兜の男
「強かった、アイラさん、やってみないとわからないけどまだ敵わなそう、
全部見せてもらえなかったみたいだし、」
「驚きました、
アイラさんのアレを手加減があったとは言え初見であそこまで躱すなんて、
未だかつて見たことがありません」
「えーとノクティスさんでしたっけ? そうなんですか?」
「はい、ノクティス・ディクタスと申します。
そうですね、跳ねっ返りの新人や、レベルが上って調子に乗ってきた中堅の生者に対し、
たまに見せてくれるんですが皆初撃すら躱せず両断されていますね」
「やっぱり旭ちゃんすごいッッ! えっへん!」
旭は胸を張りながら少し上を向く、鼻が天狗になっている。
「あの~ノクティスさん?、こいつ褒めるとろくなことないんでその辺で……」
「いや、傍目から見たら褒めるしかないですよ。
基準が『最強の脳筋』ならそうなのかもしれませんがね」
「ま、そうなんだよなぁ……、半年であんなもんふつー避けられないからなぁ」
龍人は困ったように肯定する、それは事実である。
「やっぱり? いやー龍人あんまり褒めてくれないから今日はご褒美かなっ、ふふふーん」
旭の鼻が通路の天上に届きかけたその時、
一人の全身甲冑で着込んだ生者が後ろから追いかけてきて話しかけてきた。
「えへへ、ノクティスさん、少しお聞きしたいことが」
「新人の、イツキ・オーガだったな、どうした」
「いえね、なにぶんまだここに来て3ヶ月程度なもんで、
そちらの御仁が、かの有名な脳筋、吾妻龍人さんで?」
「ああ、そうだ、それがどうかしたか?」
ノクティスは答える、彼が吾妻龍人だと、龍人はそれを黙って見守る、
「いや、特に意味は無いんですけどね、いや、失礼しました、
これから雑務がありますんで、引き止めて申し訳ない」
「ああ、しっかりやるように」
イツキ・オーガはそそくさとUターンし消えていった。
「なんだあのフルフェイス野郎は、」
龍人は若干の違和感を感じているような表情でノクティスに訪ねる。
「3ヶ月ほど前うちに来た件の跳ねっ返りの生者ですよ。
ここに来てしばらくしたらどういう意図か知りませんが
稼いだアニマでフルフェイスの兜を買って、
気に入ったのか透過せずそのままで生活してますね、
余程気に入ったか、裏があるか、…まぁ大概は後者でしょうが、
まだこの世界にきて数ヶ月では野心があろうとどうしようもないでしょうし、
あれから真面目に狩って稼いでますからアイラさんも私も放っておいてます」
兜装備は存在するが9割以上装備しない、装備したとしても頭のみ透過することが許されている。
「……そう、か、イツキ・オーガね…」
龍人は何らかの引っ掛かりがあるのか含みを持たせる声音で
そのフルフェイス男の名前を復唱する。
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない」
「龍人?」
旭も若干気にかかったのか多少の心配を含んだ声音で彼の名前を読んだ。
龍人は忘れたかのように話を元に戻す。
「話は戻るが、こいつも成長してきたし、自分で調節できるだろ、ほれ調子に乗っとけ」
「えっ? 話挟んだ上に、なんかそう言われても…」
「天邪鬼、というやつですね、旭さん」
「そうです、どうしても誰かに言われてやるのは瞬時にはできないんですよねぇ…」
ノクティスの指摘に旭は相槌を打つ、
「まぁ俺もそうだ、気にすんな」
「お話のところすみませんがここです、
この橋から先が『獣たちの怨嗟の魔境』です」
洞窟の出口、この先を少し行けば『獣たちの怨嗟の魔境』、
ここからでもなにか嫌なオーラを感じるほどに不気味、見張りが二名、
出入り口に立ち尽くしている。
「異常無いな、ガロウ、アレックス」
「ああ、」
「問題ない」
ガロウ、アレックスと呼ばれた野盗二人、
ガロウは黒髪、ノクティスと同じような前髪、
そして後ろは長い髪をポニーテールにしている
中肉中背の片手に虎徹を装備したそれなりにイケメンの男である。
アレックスは、
スキンヘッドで口をコの字に上から覆うように生えた髭が特徴的な
大斧を装備したおっさんである。
「案内ありがとうな、ノクティス、一つ貸しでいいぞ」
「アイラさんのご指示ですから、
それでもありがたく貸しだと思っておきます。
『脳筋の貸し』これほどこの世界で頼もしい物はない」
「よし、行くぞ、気を引き締めろよ、ジョージ」
「わかっている、邪魔しないよう全力で自身を守る覚悟はある、」
「お気をつけて」
「ああ、世話になったな」
「行ってきますノクティスさん」
「行ってくるぞノクティスどのっ」
龍人、旭、ジョージは、ゆっくりと『獣たちの怨嗟の魔境』に向けて歩みを始めた。
その背中が小さくなった時、ノクティス・ディクタスは後ろの二人を尻目に一人呟いた。
「騒がしくて賑やかな人たちだ」




