少なからずあるよ」


 前世では一人の死がきっかけで起こったといわれる大戦争があるし、ある人種の一人が起こした言動をその人種のすべての人の言動として捉え断罪する傾向もある。


「そうか……」

 そう言って嘆息する魔王は少し悲しそうだった。


 基本的に人は人の地で、魔物は魔物の地で生きてはいるが、人がクエストだと魔物の地に入り込むことも、魔物たちが食料欲しさに人の地に入り込むこともある。

 そのうち人と魔物が大々的に争うことになるやもしれぬ危うさを感じざるを得ない。



「魔王ってのも大変だね」


 何がどう大変なのかもわかってないが、思わず溢した言葉に、魔王はフッと笑みを漏らす。


「それにしてもこれ程の魅力が高い人間がいたとは驚きだ」

「魔王は他人のステータスも見ることが出来るの?」


 通常は他人のステータスは見られない。だから自分のレベルが他の村人と比べて高いか低いかわからない。村人たちもそれに興味がないというのもある。冒険者はまた別の話だが。

 それでも魅力999という値が異常なのはなんとなくわかる。


「見るのではない、感じるんだ」

「あ、そう……」

「物理的な距離が近ければもっとわかる」


 そう言って魔王が椅子から立ち上がる。

 そしてオレのすぐ傍に来てやや屈んだと思ったら、ガッと後頭部を掴まれ引き寄せられる。

 顔が、近い。鼻の頭が触れるくらい近い。


「おいおいおいおい」


 頭が固定されているので、身体を離そうと手を伸ばすがガタイの違いもあって全く逃れられない。

 どうしていいかわからずワタワタと困惑していると、魔王は楽しげに言う。


「初々しい反応だ」

「あ、当たり前だろ!男に迫られたことなんて前世でもないわ!」


 魔王の顔はこの世のものとは思えない程整っていて、美しすぎる。

 ドキドキするな、無いはずの胸!


「取り敢えず離れてくれ!なんか魔王相手だと変な気分になり兼ねないから」


 どこか満足気な魔王が拘束を解いてくれたので、なるべく距離を取ってから大きく呼吸をして心臓を落ち着ける。


「オレも世界でお前の次に魅力が高いからな」

「そういうこと!?」

 魅力高いと性別も種族も関係ないのか?


「お前ほどの魅力があれば、魔物たちも言うことを聞くだろう」

「そうなの!?」

「試しにそこの森でも歩いてみるといい。そこそこの魔物が後ろに着いてくるかもしれない」

「マジか」



 それって、何気に魅力MAXって最強なんじゃないか。

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