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龍人対ジャック 旭対アリス

挿絵(By みてみん)



 約束の日、十日後、ガルデアの塔中腹、広場、早朝。



「……」



 両者はただ、無言で相対する。龍人は投げる、

 カオスの契約書を。ジャックはそれをキャッチし、内容を確認する。

 そして妻、アリスに渡す、アリスもその内容を確認する。



「ジャック・ユーキリスは、」

「アリス・ユーキリスは、」



「このカオスの契約書に誓い、カオスアニマを賭け、

 吾妻龍人、朝凪 旭と戦うことを宣言する」



 アリスはその契約書を旭に渡す、

 旭も内容を確認する。龍人に渡す。

 書いた本人である龍人は目もやりもしない。



「朝凪 旭は、吾妻龍人と共にこのカオスの契約書に誓い、

 ジャック・ユーキリスと、アリス・ユーキリスとカオスアニマを賭けて戦うことを誓う、」



「同じく、吾妻龍人も朝凪旭と共にカオスの契約書に誓い、

 ジャック・ユーキリスと、アリス・ユーキリスと、戦うことを誓う」



 4人の体が一瞬仄暗く光る、契約は成された、もう、後戻りはできない、



「こいよ、ジャック、」



「行きます、アリスさん」



「ああ、行くよ龍人」

「旭、覚悟を」


 カオスの契約書内容、


 それは、『基本1対1、

 体力が1になった時点でその者は行動不能、

 最後の1対1で勝ったほうが側が勝ち。

 負けたほう二人共がカオスアニマになる、

 戦いで0になることはない。

 吾妻龍人はジャック・ユーキリスと、

 朝凪 旭はアリス・ユーキリスと最初戦う』である。



 ジャックの武器は大斧、重量の大斧、グレートアックス、



 アリスの武器は強化された、旭と同じ、

 シンプルな強化されたロングソード、シンプルな銀色の小盾、



 旭は、ロングソードに鉄の小盾、



 龍人はいつもどおりの右手に大剣ヴォルファング、

 盾はない、マントも装備していない、


 お互いに無言、口火を切ったのはそれはジャック・ユーキリス、

 大斧グレートアックスを豪快に振り回し、気合を入れ、

 その攻撃の矛先は当然指定された相手である龍人に向く、

 左上から右下への通常モーション攻撃、龍人は躱す、そして、



「ッッッ」



 その撃ち終わりからの独自モーション回転回し斬り、龍人はこれも躱す。

 それは重く速い、龍人に及ばぬが、

 足元には確実にいる者の脳筋の一撃と見てわかる攻撃。



「おっかねぇなぁ」



「ビビってくれてこのまま負けてくれるのなら楽なんだがな」



「俺がそんなたまに見えるかよ」



「…見えんなッ」



 ジャックは地面を蹴り再び仕掛ける、






「旭、いきますよ」



「はい、いつでもっ」



 アリス・ユーキリスは前へ、すんなりと当たり前のように旭の、そして自身の間合いに入る、



「シッッッ」



 それは独自モーション、熟練の生者が高いステータスと経験で放つ絶技、

 比較的軽いロングソードの連撃、



「ッッッ」



 自在に軌道を変え、襲いかかる高速のロングソードに流石に初見では対応できない、

 しかし旭は笑う、意味深に笑う。






「はぁッはぁッはぁッ」



「ふーっ、ふーっ、ふーっ」



 ユーキリス夫妻の息は荒い、それは劣勢、



「あああぁぁぁぁぁッッッ」



 龍人はジャックのグレートアックスの攻撃をいともたやすく

 ダメージなどシカトする素手のシステム的パリーを敢行する、



「やぁぁぁぁッッ」



 旭もまた、アリスのロングソードの連撃を冷静に一つ拾いパリーする、



「どうしてっ龍人はともかくッ」



 アリスは驚愕する、朝凪 旭に恐怖する、



「アリス、舐めるんじゃねぇよ、

 こいつはな俺の隣りにいるって言えちまう一年目なんだよ、」



「「がぁぁぁッッッ」」



 容赦ない二人へ同時の致命の一撃、

 二人は痛みを訴えながらも立ち上がり距離を取り、二人はレピオス瓶を飲み干す、



「どうする、奥の手があるならさっさと出したほうがいいぜ」



「…余裕だな龍人、わかっていたよ、及ばないことは、

 わかってはいた、

 旭は完全に予想外だった、それは認めるよ」



「わかったならどうするんだよ、ジャック」



「こうするんだよ」



