再会
そして翌日。時刻は13時。
休みだった僕は、軽くランチをしてから
あの日と同じ場所に立っていた。
今日も暑い…
まだ6月中旬だというのに、もう夏を連れてきたようだ。
誕生日の頃には、うかうか外には出られなさそうだ…
来月やってくる自分の誕生日の頃を想像してみる。
きっともっと暑い日になっているんだろう。
そこに……君はいるだろうか。
僕は目を皿にして周囲を見渡す。
君が通れば絶対見逃さない。
そして今日、君は僕の前に現れる気がしてるから。
ふと時計を見ると14時半。
もう1時間半も経っていた。
流石にこの暑さに少し参ってくる。
どこかで冷たい飲み物でも…
そう思って、カフェでも探そうと周囲を見回した時…
来た。やっぱり来た。
自分のなんの根拠もない推理。
それでも、ついに君を見つけた。
こちらに向かってやってくる。
今日はそんなに急いでもないし、
買い物袋は一つだけ。
心臓は、びっくりするくらいドクドクと波打っていた。
「あ、あの…」
なんだこれ…
自分でも驚くくらい声が震えた。
「は?」
あの日よりは幾分柔らかい君の声。
でも俺に気付いて見上げた顔は、
一瞬にして強張った。
「ま、またあなた…なんなんですか?」
彼女は足を止めた。
自ら、足を止めた。
そして、僕を見上げている。
なんて言おう?
そういえば、何にも考えてなかった。
「もう一度会える気がしたから…」
どこの三流ドラマだ。
「お茶でも」
ただのナンパだ。
「君のことが忘れられなくて待ってた…」
ストーカーじゃないか…。
浮かんでは消していく言葉たち。
「用ないなら行きます」
そう言って君は僕の元から歩き出すとする。
「ある!あるから呼び止めたの。
君の髪……触らせてくれない?」
「…………」
うわぁ…何言った今…
今まで浮かんだどの言葉よりキモチワルイ。
終わった…軽蔑された……
全身の体温がサーっと引くのがわかる。
「ふふ…ふ…くすくす…あはははっ」
絶望感に包まれていた俺の耳に聴こえてきたのは
まるで鈴の音を転がしたような笑い声。
「え……」
呆気に取られていると、
君は笑いを堪えずに言ったんだ。
「私じゃなくて、髪の毛に興味あるなんて
本当に仕事熱心なんですね…ふふふふ…」
笑っている…君が。
凄く可愛いかった。目を細めて、フニャッと顔を綻ばせて…
「ちがう!僕が興味があるのは…」
慌てて僕は必死に否定しようとするが、
君はコロコロ笑いながら更に言った。
「あはは、いいですよ気にしなくて。
私みたいのに声かける男の人なんていないですから。
得した気分て思っておきますね、じゃあ…」
そういうと、クスクスと肩を震わせながら
僕の前を君が去ろうとする。
「違うんだって…ねぇ、お店やってるの?」
ここで手放すわけにいかない。
咄嗟に彼女の肩に手をかけて引き止める。
「わ…」
少しびっくりして振り向く君。
「ま、まぁ…お店って言っても
一人でやってる小さな小料理屋ですけど…」
君は胸の合わせに手を這わせて
綺麗なカード入れを取り出した。
「よかったらどうぞ。逆営業ですね」
微笑みながら、可愛らしいカードを渡してきた。
「お腹空いたらいつでもどうぞ…。
でも、お兄さんのお口に合うのは無いかもですけど」
そう言ってにっこり笑うと、
彼女は再び足早に街へと消えていった。