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アイラとジョージ



 『獣たちの怨嗟の魔境』、


 長く野盗たちで悪い意味で言うなら独占されてきたステージ、

 空は紅く、黒黒とした雲が時折遮る黄色い太陽を覗かせる、

 赤白い煙が地面から立ち込め薄暗く、獣達の咆哮が絶え間ない、地獄、

 灰色の岩や、茶色の土の地面、そこが見ない崖、

 遠目からも複数確認できる、獣の赤い瞳、

 ここは、動物たちの、獣たちの怨嗟の魔境、そのもの。



「震えているのジョージ」



「ああ、変わっていない、記憶のそのままだよ、いやそれ以上になっているようだ」

           





       この地獄は






 ―――2000年前、

 『獣たちの怨嗟の魔境』、龍人は一つの白い物体と、

青髪の少女が獣に襲われているのに遭遇し助けた。その直後である。



「大丈夫か、おい、こっちは人の言葉わからんか」



「クワックワッ(いやわかる、話すことはできないがわかるぞ人間)」



「…(つ、よく、な、りたい、つ…よく…な)」



 少女は気を失う、精神的疲れが、人の所作が彼女の意識を奪う。



「子供がこんなところまで何を求めてきたんだかな、

しょうがねぇこういうのは放っとけねぇんだよなぁ」



 その夜、『獣たちの怨嗟の魔境の一角で龍人は不可視の休息を使い、

少女と、白い生き物を保護した。



「話には聞いてたがアニマ渡して使うと喋れるようになるんだな」



「ああ、ありがとう、吾妻龍人、人と喋れるなど夢のようだ」



「結構堅苦しい話し方だな、面白い」



「私はジョージ、かつて人のペットとして飼われていた見ての通りのアヒルだ」



「ジョージか、で、その娘はどうしたんだ、なにがあった」



その娘、青髪の少女、

泥だらけの少女は龍人が掛けた黄土色の毛布の下でスヤスヤと寝ている。



「その娘は魔獣に殺されそうになった私を助けようとして、

手ひどくやられたようだ、

そこそこの手練のようだったがあれほど囲まれてはな、

ここも初めてのようだった。私は無力で、何もできなかったよ」



「…見た限りまだ11、良くて12歳、この地獄でもがく理由…ね…」



「素人目にも鬼気迫るものがあったよ、彼女には感謝しかない、

龍人が来るまでの時間は十分に稼いでくれた、

彼女がいなければ私は今こうして話していない」



「そうか、事情はわからんがおまえの命の恩人ってわけだな」



「ううぅ、あああっ、ああ、ああああッ」



「!? 落ち着け、大丈夫だ、」



 突如暴れだした少女を龍人は落ち着かせようと優しく取り押さえる。



「ッッッ…こ、ここは」



 青髪の少女は冷静さを取り戻し、ここがどこかと問いただす。



「心配するな、もう夜で不可視の休息を使ってる、朝まで問題はない」



「あ、あなたは」



「噂くらい聞いたことあるだろ、脳筋おじさんだよ」



 龍人は少し最後に微笑みながら脳筋おじさんであることを告げる。



「の、『脳筋』、吾妻龍人っ」



「お、知ってるか、お前の名前は」



「アイラ、アイラ・ノーズ」



「アイラか、起きて早々あれだが、なんでこんな危険な領域に、ステージに来た、

まだ多く見積もっても12歳くらいだろ、

ここまで来れるってことは初心者ってわけじゃないんだろうが」



「……」



 アイラはうつむき黙り込んでしまう。



「まぁ話したくないなら話す必要はないがな、

俺の性分というか若干関わった人間には過干渉気味なんでな、

気にしないでくれ、…お茶だ、飲むだろ」



 龍人はお茶の入った白いカップを右片手にアイラに差し出す、



「……ありがと」



 アイラはそれを両手で受け取り、感謝を述べる。

 アイラはゆっくりとお茶をすする、

 更に少し和んだ表情を取り戻した少女にアヒルのジョージが話しかける、



「アイラ、ありがとう、私の名前はジョージ、心から御礼を言いたい、…ありがとう」



 そのジョージの感謝の言葉と、翼と体を使った感謝の仕草は確実にアイラに伝わった。



「……アヒルが喋ってる」



 その感謝よりアイラの興味は白いアヒルが人の言語を使いこなしていることにあるようだ。

「龍人にアニマを譲ってもらってね、人間と意思疎通ができて、今最高に興奮しているよ」 



「…そう…よかったね」



 若干興奮した面持ちのジョージにアイラはジョージの白い頭を撫でながら相槌を打つ、

 その様子を暫く眺めていた龍人は話を切り出す。



「それでおまえはこれからどうする、また無茶してあの先を攻略するつもりか?」



「…できるなら」



「……提案だ、出会ったのも何かの縁だ、

 こいつをアイテールまで送り届けて、それから俺と攻略じゃダメか?」



「……わかった、それでいい」



「よし、決まりだな、ジョージもそれでいいな」



「ああ、それで構わない」



「アイラ、眠たくはないか?」



「うん、大丈夫、休んだから」



「とりあえずこのタオルで体を拭け、介抱しようにもできなかったからな」



 『光の衣の柱石』でお互いに本登録しなければ他者が服を脱がしたり、

 装備品を外したりはできない。



「…わかった」



 夜はけていった。



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