後編（二日目・知）
朝が来た。来てしまった。まだぼんやりとしている頭で考える。
そうだった、彼女の研究に付き合わせれて一泊したのだった。そして夕食後に……奴と会ったんだ。こんな危険なところにはもう居たくない。バイトなんてどうでもいい。彼女にはっきり断ってしまおう。
決意を固めたボクは部屋に用意されていた寝間着けのまま、彼女の部屋に向かった。息を整えてから二回ノックする。無言だった。
おかしいな、食堂は先に確認したからここにいるはずなのに……。
「あの…………？」
ドアノブに手をかけていたせいか、思いもせずドアが開いてしまった。鍵をかけていなかったようだ。
そして、ドアの隙間から彼女の様子を窺おうと………。
赤。
部屋は赤一色だった。
真っ赤。
真紅。
朱色。
緋色。
これは、血か。血。血。血。血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血。血だ。
壁一面にびっしりと血が付着している。
彼女は血の海に沈んでいた。全身から血を流し、もはや肉片と化していた。肉の塊だ。昨日まで話していた人間が肉塊となった。
「………う、や、ぉええ……」
遅れてやってきた正常な反応がボクの頭に考えるだけの余地を戻してくれる。何があったっていうんだ。まさか、殺人鬼が……？
「ぎゃはははははは！」
聞いたことのある声が聞こえた。絶対に忘れることのない声。奴だ。
「よう。目が死んでんぞぎゃはははは」
「なんで……殺したの？」
違う。こんなことを聞きたいんじゃない。
「なんでってか？面白い質問だな。俺の世界には邪魔な存在だから殺したに決まってんだろ」
「君の世界？」
違う。なんで逃げないんだボクは。
「いつも俺の世界は俺だけで終わる。自己完結ってのはそういうことだ。ぎゃはは」
「ってどうして、夜じゃないのに……」
違う。質問なんてしてる場合では……！
「あの女の作った薬を拝借したんだぜ。ぎゃはは」
「なんでそんなものが―――」
「うるせえよしゃべりすぎだ」
それ以上はしゃべれなかった。奴に首を触られた瞬間、抑えきれない量の血が噴き出した。
止まらない。
止まらない。
止められない。
痛い。痛い。痛い。死にたくない！しにたくないしにたく―――。
「ぎゃははははは。目が死んでるぜ」
研究室からはいつまでも嗤い声が響いていたが、それを聞く者はいなかった。
お話はここまでです。最後まで読んでくれてありがとうございました。
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