メッセージ〜受信〜
ー藍子ちゃん から 1件のメッセージー
んぐっ……
サンドイッチを喉に詰まらせながら
慌ててメッセージアプリを開く。
焦り過ぎて別のDMに触れてしまう。
まるで漫画みたいだが、
あれはあながち本当の表現らしい。
やっとの思いで彼女からのメッセージを開くと、
思っていたより長めのメッセージがそこにはあった。
『わざわざ探してくれてまでメッセージありがとう。
返事遅くなってごめんなさい。
実は、今週営業時間が長かったから、
バタバタしちゃってて(><)
今日明日はようやくゆっくりな営業ができそうです』
そして、ぺこりと謝っている猫のスタンプ。
ただそれだけで、僕のテンションはだだ上がり。
今すぐ返事を…と、考えては消し…を繰り返す。
そのうちに…
「結城さん、お客様お願いします」
結局送れないまま、あっさりタイムリミット。
スマホを一旦消して、ポケットに戻す。
仕事モードに切り替えなくては…
しっかりそう思ったけれど、無理だったらしい。
「あら、マサ、良いことでもあった?」
マダムにあっさり見透かされた。
一生懸命余裕な顔を選んで、
「え?なんでですか?」
と、白々しい嘘をつく。
「わたしには隠しても無理よ?
あなた…恋でも知ったかしら…クスクス…」
そう言って楽しそうに笑うマダムに、
つい赤面してしまう。無言の肯定だ。
「ほんとに?驚いたわね…
でも、嬉しいわ?やっぱり人間恋しないとだもの。
これで、あなたの腕ももっと上がるわよ」
「そんなもんですかね?」
マダムの言葉の意味はその時はまだわからなかった。
けれど、自信たっぷりにそう言われると、
それは間違いないんだと思ってしまう。
マダムにはそういう力があった。
「だと、良いですけどね」
そう笑いながら言って、すぐにシャンプー台へ。
僕の長いお客さんたちは、
シャンプーをアシスタントにはやらせたがらない。
自分がアシスタント時代から
一生懸命磨いてきた技術の一つだから
そう言ってもらえるのは本当に嬉しい。
「お湯流しますね」
好みも全て把握した湯加減、力強さ。
シャンプーの香りのチョイス。
いつか、彼女の好みも全部知れる日が来るだろうか。
好きな人の髪を洗うのは、どんな感じなのか…
ふと、そんな事を思い浮かべてしまう。
恋は盲目…確かにな…
仕事中だというのに、彼女のことを考えてしまう。
早く返信がしたい。この後うまく時間が空くだろうか。
彼女はどういうつもりで、ようやく落ち着いたと知らせてきたのか。
今日や明日なら、ゆっくり応対できるよ…って意味かな?
僕にきて欲しいとか…いやいやいや…それはないだろ…
色んな事が頭を埋め尽くす。
ふと、自分の下から笑い声が漏れる。
「ふふ…あなた…
今好きな子の事考えてるでしょ?」
なんでわかったんだ!
「そんな事ないですよ?」
出来るだけ普通を心がける。
「嘘おっしゃい…。いつもより手つきが優しいわ?
まるで、私があなたの大切な人かもって
勘違いしちゃいそうよ?クスクス……」
そんなにあからさまに出るわけない。
からかわれているんだ。
僕はその時はそう疑わなかった。
でもそれが本当だとわかるのは、まだ先の事だ。