野盗の王
『仄暗い野盗たちの楽園』、
リディアの港から行けるステージ、
『野盗』、といっても第三者を襲い生計を立てているわけではない、
主に『仄暗い野盗たちの楽園』をねぐらとし、
その先『獣たちの怨嗟の魔境』からアイテールに来ようとする魔獣達を
近寄らせないためにそれらを狩ることでアニマを稼ぐ集団である。
特に目的もなく、
手作りのトランプやその他麻雀などギャンブル行為を嗜むための小物を自主制作し、
楽しくおかしく余生を過ごしたい者は大抵ここに入団する。
そしてある程度過ごしたら消えていく、
現在のテラ・グラウンド唯一と言っていいほどの生者集団である。
魔獣達に狩られずに、一度も死なないまま野盗達のもとに辿り着いた
稀有な存在が大抵始まりで終わりの村アイテールで動物商人クインテットになる。
「お前は…、脳筋、吾妻龍人か?」
難なく街道を抜け『仄暗い野盗たちの楽園』入ったところで見張り役の男が一人立っていた、
「ああ、ちょっと王に合わせてくれよ、話があるんだ」
「…わかった、ついてこい」
「空けていいのか? えーと」
「サキエル・ナルサトスだ、構わん、魔獣側の逆側なら別だがな、」
肌の白い龍人と同じぐらいの背丈のスキンヘッドの大男、
サキエルは快く案内をしてくれるようだ。
入り組んだ茶色い壁や地面の洞窟を抜け開けた場所に出る、
上からもし眺められるなら瓢箪のような小さな円と大きな円が繋がった場所、
その奥の小さい円の場所に机があり、
椅子に座り何やら仕事をしている様子の生者が一人、
近づく龍人と旭に気付き口を開ける。
「アイラ、脳筋が用があるとよ、」
「そうか、案内ご苦労、下がっていいぞサキエル、」
サキエルはそう言われると背を向け持ち場に帰っていった。
「でかくなったな、アイラ」
「久しいな、龍人」
「あなた、出会う度にそれを言うわね、もう成長はとっくに止まっているんだけど」
アイラ・ブルー・ノーズ、青髪のショートカット、
それなりに下に向けて不揃いにボサボサとまでは言わないが
それでもそれなりにまとまった髪型、瞳の色は青、黒いハイネック、
手首前までの長袖、黒い手袋、左肩のみ灰色の肩甲冑、
胸のラインがちゃんとでるベルトで支えられた胸甲冑、
その下は黒い下着の上に胸の始まりから太ももの部分まで続く
白い現世で言うスパツのような生地出できた服を身にまとい、
生者のベルトは若干向かって左斜め下に下がっている着こなしで、
黒いオーバーニーソックス、
ヒザ下から始まる足甲冑を装備した手のひらサイズのおっぱいが可愛らしい
絶対領域も確保してくれている女性としては身長が高い身長170cm程度の女性である。
「そうだったか? まぁ元気そうで何よりだ」
「それで、数百年ぶりか千年だか忘れたけどここを訪れたのはこの先の件?」
「ああ、察しが良くて助かる、噂は事実なのか?」
「事実だ、私が幹部と一緒に攻略しに行った際、
BOSSの霧に入ろうとしたら『カオスアニマを賭けて戦いますか?』
という選択肢が出てきた、当然そこで無責任に命を賭けることはできないからな、
引き返した、」
「いつぶりにBOSSに行ったんだ?」
「三ヶ月強…程度だろうか、私もそこまでアニマを集める気はもうないしな、
既にレベルも上がりづらい、勘を多少鈍らせない程度にとどめている」
「俺らがそいつと戦いたいんだが、構わんか?」
「…そう言うと思ったぞ、……条件がある、」
「なんだ? その条件ってのは」
「そこのアヒルのジョージを肩に乗せて黙って話を見守っているお嬢さん、
朝凪 旭だな?」
「えっ私っ?」
突如話を振られた旭は若干驚きながら左手で自分を人差し指で指しながら驚きの声を上げた。
