2人目 賢者
今日もオレは村人A。
昨日勇者に告白されたが、それでも頑なにオレは村人Aでありたい。
「ここはミスカッド。王都の次に大きな街さ」
近付いてきた人にそう告げる。
「仕事熱心ですね」
「ああ、昨日の」
そこに居たのは勇者のパーティにいた落ち着いた感じの青年だった。
「ユーゴーと申します。昨日は失礼しました」
「わざわざ、どうも。シンタローです」
「職業は賢者で、パーティのコンダクターを担っています」
賢者とは、冒険者の中でも魔法を主に使用してバトルする者たちだ。魔術師や導師なんて言い方をする者もいるが、それは人それぞれ。
前世の記憶を持つオレだったら、あるコトを連想させるので、まず賢者とは名乗りたくないが。。。
コンダクターとは旅の添乗員みたいなものだろう。
「そもそも旅の目的ってなんなんです?」
例え村人Aといえど、この世界の主人公たちの目的を知ってもいいだろう。
「昨日の勇者タイガらとパーティを組んで、王都メルンを目指しているんですよ。ランクの高いクエストをこなせば、王より称号がもらえるんです」
なるほど。そういうゲームか。
オンラインゲーム系でよくあるパターンだな。
そうなると勇者が主人公というのは薄れるが、村人Aを選んだオレにステータスが設定されているのも頷ける。
「王様から称号ですか、すごいですね」
自分は興味がないが、自分を高めることに行動できる人は素直にすごいなと思う。
賢者ユーゴーはそこはかとなく嬉しげで、翠の瞳を細めた。
あれ、この人は勇者がオレに惚れたことを知っているのだろうか。
ちょっと探ろうと彼の名を出すと。
「あの、タイガって」
「あれの話はしないでいただきたい」
途端に表情が氷のように硬くなる。
あれ、なんか地雷踏んだか?
もしかしてパーティ仲は良くないのだろうか。
決まったストーリーのあるゲームと違い、オンラインゲームだったらパーティを組むのも自由だ。
例え目的が同じでも気が合わなければ解散も常だろう。
「それよりも貴方のことを知りたい」
「オレのこと?」
なんでまた?
「ええ。この街から出たことはありますか?」
「いや、出てもラフランズの森の手前とかそこの街道まで、ですかね」
「そうなんですね。出てみたいと思ったことは?」
「そりゃあ、あるよ。冒険者や行商人の話を聞いたり、王都の絵を見たりしたら。でもいろいろと難しいから」
モンスターと戦う力は皆無だし、護衛付きの馬車に乗る金も無い。
冒険者以外の人の旅行は、謂わば贅沢なことだった。
「でしたら私が王都に連れて行きますよ!」
「え?」
「私でしたら貴方の護衛もできますし、行ったことがあるので案内もお任せください」
嬉しいお誘いでもあるが、心なしか嫌な予感がする。
「でも勇者パーティと向かってるんだろ?」
「あいつらは放っておいても平気です」
「え」
あいつら、ときた。
賢者はオレの手を取る。
「ぜひ貴方の初めての旅路に、私を御同行させてください」
ユーゴーの勢いに気圧されていると、遠くの方からこちらに向ってくる者の叫び声がする。
「ユぅぅぅぅーゴぉぉぉぉー!!」
勇者タイガが叫びながら勢いよく眼前に飛び込んできて、オレとユーゴーを引き離す。
「抜け駆けズルいぞ!」
抜け駆けなのか。
「タイガこそ、今日のクエストは完了したのですか?」
「もちろん達成してきたさ!」
ふん、と鼻息を出す。
「あいつ、勇者のくせになまいきなんです」
そのフレーズ前世で聞いたことある。
本当に賢者かと疑ってしまう。
「今大事な話をしているところです」
「どうせお前もナンパだろ!」
「いいえ、もっと高尚で高潔なリクエストですよ」
翠の瞳が真っ直ぐオレを捉える。
えっと、これって、賢者も落としちゃた?
「邪魔が入ってしまいましたが、先程の件、心が決まるのをお待ちしております」
その微笑みが今のオレにはモナリザの微笑みより怖い。