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時計の針は左に進む  作者: 深月 愛
一章
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出会い

僕はあの日、次のヘアモデルを探していた。

コンテストの構想は何となく出来ていた。

でも、いまいちピンとこない。


「永遠を誓う」


そんなタイトルに彩られた、ウエディングテーマ。

永遠てなんだ?誰に何を誓う?

永遠の…愛?そんなものがこの世にあるだろうか。


そんな事をぼんやり思うながら

街行く女性を眺めていた。


彼氏とデート中の幸せそうな女性

友達と笑顔で会話する女性

仕事中なのだろうか足早にかけていく女性…


この人たちは、いつか誓うのだろうか。

「永遠」の「愛」を。


今日も空振りか…

うだるような暑さの中、

もう体力も気力も限界だった。


店に戻ろう…


そう思った時、君は現れた。


綺麗に着物を着こなしているのに、

その顔は汗で髪を張り付かせている。

両手にはスーパーの買い物袋。


足早に僕の前を通り過ぎた。


それは決して美しい姿とか

凛とした…とか、そういうものではなかっただろう。


けれど、君を見つけた僕の両目は

逸らすことができない呪いにかけられたんだ。


「すみません…!」


咄嗟に声をかけた。

君はすこぶる怪訝そうな顔で


「は?」


と言った。


そして、僕の顔を見るなり

何も無かったように通り過ぎようとした。


そうだよね。

決して落ち着いてるとは言えないカラーメッシュを入れた髪色、

男なのに肩近くまで伸ばした襟足。

実際よくホストにも間違えられる。


出勤前の僕はデニムに白シャツに夏用のベスト。

どれだけ君にはチャラいやつに見えたかな。

きっとナンパだと思ったよね。


「待って待って!」


ついその肩に触れてしまった。


「なんですか?ナンパならもっと若い子いるでしょ?

しつこくすると大声出しますよ?」


厳しい目つきのまま、それでも君は足を止めない。


「違うっ…違うんだ、僕、美容師やってて…

嘘じゃない。ここ、ほらこれ…」


卑怯だとは思ったけど、片方の買い物袋を掴んで引き止めた。

すると君はようやく足を止めて僕を見たね。


「ちょっと!私急いでるんです!見てわかりません?」


僕は無理やり買い物袋にショップカードねじ込む。

もちろん、自分の名前と携帯番号も手書きで書いてある。


「ねぇ、ここ調べてみて?

俺今ヘアモデル探してて…いや、モデルやらなくてもいいから

一度お店に来てみてよ!絶対後悔させないから!」


今思えば、あんなに必死に誰かを引き止めたのは

人生で初めてだったんだ。

君だけは、去ってしまうのが嫌だった。


名前も知らない、どんな人かも知らない、

そんな君のことを、どうしてもこの場限りにしたくなかった。


「連絡先を…」


「失礼します」


僕の声を無視して、君はずんずんと人ごみに消えていった。


そりゃそうだ。

こんないきなり声をかけられて

ホイホイ連絡先なんか交換するもんか。


自分だったら絶対教えない。

あぁ…これまでか…


僕の手の中から、何か大切なものが

スルリと抜けていった気がした。

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