「そうだ、脳筋の相棒、いや『白き痴女』か?」
「脳筋の相棒ですっ、設定上は白き閃光ですっ」
力強く旭自身が望む二つ名を主張する。痴女は断固として許さないと否定する。
「なんでもいい、私と立ち会え、なに、カオスアニマを賭けろとはいわんよ」
「!?」
「ずっと興味があった、『脳筋の相棒』、君にね」
アイラはそう言い放ちつつ椅子から立ち上がり、両の手にロングソードを展開する。
「おい、アイラ」
「龍人、『昔の女』が、『今の女』に興味を持った、ただそれだけだ、他意はない」
龍人の制止を意に介さずアイラは他意はないとそう続けた。
「はっ 昔の女? えっなに、そういうこと?、
おっぱい転がされちゃった転がらされ同士なのっ??」
アイラと龍人に視線を交互に何度もやりつつ旭は言った。
「いやいやないないない、俺にそんな過去はない、
こいつ今でこそこんな体つきだがあった時はつるぺた高学年女子小学生だったんだぞっ」
『成長』、
この世界に子供か子供の背格好で来た場合、『成長』が許される、
どこまで成長を許されるかは個体差がある。個人差がある。
アイラは見た目20歳前後の印象である。
アイラは元々現世で子供であったが、
現世で大人の人間が子供の背格好で来ることはかなり珍しいがなくはないらしい。
この世界、地獄、意味異世界『テラ・グラウンド』、
『例外』は何事にもつきものなのである。
『斎藤 一』も現世で死す寸前の老いた姿ではなく、
全盛期近くでこの世界に来ていた。
実際の所どうしてなのか、条件は何なのか、何も解明されてない、
世界がバランスを取っているのかもしれない。
ちなみに龍人と旭は死んだ寸前の姿である。
「えっそうなのっ龍人ロリコンだったのっ? あれ龍人が大きくしたのッッ」
「そうじゃねぇぇぇッッッ、アイラおまえ、
俺の二つ名を『脳筋ロリコンおじさん』にしたいがために画策してやがるなッッ!
絶対に襲名したくないぞッッ毎日修正したくないぞッッ」
自身で設定できる二つ名は集団的無意識にも左右されるので、
気づかぬうちに変わることもある、
ちなみに旭は『白き痴女』に早朝に変わっており、
白き閃光に毎朝律儀に修正している。
「旭も十七程度なのだろう? 誰かからしたらその『ろりこん』だろう?」
「いや、ややこしくするなよ、わかった、さっさと戦え、
俺は断じてロリコンじゃない。終わりっ」
龍人は一方的にロリコン疑惑を有耶無耶にし、否定し、話を進めることにしたらしい。
「それにしてもいいのかよ、負けちまったら他の連中に示しがつかんだろ」
「その程度で私の立場を悪くする認識する頭の悪い、
想像力の乏しい思考の連中はいないと信じているよ、
まぁどちらでもかまわないな、そんな評価、
この地獄で何の意味もない。文句があれば吹き飛ばすだけだ」
「さぁ準備はいいかな、『白き痴女』さん?」
視線を龍人から旭に向け直しそう旭を挑発するアイラ・ブルー・ノーズ、
不敵な笑みである。
「ジョージ、」
「ああ、健闘を祈る、」
旭はジョージを掴み床に降ろす、
そして顔を上げた旭の視線はしっかりとアイラの青い瞳を見据える、
右手にはロングソード、左手には鉄の小盾、
「『闇の衣の柱石』は私が使おう、異論はないな」
「はい、それでいいです」
しっかりとアイラを見据え返事をする旭、
アイラは『闇の衣の柱石』を取り出し闇に染まる、衣を纏う、
「やっちまえアイラー」
「俺らの王様ッッッ」
いつの間にか野次馬ができている、野盗の面々が十数人騒ぎ立てている、
旭とアイラは瓢箪部分の何もない大きい円の方に移動する。
そして旭は向かい合って制止すると一つ質問をする。
