有頂天
自分のせいで、藍子を一人店に残してしまった。
本当なら、明日休みの僕はちゃんと朝まで藍子に付き合うべきだと思う。
気持ちはそう思うのに、朝からの怒涛の忙しさに耐えた身体は
全く言うことを聞いてくれなかった。
謝罪文への返信が来てから、
いつものように他愛のないやり取りが続いていた。
けれど、気を抜くと意識が遠のいて、
ハッとしてスマホを見る。
彼女に返信するまでの間隔がだいぶ開いてしまう。
ついに今、彼女からのメッセージは30分も前に届いていた。
そして、勘のいい彼女は僕が睡魔と戦ってることを察している。
『無理しないで、眠かったら寝ちゃっていいからね。
明日、起きたら連絡くれればいいよ。
頑張った分、ゆっくり身体休めてね』
僕はとうとう諦めて、部屋の電気を消した。
そして、今日最後のメッセージを打つ。
『ありがとう。藍子ちゃんも明日無理しないで。
僕のせいで、ごめn…』
そのメッセージを打ち終える事なく
僕は深い眠りについていた。
「ん…」
翌朝、しっかり閉めなかったカーテンの隙間から差し込む
朝と言うには強すぎる光が僕の意識を覚醒させた。
「朝…か?アラームなってない?!」
一気に意識がはっきりする。
そして慌てて時計を確認した。
「あ…そうか、休みか…」
デジタルな文字が[Mon]と表示していた。
仕事がない事にホッと息をつき、
まだ気怠い身体を布団の中で伸ばしながら、
昨日の疲れを引きずっている事に気づく。
ふわぁ……
大きく欠伸をして、陽射しから顔を背けると
充電が完全に切れているスマホが転がっていた。
「あれ…充電しなかったんだっけ…ん?」
何か大切な事を忘れている気がする…
いつもなら確実に充電器を挿して寝るはずなのに…
その瞬間、夜中の藍子とのやりとりを思い出した。
「うわぁ!」
今度こそ僕は飛び起きて、慌ててもう一度時計を見る。
「11時?!やばい…」
慌ててスマホに充電器をさしこむが、
完全に0%になった端末はなかなか立ち上がらない。
ただでさえ朝帰りさせてしまった藍子に
何も連絡しないままこんな時間になってしまった。
眠ることもできずに待たせているのではないか。
僕は気ばかりが焦る。
漸く立ち上がったスマホの画面を
イライラしながら見つめる。
やっとホーム画面が表示されると、
すかさずメッセージアプリを起動した。
自分の打ちかけのメッセージが同時に目に入る。
「しかも寝落ちしてる…」
彼女からは、まだ何も連絡はなかった。
きっと、昨日から心配してくれていたから
起こしたら悪いとでも思っているのだろう。
僕は慌てて書きかけのメッセージを消して、
寝坊したことを伝える文章を送った。
『ごめん…今起きた(T . T)
昨夜も寝落ちしちゃったみたいでごめん』
ひとまずそれを送ると慌てて着替えを始める。
自分から誘ったデートなのに、大失態すぎる。
ブーブー
送って数分でスマホが鳴る。
勿論彼女からの返信だった。
『おはようハルト君(^-^)
ゆっくり休めたかな?謝らなくて大丈夫だよ。
今日はゆっくりおうちで身体休めた方がいいんじゃない?』
彼女こそ寝落ちしててもおかしくないのに…
『おはよう藍子ちゃん。
もう寝過ぎちゃったよ…(><)
時間短くなっちゃうけど、
藍子ちゃんが大変じゃなければ逢いたいな…だめ?』
彼女は僕を労ってくれるのに、
僕はといえば、彼女を休ませてあげることもせず、
自分の逢いたいという欲求を優先させている。
でも、今日を逃したら次いつ逢えるかわからないから。
きっとランチはできる。けど、それも自分の休憩時間だけ。
今からでも逢えれば、それよりはずっとゆっくり時間を過ごせる。
返信も待てずに、急いで洗面所に向かった。
きっと彼女は逢ってくれる。
ずるいけど、その確信はあったんだ。
だから僕は顔を洗い、髪を整える。
充電を挿してるから、スマホが手元にないのがもどかしい。
離れた場所でバイブレーションが鳴っている音がした。
一通りの支度を終えて、寝室に慌てて戻り、
彼女からの返信を確認する。
『私はもちろん大丈夫だよ?
でも遠出だと時間勿体ないし…
もうすぐお昼だから、ハルト君のお家でご飯作ろうか?』
その文章を何度も見直した。
何度読み返しても、彼女が家に…?え?
僕は慌てて部屋を見渡す。
元々物は少ない方だから、馬鹿みたいに散らかってはいないけど、
最後にいつ掃除したっけ…大丈夫か?これ…
すると、すぐにまたスマホが震えた。
『ごめん、急におうちって言っても困るよね(^^;;
私はどこでもいいよ』
「どうしよう…」
正直、彼女を家に呼びたい気持ちがあった。
何度も何度も、この部屋で笑っている彼女を想像した。
誰にも気兼ねせずに藍子を独り占めできる…
それだけでも贅沢なのに、ご飯まで作ってくれる?
もう一度僕は部屋を見渡した。
藍子の家からうちまで、どんなに早くても30分はかかる。
1時間と思えば、簡単な掃除はできるだろう。
『え?藍子ちゃんがご飯作ってくれるの?
めちゃくちゃ嬉しいんだけど!』
僕はそれ以上考えるよりも早く、そう送っていた。
そして、彼女からもすぐに返信が来る。
『わかった!じゃあ今から向かうね。
駅からおうちまでの間にスーパーある?』
凄い…夢にまで見た“お家デート”だ。
『スーパーあるよ♪
俺、駅まで迎えに行くね。一緒に買い物しようよ』
新婚さんみたいでしょ?
そう送りたかったけど、流石にそれは我慢した。
昨日の疲れもとっくに吹き飛ぶくらい、
僕は、完全に舞い上がっていた。




