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プロローグ



 転生したのだ、ということに気付いたのは物心ついた頃だった。


 幼い頃から時々、今の世界ではない世界の情景が過ぎり、自分の今の姿に違和感を感じることもあり、はじめは夢だろうと思っていた。

 だが、その今ではない記憶の中の情報に『転生』という言葉があった。

 今の状況はまさにそれだと悟り、自分の中のモヤモヤとも折り合いがついた。


 前世はしがないサラリーマンだったオレが、今は一歩街を出ればモンスターが現れ、剣と魔法を使える冒険者たちが旅に出る、そんなまるでRPGゲームのような世界で、村人Aとして生きている。


 そう、村人Aとしてだ。


 これが本当にゲームならまだしも、実際目の前にするとモンスターは怖いし、怪我したら普通に痛いし、残念ながら剣も魔法もイマイチ得意ではなかったので、勇者どころか冒険者になろうなんて気はさらさら起きなかった。


 冒険者とは、モンスターを倒し経験値を積み重ねてレベルをあげ、ギルドの設定したクエストをこなして賃金を得て、高価な装備を身につけさらに強敵に挑む、立派な職業だ。


 だかオレは前世が何万人ものファンのいるアイドルでも、世界を股にかけるスポーツ選手でもなく、一介のサラリーマンだったように、スライムからドラゴンまで倒すこともせず、囚われの姫を助けにラスボスに挑んだりせずに、一介の村人として一生を終えるのだろう。


 そもそもここストラベリィ国の姫は囚われてもいないようだし、ラスボスが何なのかはわからないのだが。

 まぁ、こんな世界だ、いるんだろうな魔王だか龍王だかが。


 それでも村人Aのオレには一切関係のないことだ。

 街の入り口で日中を過ごし、街にはじめて来る冒険者たちに一言。


「ここはミスカッド。王都の次に大きな街さ」


 まぁ、村人Aみたいだなと思って自称してるだけで、もちろんゲームと違ってそれだけで生きていくことは出来ないので、普段は荷下ろしの仕事をしている。

 住んでいるのも街だし。


 それでもカントリーサインや青い標識、『ようこそ○○温泉街へ』の看板もない世界だから、街に辿り着いたばかりの冒険者や商人たちから「ここはなんて街だい?」と聞いてくることは少なくない。

 簡易的なマップはあるもののグーグルマップなどないので道案内も人頼りだ。


 生活も前世の世界ほど便利ではなく、蛇口をひねると水が出たり、スイッチで電気が点いたりすることはなく、水は汲みに行くか業者に運んでもらうし、薪を積んで火打ち石を使って灯したりと至って原始的。

 生まれた頃からなので慣れてはいるが、時々前世を羨ましいとさえ感じる。


 交通手段は馬や牛に似た魔物に引かせる車が主流だが、そろそろ蒸気機関などが生まれても良さそうな頃合いだろうか。


 変わらずあるのは太陽と月と星々、大地と海と山河あり。



 転生前の記憶があるからこそ、ここをゲームのような世界だと思うが、他の人はそんな記憶は無いようで、これが当たり前で、日常で、寧ろ生命のないモノが動く方がよっぽどファンタジーのようだ。


 ファンタジーな世界の紹介はこの程度にしておくとして、自分のステータスを見ることができるのもゲームの世界らしい点だ。

 ここがゲームの世界っぽいなと思った時に何度か面白がってみていたが、村人Aとしての普段の生活に一切関係ないので存在すら忘れていたそれを、久しぶりに開いてみる。



**********

シンタロー

レベル12

HP140

MP60

攻撃力35

防御力30

魔力25

知力30

速力30

魅力999

**********



 まさに村人Aらしいステータスだなとひとりごちて画面を閉じる。

 因みに他人のステータスは見ることが出来ないので比べることが出来ない。

 そもそも、いち村人Aにもステータスやレベルが設定されてるもんなんだな。5で割り切れる数なのが手を抜いてる感は否めないが。


「ん?」


 何か引っかかるものがあってもう一度ステータス画面を開く。

 5で割り切れない数字があったなと思い返しながら、もう一度上から確認していって、一番下のステータス欄に目を止める。


「魅力999?」


 なんだこれ。

 999ってMAX値だよな、たぶん。いつからだろう。

 いや、そもそも魅力ってなんだ?

 そんなステータスがRPGにあっただろうか。恋愛要素も含まれるRPGなんだろうか。

 だとしても、冒険もしない一介の村人Aに魅力もなんもなかろう。その辺の町娘と恋して結婚するのに高い魅力値が必要だろうか。


「バグかな」


 それならば他に支障のないバグだといいが、と現実とゲームの境目がわからなくなるようなことを考えてしまう。

 もしや、この街に訪れる冒険者たちを魅力で落とせばいいのか?

 ヒロインのハートを奪って勇者をヒヤヒヤさせるのが目的なのか。


 いや、それってもう、ただの村人Aにあらず!


 勇者に敵認定を受けるなんて以ての外。

 オレがラスボスに成りかねない。それは御免だ。

 鏡を見てみるが魅力999の影も形もそこにはない。

 ありふれた髪色に、肌も瞳の色もこの辺の街の人となんら変わらないし、身長も体重もごくごく平均。

 これといった特徴のない平凡な村人Aらしい顔をしてやがる。


 やはりバグだな。ちゃんと仕事しろゲーム会社め!

 ……って違うか。

 これは現実だから設定したのは神とかそういった……わからん、考えるのを諦めた。



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