「一つだけ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「この世界にきて、何年なんですか」
「二千年程度だ、」
余裕の面持ちでアイラは二千年と言う、
旭は情報をインプットし一旦目を瞑り、目を開ける、そして言う、
「…わかりました」
「…いくぞっ」
アイラ・ブルー・ノーズ武器は双剣、
厳密に言うなら『血を好むロングソード』と、
『燃え盛るロングソード』二刀流、
かつてここに所属していた『理道正知』と似たようなスタイル。
アイラの片足が地面を離れる、
「ッッッ(速いっ)」
あっという間に間合いを詰めたアイラは双剣で攻撃を仕掛ける、
その剣閃は高速、熟練の生者の独自モーション、
筋力も、技術力もスタミナもこの世界の最高峰、
野盗の王、アイラ・ブルー・ノーズ、2千年を超えるこの世界最強の一人、
方や脳筋の相棒、白き痴女、白き閃光 朝凪 旭、
この半年、ステータス的にはかなりまともになったが、
それでもアイラと比べるなら様々なものが劣る、元女子高生、
「ッッッ」
苦し紛れの旭の攻撃はアイラの左手に持つ『燃え盛るロングソード』でいなされる、
旭は後ろを取られ、背中を押され倒れ、
バックハンマーを決められる、2.5倍のダメージが旭を襲う、
「ガッッッ」
「こんなものか脳筋の相棒は」
立ち上がる旭を尻目にアイラはその程度かと言い放つ、しかし、
「…ふふふ…すごい、おもしろいよ」
「? 何がおかしい(なんだ?)」
「ここ最近新しい刺激に飢えてたからっありがたいッ」
アイラは感じ始める、『違和感』を、感じざる得ない、
「ッッッ(なんだっこいつはっ痛みが、怖くないのか、確か、まだ半年程度、)」
「シッ(ここッッ)」
旭はアイラの攻撃の一つにパリーを試みる、
「痛っいたぁっ」
それは失敗する、涙目になりながら旭は視線をアイラに向け続ける、
その深緑の瞳をアイラは見つめる、
「おかしな、やつだな」
「もっと、見せてよ、あなたの2千年をッ」
「…いいだろうッ」
度重なる攻撃の嵐、繰り返されるダメージと回復、
「ッッ(ここっ)」
「ッッッ」
旭のパリーそれは成される、当然の致命の一撃、ロングソードの一撃、
お返しと言わんばかりの2.5倍のダメージをアイラに与える。
「ッッッッッ」
「これで終わりっ?」
「…舐めるなよ小娘、」
その表情に笑みはない、怒りと何かが混じったその気迫は嫌でも旭に伝わる、
「!?(変わった? なに、これはっいや、知ってる私は)」
旭の勘が盾の装備を外せと命令する、僅かばかりの装備重量を嫌う、
「よもや使うことになるとは、龍人の隣に伊達で立っているわけではないようだ」
「………(そう、そこは、私が立ちたかった場所、
立てなかった場所…今でも焦がれる場所、
これは、『嫉妬』というやつか)」
アイラ・ブルー・ノーズは構える、深呼吸を一つ、息を止め始まる、
「ふぅぅぅぅ…はぁぁぁぁぁ……」
「…(くるっ)」
頭を低くして高速の突進、初手は、高速の左の突き、そして打ち下ろし、
振りかぶる瞬間、それはもう振り下ろされている、不可避の攻撃、
アイラの足元は領域、黒い領域、それは不完全ではあるが領域の攻撃、
生者の限界を引き出した攻撃、しかし、
「ッッッ(ばかなっ)」
今までより、より速い、剣撃、初見、
旭は予測と勘と旭自身も足元に白き領域を発動させ、
これを栗色の髪を斬られながらも躱す、
「ッッッ(次はきっと横薙ぎッッよけ、かわ、いや、間に合わないッッ
剣でいなせッッ間に合えっ一瞬でいい、領域にッッ手だけでもッ動けッ、動けッッ)」
金属音が鳴り響く、
