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動物商人のお願い



 始まりで終わりの村、アイテール、

 茶色なのか黄土色なのかそんな感じの地面と、

 ところどころ適当に生い茂る緑の短い雑草達、

 青々とした海の見える丘の村、中心には灯火台、

 炎が気高く今日もしげっている。

 謎の銅像も健在、アイテールのサンタクロースも、糸目の茶髪商人も、

 金髪巨乳の神の代行者もそれぞれの配置に居るいつものアイテール、

 まる所アイテールは今日も変わらぬ様子である。


 その一角、松原商店の横、

 松原商店の出入り口から右に井戸を越え

 日陰に若干なっている部分に居る白い物体に龍人は話しかける、



「おう、今日はジョージか、精が出るな」



「龍人、こんにちは、本日はお日柄もよく、」



 丁寧に挨拶するこの白い物体、動物商人クインテットの一人、

 

 代表、リーダー、最古参、アヒルのジョージ、

 別名、シルクハットのジョージ、

 今日も黒の赤いラインの入ったシルクハットを着用し、中々に決まっている。



「あーうざいほどに雲はあるが意味晴天だな、お茶貰えるか、数は『適当』で、」



 龍人は左腕で太陽からの日光を遮りながら上空にある太陽に視線をやりそう言った。



「龍人、『適当』とは何ですか、

 お茶は我々動物商人クインテットが精魂込めて作りだす、

 テラ・グラウンドの癒やしですよ。」



 ジョージは白い右手、いや羽を上に上げ適当とは何だ、

 正確に数を指定しろと訴える、



「悪かったよ、いつも世話になってる、そうだな30袋頼むわ」



「了解した、三百アニマだ、龍人、先払いで頼むぞ」



「わかってるよ、ほい、三百アニマ」



 龍人はジョージの右の翼に触れ、譲渡申請する、



「確かに、渡すぞ、手を」



 三百アニマを確かに受け取ったジョージはアイテムポーチから30個、

 お茶の葉袋取り出して龍人に譲渡申請をする。



「おう、たしかに受け取ったぜ、いつも悪いな」



 龍人は受け取るとそう言いながら直ぐ様アイテムポーチに収納する。



「こちらとて商売だ、お互い様というやつだろう」



「まぁそうだが、お茶は役に立ってるからな、取引を超えた礼ってやつだ」



「そう言って貰えるとありがたい、日々の我々の活動にも気合が入る」



「まぁ『適当』ってのは創作においては『完璧』に近しいものだから、

 俺は好きな言葉なんだよなぁ、つい使いたくなる」



「そういうものですか、なぜ『適当』が『完璧』なのです?」



「適度に、当然のように置く、だから『適当』だ、

 遠くなく かと言って近すぎない、

 絶妙なバランスにいろいろなものを配置するんだ、

 完璧にしようと肩肘張って隙間を埋めすぎたり

 整列させすぎたりすると作り物感がですぎるとかな、いろいろあるんだよ。」



「なるほど、『適当』、少し理解しました。覚えておきましょう。」



「おまえの適当感も相当だと思うがな、

 だからこそ長い間その小さな体でこの世界に留まっているように見える。

 まぁ本人は必死に完璧を求めているのかもだが。」



「どうだろうな、

 ただ言葉が喋れて仲間が居て生きていることが嬉しいだけな気もする」



「……そうだな…おまえの行く末はどこなんだろうな、

 わからねぇけどおまえはきっと笑っていくんだろうな、」



「…転生…かな?」



「それは無理だろ、指輪しか装備できないからな、動物は…」



「冗談だ龍人。

 むしろ現世よりこちらのほうが私にとっては現世、夢はもう叶っているよ」



「なるほどね、で、話は変わるが、

 ここ1週間ほど雪原方面に遠征してたんだがなんか変わった事とか噂とかないか」



「? そうですね、…ああ、

 野盗の先の『獣たちの怨嗟の魔境』の『獣の王』が

 カオスアニマを賭けて戦うBOSSになったとかなんとか、

 事の真偽は定かではないですが、