 ジャックとアリスはカオスアニマを取り出し、

 自分の胸に受け入れる、はじめから決めていたかのように。



「…諦めたのか、ジャック」



「違うな、龍人、変わったんだよ、『目的』が、ね」


 二人はこの十日間の初めBOSS魔女エレナ・ブラン・ヒートに会いに行った。







「ま、た、だれ、か、きた、うれ、しい、

 たた、かおう、わたし、えれ、な、ぶら、ん・ひーと」



「え、エレナ、分かるか? パパだよ」



「…? ぱ、ぱ、わ、たし、き、えた、くない、い」



「ああ、そうだな、消えたくないよな、ママも居るぞ」



「エレナ…」



「たた、かう、ヒート、あつ、い、たた、かい、きえたく、ない、」



 始まる、黒いススキがフィールド魔術によって一部焼け始める、

 これはBOSS、戦いは始まる、

 炎の第5魔法 全てを灼き尽くす渦巻く蒼黒の炎が手始めに放たれる、



「あなたっ」



「ああ、」



 ジャックとアリスは躱す、その蒼黒き不死鳥の炎を、



「必ず戻ってくる、だから今は帰るよ、エレナ」



「かえ、る? ひー、と、しな、い?」



「ああ、ヒートはまた今度だ、」



「ざ、ん、ねん」



 ジャックとアリスは『帰還する飛鳥の羽』を使用し、

 この場を去る、足元から体を構成する霊子が解けていきアイテールへと送られる、



「ば、い、ばい、ぱ、ぱ、ま、ま」



 認識しているのか、それとも自己紹介の時の言葉を引き出しただけなのか、

 それはわからない、



「!? ああ、バイバイ、エレナ」



「エレナ…」



 ジャックもアリスも驚きつつも、別れを告げ、この場所を後にする。



 また一人になるBOSS魔女エレナ・ブラン・ヒート、




「わた、し、ひと、り、じゃ、ない、」





 それは誰にも届かない言葉、しかし彼女はそう呟いた。







 アイテールに、大聖堂に帰還し、外に出たアリスは言う、



「ジャック、わたし決めたわ」



「…ああ僕もだよ、アリス」






 アリス・ユーキリスは言う、この場にいる全員に聞こえるように、



「エレナをこの世界に返し、

 後はマークを待つ、それがわたし達の答え、

 それならわたしも持つ、『予感』がしてる、

 カオスアニマを使い、更に使えば持つ予感がある、」



「明日を諦め、今を生きる、か、それで明日を求め続ける俺達に勝てるとでも」



「確かに、明日を目指す龍人と旭と今のまま、

 転生を諦めることを選んだわたしたちでは勝てないだろうな、

 だが、君たちはまだ道の途中、旭はあまりにも不完全、

 たとえ最強の脳筋だろうとカオスアニマを使いその差を埋めたなら、

 今に全てを用いて全てを賭ければ、燃やしたのなら、

 こちらが不利という道理はない、感じてはいないッッ」



「いいぜ、こいよ、こっちも今賭けられる全てを賭ける」



 武器を変更する、ユーキリス夫妻、

 アリスは果てなきオーラのロングソード。

 ジャックは初見の武器、3週間ほど前に発見された、

 果てなきオーラのオーラアックス、

 オーラシリーズの使用条件は明らかにはなってはいない、

 しかしそれはカオスアニマを求める本気の心と、閃光のような覚悟、



「いくぞっ龍人ッッ」



 その掛け声とともに、攻撃は始まる、

 『カオスアニマ』を取り込む、

 それはヴァルディリス王も行なっていた行為、

 カオスアニマの資質にも、取り入れた側の資質も関係し、

 さまざまな効果、使い方がある、

 だが、大体は長期的に影響のある恐怖心の克服、痛みの軽減、

 生者の限界値を使いやすくする反応力の向上に向けられる、

 転生を諦めたからこその有利、それは決してチートではない、等価交換。



 果てなきオーラのオーラアックス、新種、

 ヴァルディリス城解放に伴い、

 現れ始めた『果てなきシリーズ』使用しなければただの巨大な斧、

 使用することで溝に青いオーラが灯り、強大な威力を出す。

 その対価は言わずもがなアニマ、溜め込んだアニマ、結晶、

 その果ては自分自身の人間性、記憶、



「ちッッ」



 龍人は舌打ちをする、無理はない、

 先程までも余裕ではないがぎりぎりのところで見切りパリーできていた、

 しかし今現在もはやそれは博打の領域、恐怖心や、反応力の向上はかなり厄介、

 それは如実に現れる、