旭は自身から見て右から来るくる燃え盛るロングソードの横薙ぎの一撃を
自身のロングソードで受け止めた。いや、弾かれた、
「ッッッ(ウソッ弾かれたっなんてっ重さッッ)」
「シッッ」
アイラは突き刺そうとした右手の血を好むロングソードを旭の胸の前で止める、
「こんなところだろう、いや、理解したよ」
アイラは『闇の衣の柱石』を取り出し闇の衣を解除する。
「えっおしまい?」
「よくわかった、色んな意味でな」
「すげぇな姉ちゃん、伊達に脳筋の相棒名乗ってないなっ」
「アイラさんのあれあそこまで躱されたの初めてみたぜ」
野盗の一部に囲まれ賞賛される旭、
「えっあっあれっいやっ、はぁ」
突然の終了と見知らぬ男どもに囲まれ戸惑う旭、
「どうだ、俺の相棒は」
龍人は武器を収納するアイラにそう訪ねる、
「…それを聞くか? 言いたくないな」
アイラは意味深に答えたくないと返した。
「で、いいのか、おまえの心の条件は満たしたっぽいが」
「ああいいだろう、ノクティスっ、案内してやれ」
「はっ了解しました」
野盗の中で一人異彩を放つ男、ここに龍人たちが訪れた時、アイラのそばに居た男。
銀髪で長髪、前髪は左右に長く首元まで伸びている男、
ノクティスと呼ばれた青いマントと灰色の胸甲冑と腰甲冑と手甲冑と足甲冑、
黒い長袖のハイネックと白いズボンを着込んだ男が龍人のもとに歩いてくる、
「おい、旭嬢ちゃんを開放してやれ、
むさ苦しい男の汗を360度から嗅がせては危うく窒息死して大聖堂行きになってしまうぞ」
「きっついすねぇ、臭いで弄られるの結構男の子はグサグサ来るんですよ」
「カザル、なーにが男の子だ、身も心も純度100%のおっさんだろお前ら」
「ちげぇねぇ」
赤い生地に白い模様の入ったヘアバンドをしているカザルと呼ばれた
野盗に所属する生者がアイラに激しく野盗を代表していじられる。
「「「はっはっはっはっ」」」
野盗の野次馬たちは大笑いする。
「でもいくつになっても臭いを指摘されると結構心に来るんですよねぇ」
「しるか、でりけえとに扱って欲しいならノクティスのように
いい顔立ちに生まれ直して、なおかつ死んでテラ・グラウンドにまた来るんだな」
「アイラ…今日は冗談きついぜぇ」
カザルはそのいい終わりに何かに気づいたのか
握り込んだ右拳の横腹で
ヘソの前にある左の手のひらにそれを打ち込む、
何かに気づいたようである。
「あ、いつもか」
「「「はっはっはっはっ」」」
繰り返される野盗の大爆笑、
それを眺め落ち着いてきた当たりで龍人は話を先にすすめる。
「まぁもう少しゆっくりしてもいいが、行かせてもらうぜ」
「ああ、月次なことしか言えんが気をつけろよ、完全な未知だからな、龍人」
「ああ、ありがとな」
「お世話になりました、アイラさん、行ってきます」
旭は丁寧に頭を下げる、
「ああ、旭も気をつけてな」
「はい、ジョージほらっ肩乗ってっ」
「おお、すまない旭、では行ってくるアイラ」
ジョージは旭の肩に持ち上げられて乗せられ、アイラに向けてそう言った、
「ああ、ジョージ、久々に会えて良かったよ、お茶、いつもありがとう」
「なに、君がいたからこそ私が居るのだ、だが礼はありがたく受け取らせてもらおう」
「ああ、旭、ジョージを頼む」
「はい」
旭は頷くと龍人のもとに走る、
龍人と旭とジョージと案内役のノクティスは瓢箪の部屋にある
三つの通路のうちの一つに進んでいった。
「行っちまいましたね」
「ああ、…認めたくない……ものだな…」
カザルのその言葉にアイラは答える、
「……はい」
野盗の中でも古株のカザル・フォドルはそう返事を返した。
くさっっ くっっさっっ