 お茶を買いに来た野盗の一人がそんなことを2日ほど前に言ってたよ、

 他は特にないかな、変わらない地獄、テラ・グラウンド、いつものアイテールだ」



 お茶、


 それは全てと言っていい生者が求める

 この世界唯一の食事とも取れる行為のためのアイテム。


 現実とほぼ変わらない手法で作られ、

 アイテールの外れの土地で栽培され、手間ひまかけて蒸し、揉み、乾かし、

 その工程を経てようやく『お茶の葉』というアイテム名になる

 ありがたい物である。故に情報通でもある。



「なんだそりゃ? BOSSとカオスアニマを賭けて戦える?

 まぁヴァルディリスを取り込んだエルディオンって言う例もある、

 つまりはあれと同じ感じってことか?」



「と、もっぱらの噂、というだけだ。

 まぁ考えてみると当然『転生』を目指す脳筋としては

 最大級の噂だから確かめてみるしかないだろうな」

 


 忘却の騎士エルディオン、


 ルアーノ・ヴァルディリスを倒し、

 そのカオスアニマに触れ取り込んだ、文字通り『化物』、

 部屋に入るためにはBOSS前の霧を抜ける際

 カオスアニマを賭けて戦いますか? 

 という表示が出るようになった為、誰も挑戦していない立ち入らない、

 禁忌の場所と今現在なっている。



「そうだな、旭とも相談して明日辺り久々に野盗のところ行ってみるかな、情報サンクス」

「ちょっと待ってくれ」



 情報ありがとう、じゃあな、

 そんな感じでこの場を去ろうとした龍人をジョージは止める、

「??」


 龍人は怪訝けげんそうな顔で振り返りながらそのままジョージを見つめる、

 しばらくの思考の後ジョージはその黄色いくちばしを動かした。



「……そうだな、行くのなら、…連れて行ってはもらえないだろうか、龍人、」



「あ? お前が? 野盗越えて今どうなってるかよくわからん獣の魔境だぞ?」



 突然の突拍子もない提案に龍人は正気かと言う声音でジョージにそう言い放つ。



「あそこは我々動物たちの魂がこの世界で始まる場所でもある、

 …私は長く生き過ぎている、あの地獄をくぐり抜け、たまたま龍人達に救われ、

ここアイテールでクロウディアに出会い、生き方を教わった。

 彼女が去った後も、

 アイラたちは辛くも辿り着いた動物たちをここまで連れて来てくれる、

 ここで共に働き、満足して消えていった同士も数多くいる、

 今の我々があるのは君たちのおかげでもある。」



「で、その心は」



「…私が、いや自分がなぜ、

 この世界に留まり続けているのか…、

 …自分自身で理解したいのかもしれない、

 そしてそれが、そこにある気がする、

 人で言う、『予感』ですよ龍人、

 本来私の当番では今日はなかったのです、

 だが私は『気まぐれ』を起こし、

 そして働いた予感、

 私は本当は深層心理の奥底で君が来るのを待っていたのかもしれない」



「……わかった、旭は反対はしないだろう、

 まぁほかのクインテットにちゃんと話はつけとけよ、何があるかわからんからな、」



 龍人はアヒルのジョージの説明に真剣に耳を傾け、その理由に納得した様子である。

 長い付き合いの彼の、アヒルのジョージの『予感』、それはある意味他人事ではない、



「ああ、わかっているよ、ありがとう、龍人」



「なーに腐れ縁だ、我儘を言いたい時は言うべきだ、

 その我儘を聞けるときは聞くべきだ、情報と等価交換でもある。

 おまえは俺の世界の住人でもある。

 当然の、そして必然が、自然が取れている、

 良いバランスだという判断での決断だ。」



「では明日でいいかな?、何処で待ち合わせる?」



「早朝、またここに来るよ、」



 龍人はそう言うとジョージに背を向け歩き始める、

 その巨躯が身につける青黒いマントに、

 背中に向かいジョージは言う、



「了解した」




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