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時計の針は左に進む  作者: 深月 愛
三章
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最期のこと

(そんな……)

僕は言葉を失った。


藍子の話を聞いていた僕は、耳を疑った。

そんなに彼女を可愛がって、親身になって、

家族だと宣言をしていた人が、自殺?


彼に何があったかはわからないけど、

唯一の家族を失って、今目の前の彼女はこんなに憔悴しきっている。

ついさっき、安易に兄と聞いてホッとした自分にも、

彼女を置いて命を絶った祐介にも、

同じくらい腹が立って仕方なかった。


「お店を開ける準備してたら…

祐介の働いてたクラブのボーイから電話がきて…

店長…祐介が死んだって言うの……」


涙を流しながら、それでも彼女は僕に話してくれた。








「何を言ってるの?笑えない冗談やめなさい?」


「藍子さん、マジなんです…俺も信じたくないです…

でも…昨日、オーナーが警察に呼ばれて…」


「うそ…」


「今からオーナーが藍子さんに会いたいって…

開店前の忙しい時間にすみませんが…いいですか」


「わかった…」



そこからは、何がどうなったのか、覚えていない。

気づけば、開店前の店によく知った顔が集まっていて

私に全てを突き付けた。



「ビルから飛び降りたそうだ」


「藍子に何か言ってなかったか?」


「店長…全然そんな素振りなくて……」


そんな話を聞かされても、私は信じない。

何も聞いてない。

家族にしか話せない話、私は聞いてない。


最後にあったのは…私の誕生日。

3店舗を管理する祐介は最近は忙しくて

電話以外はあまり会えていなかったけど…


「オーナーは…祐介に会ったんですか…」


死んだというなら、私は証拠を見ないと信じられない。


「いや…それが…」


「もう、ご遺体は実家で引き取ったらしいんです」


「実家?だって、祐介はもう15年以上実家に戻ってないし、

戻ってくるなって言ってたのは向こうだよ?」


つい私は声を荒げてしまった。


「それでも、あいつの身元はしっかりしてるからな。

最初にご実家に連絡が行って、お母さんが確認をして…

東京にくるの反対してたからな…

すぐに引き取りの手続きをしたらしい。

俺たちも、誰も連絡が取れないんだよ」


「なんで?オーナー警察に呼ばれたって…」


「俺が行った時にはもうとっくに引き取られた後だ」


「そんなすぐ?おかしいよそんなの!

だって昨日警察に行ったんでしょう?」


「あぁ、俺はあいつが持ってた遺品の中に店のものがあったから呼ばれた。

けど、家族からの意向で、引き取りがすむまで連絡しないで欲しいと

警察に頼んでいったらしいんだ。こんな仕事で恥さらしだって…

藍子…あいつが死んだのは4日前なんだよ…」


「4日前……」


私は…店のカレンダーに目をやる。

月曜…おあいこ屋は休みだ。

なんで…なんでそんな日に…なんで連絡もくれずに…


「俺たちもな、ちょうどお盆休みに入ってたからわからなかった。

普段なら1日連絡取れないだけで、おかしいと思うんだが…」


「お葬式は…」


ようやく絞り出した声は自分でも情けないくらい掠れた。


「どうだろうな…俺たちあいつの実家がどこにあるかも知らない。

警察で聞いても、個人情報は答えられないと教えてもらえなかった」


そんな…うそ…だ…。


「ひどいっすよね…。俺たち…線香もあげさせてもらえない…

お墓参りもできないじゃないですかっ…」


まだ若い、祐介の後輩のボーイが泣き出した。


「新潟生まれ…田上祐介…これだけじゃ俺たちもお手上げだ」


オーナーは泣き崩れたボーイの頭をポンポンと叩いた。


「藍子…お前にも渡すものがあってな」


そういうと、オーナーは一枚の写真を渡してきた。


「それは、お前が持っててやってくれよ。

あいつが最後まで大事にしてたんだろうからな」


その写真は、この店を完成させた時に撮った写真だ。

二人で、家族宣言をしたあの日…

桃色の徳利とお猪口を持って二人で撮った…。

祐介はいつも大事そうに手帳に入れていた。


これをオーナーが持っているということは…

本当にお兄ちゃんはもう…


「飛び降りたビルの屋上にタバコの吸い殻と手帳があったそうだ。

もしかしたら、最後にお前を見てたのかもしれん。

手帳は店の事もあるから渡せないんだが、

それは藍子が持っててやれよ…」


「…っ…。ありがとうございました」


「それと……」


オーナーは言いかけて、少し躊躇する。


「どうしたんですか…?」


「いや…確証のある話じゃないが…

あいつが死んだ日、この辺りであいつを見かけた奴がいてな」


「え…?」


「もしかしたら、最期にここに来たかもな…」


「だって…月曜は休みだって…」


「…だから…じゃないかな。

いや、俺だってわからないけど…なんとなく

あいつはここで、お前に別れを言いに来た気がした」


そんな…ずるい……



私は必死に涙を堪え、

写真を受け取ると、深く頭を下げた。


「何かあったら、いつでも俺に言ってくれ。

俺だってお前を娘みたいに思ってるからな?

くれぐれも…藍子…お前変な気起こすなよ」


オーナーはそう言うと、ボーイを連れて店を出て行った。

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