呼び方
「せんぱーい!最近めっちゃ機嫌いいですね!
もしかして付き合ってるとか??」
またこのうるさい後輩は僕をからかってくる。
でも、仕事は一生懸命、いつかは僕を追い越すと言って、
仕事後の練習も根気よく打ち込んでいるカワイイ奴だ。
「まだそんなんじゃないよ。藍子ちゃん焦らせたくないし」
「へー、先輩、藍子ちゃんて呼んでるんすね。
藍子さんは先輩のことなんて呼ぶんですか?」
最初はマサトさんと読んでいた彼女は、
いつのまにか僕のことをマサト君呼ぶようになった。
本当は、さんも君もいらないけど、
僕が呼び捨てを嫌がって、藍子ちゃんて呼ぶから、
向こうも合わせてそう呼ぶんだろうと思う。
女の子を呼び捨てするのは、なんだか偉そうに聴こえて好きじゃない。
「マサト君」
僕は後輩にそれだけ伝えてながら、開店準備する。
「へぇ…随分よそよそしいっすね。
付き合うまではまだまだって感じっす」
さらっと言った後輩の言葉が引っかかる。
自分は特にそうは思わないけど、
普通の人はそういう風に思うのだろうか。
彼女は…彼女も距離感を感じるのだろうか…。
「関係ないんじゃない?呼び方なんて」
「えー?
だって、特別な関係だから呼び合える名前ってあるじゃないですかぁ。
特に女の子って、特別感に幸せ感じるって言うし…
まぁ、付き合ったら変えればいいんじゃないスか?」
興味があるのかないのか、
曖昧な返事をこいつはしてくる。
今思えば、彼女は…藍子はどうやって呼ばれたかったのか
僕のことをどう呼びたかったのか。
最早知るすべはない。