メッセージ〜返信〜
それから怒涛の予約を終えて、
気づけば外は真っ暗。
最後のお客さんを見送ると同時に閉店時間になった。
21時か…
彼女からメッセージをもらって
早7時間が過ぎようとしていた。
今更…どう返せばいいんだろうか。
「疲れたーーー!」
後輩が大きく伸びをしながら大きな声を出した。
「おつかれ。
今日は久し振りに怒涛の予約ラッシュだったな。
できれば間少しあけて取って欲しいけど…」
流石に疲れて僕も受付にちょこっと愚痴を言う。
「だってー、結城さん目当ての人たち捌き切れないんですもん…」
「まぁわかってはいるけど…
せめてメッセージの返信する時間くらい欲しい…」
誰にともなく呟いた声を後輩が聞き逃さない。
「先輩!もしかして返事きたんですか?」
ワクワクした目でこちらをみるから、
他のスタッフも興味津々だ。
「しっ!お前…まぁ…今日来た」
後輩にだけ聞こえる声で言ったのに、あいつは
「わー!先輩の恋一歩前進ですね!!」
ってでっかい声で叫んだ。
「えー?結城さんが恋バナ?!」
「しかも追いかける側?」
「天変地異が起きるんじゃ…」
みんな口々に言いたい放題で
一気に疲れが押し寄せた。
「あー、もううるさいうるさい!
こいつが勝手に妄想してるだけだから!
じゃあ明日もよろしく」
「えーもっと聞かせて下さいよー!」
「写真はー?」
まだ騒いでるスタッフを残して駐車場へと急いだ。
早く一人になりたい。
一人になって、返事考えないと!
車に乗り込みエンジンをかける。
そして、もう一度昼に来た彼女からのメッセージを読んだ。
今日は早く帰るのかな…
そんなことを思ってみる。
いや思ってるんじゃなくて
それを聞けばいいんじゃないか?
『藍ちゃーんお疲れ!
そうだったんだ?それは大変だったね。
身体大丈夫?今日は早く帰れるのかな?
僕も返信遅くなってごめんm(__)m
怒涛の予約ラッシュ朝から晩まで休憩20分だった(笑)』
悩んだわりには、また軽いメッセージを送った。
そして、レバーをドライブに入れて、駐車場を後にする。
ブーブー
え?まさか、もう返事?
助手席にほっぽり投げたスマホが震える。
こんな時に限って信号で全く捕まらない。
あまりにも耐えきれず、通りすがりのコンビニに車を停めた。
「結城さんもおつかれさま。
休憩20分だけ?!ご飯ちゃんと食べてないんじゃないですか?
夜はしっかり食べなきゃダメですよ?
それでお風呂入ってゆっくり休んでくださいね(><)」
あちゃ…自分の事入れたばっかりに、
僕が質問した答えは一つも返ってこなかった。
この時は、そう思った。
けれど、この後1年と少し続く僕らのやりとりでわかった事がある。
彼女は、どんな時でも自分の事より僕の事を心配していた。
どんなに辛くても、どんなに苦しくても、どんなに痛くても…
僕にもっと彼女を思いやる気持ちが備わっていたら
もっと違う接し方ができたかもしれない。
けれど、1年と少しの間、ずっと……
僕の事を気遣ってくれる優しい彼女に甘え続ける事になる。
何も知らないまま。
何も知ろうとしないまま。
その日を境に、
僕と彼女の他愛もないメッセージのやり取りが続いた。
結局、彼女の誕生日には触れられないまま、
カレンダーは7月へと入ろうとしていた。