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時計の針は左に進む  作者: 深月 愛
三章
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既読

忙しい週末を終えて、月曜日。

疲れて帰ったはずの僕は結局朝方まで寝付けなかった。

こんな時、眠気が来るまで彼女とやり取りしていたのが懐かしい。


「もう…一週間か…」


時刻はまだ昼前。

休みの僕はすることもなくベッドの上で目を覚ましていた。

やる事といえば、相変わらず返事の来ないスマホを眺める事。


僕からの送信ばかりの画面をぼーっと眺めていた。


「藍子ちゃん…何があったんだよ…」


今までなら、一週間も連絡が取れない相手を気にしたりはしなかった。

けれど、彼女は本当に特別だった。

僕の前からいなくなって欲しくない。

嫌いになって欲しくない。

初めて、そして改めてそう思った。


「ん?……んん?!」


それは何度も眺めていた画面だけど、

今日は違うことがある。


ー既読ー


昨日までは、いや、今朝までは全く読まれてもいなかった

僕からのメッセージに全て「既読」とついている。


僕は慌ててリダイヤルを押す。


ぷるるる…


しっかりと呼び出し音が鳴る。

けれど、その音は無機質な音声へと変わってしまう。


「後ほど掛け直します…」


メッセージを残すこともできない留守番電話。

けれど、少なくとも着信を残せた。


通話を切ると再びメッセージアプリを立ち上げる。


『ちゃんとご飯食べてる?』


結局ひねり出した言葉はそれだけ。

大丈夫?何かあったの?どこにいるの?

沢山聞きたかったけど、負担になるような事は言いたくない。


僕はひたすら送ったメッセージを見つめる。


ー既読ー


「!!」


ついに僕は跳ね起きて、ベッドの上に正座をした。

もう一度電話をかけようか…それとも…


色々と頭を巡らせていると

手の中でスマホが揺れた。


『マサトくん…ごめんね』


たった一文。でも、

それは僕がこの一週間ずっと待ちわびた彼女からの返信。


『ううん!謝らないで?

今どこにいるの?おうち?』


『お店』


僕は返事をするのももどかしく、慌てて顔を洗い、

大して選ばずとりあえずの服を着て家を飛び出た。


お店にいるなら、会えるかもしれない。

昼前だから、営業してるわけでもないだろう。


なんの約束もしないで、迷惑かも…

けれど、会わなきゃいけない。

とにかく、会わなきゃいけない。


車を飛ばして、職場の駐車場に停める。

そして、一目散に彼女の店の前まで走った。

店の前につくと、そこには何度も見た

〔臨時休業〕の綺麗な文字。

中も電気はついていない。


本当にここにいるだろうか。

もしかしたら、来る間に帰ってしまったかも…


昼間はほとんど人通りのない路地に

僕はしばらく立ちすくんでいた。


ーガタっー


その時、暗い店内から物音がした。


「藍子ちゃん…?」


勇気を出して、扉に手をかける。


ガラガラガラ……


木と曇りガラスで出来た引き戸を開けると、

こじんまりとしたカウンターだけのお店が広がり

その一番手前端の席に彼女は突っ伏していた。




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