 筋力も龍人に届かぬがそれでも生者の中ではトップクラス、

 その独自モーションの大斧、



「がぁぁッッッ」



 龍人は攻撃をもらう、吹き飛ぶ、

 果てなきオーラが与えるダメージと龍人自身のイメージが身体を吹き飛ばす。

 龍人は起き上がりながら言う、



「めんどくせぇ、ヴァルディリスはネジが外れてたからまだ良かったが、

 意志のあるやつだとこうも違うかよ」



「ッッッ」



 旭も劣勢、自在のロングソードの剣撃、恐怖心を克服し、

 反応力が上がった独自モーションのその攻撃は

 タイミングがまだ掴めずパリーできない、そして旭の苦し紛れの攻撃、



「ッッッ」



 パリーをやり返される、当然の尻もち、旭は歯を食いしばり激痛に備える。



「ごめんなさい旭、形勢は逆転したの」



「がぁぁぁッッッ」



 致命の一撃は入る。旭は立ち上がり距離を取りレピオス瓶を飲み干す、



「(やばい、有利な部分がない、どうする、どうすればいいっ)」



 繰り返される、攻防、しかし、龍人と旭は跳ね返される、

 回復薬を悪戯に消費させる。



「はぁッはぁッはぁッ(…やるしかない、)」



 旭の決意、決断、ロングソードを地面に向ける、それは脱力、



「ふぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁ………」



 旭は深呼吸をして、『領域』に入ろうとする、

 敵と戦う時に暑さ寒さなどに有効な、

 ここガルデアの塔ではなんの意味のない行為、

 それはあまりにも不完全な『領域』、

 旭の足元に僅かしか現れていない僅かな向こう側の領域、

 それは、コピーされた龍人が見せた、あの闇の領域の一撃、

 その正反対、白い閃光の領域、



 『領域』、それは生者の本質を具現化させたもの、魔術に該当する。

 居た場所から個別の空間に意味転移する。

 戻った場合自動に調整され、場所に戻される。


 互いの領域がせめぎ合うこともある、

 自分の空間だからこそ補助が効きやすい、集中しやすい、

 生者の限界を引き出しやすくなる、意志力の果てが生み出すのが領域である。



「(この向こう側はきっとある、あいつが示してくれたから、私は信じる、

 今は完全にできなくとも、一秒先の私を信じる、一秒前の私を信じる、

 今の私を私は信じるっ)行くぞッッ」



 それは僅かばかりのスピードの向上、それは一部の者しか使えない、

 いや 使えた者など

 この地獄、通称テラ・グラウンドの歴史の中で数えるほどしかいない『領域』、

 このテラ・グラウンドで、もっとも重要な物、それは『意志』、

 『明日への意志』、意志が弱ければ、

 あっという間に来たばかりで最初の村に辿り着くことなく消える、

 旭の『意志』力は異常、異端、一年目にして、

 一万を超える龍人の隣に居たいと、願える、思える、思い続けられる、

 『閃光の意志力』。


 それは数々の困難を乗り越え、それはもはや、

 すでに他者からすれば『化物』。

 最強の脳筋を目指し、超えようと再び歩みを始めた変態で変人、

 その彼女が僅かの人間性を込めつつ人の限界を超え、

 『生者の限界』の行動まで押し上げる、

 それは普段の行動、回避、攻撃、移動、

 それらは全て『通常』モーション、意味その動作は現世の行動に既存する、

 だが生者の肉体は現世の人の限界ではない、

 現世の限界は当てはまらない、だが『人の所作』が限界を作る、

 それを意図的に超えるための領域、それが『領域』、



「ッッッ」



 突如の変貌、増した威圧感、生者の限界の領域を使用する、

 通常の生者のトップスピードを超えての攻撃、アリスは驚愕する、



「ッッッ(なにっなんなの、スピードが上がってる?

 ありえない、そんなこと、カオスアニマを取り込んだわたしが、なに、これはっ、)」



 アリスは躱す、戸惑いながらも躱す、パリーはできない、未知が彼女を動かさない、



「(もっと、もっと、速く、速く、閃光のように、

 この僅かばかりの足元の世界が、あの黒い世界のように、

 あの黒い領域すら飲み込むほどに、ただ疾く、生者の限界値を引き出せッッ)」



「(わたしが恐怖を感じてる、湧き上がってきてる、なに、なんで、これはなにっ)」


 

 アリスは恐怖心を克服している、

 しかしそれは軽減しているに過ぎない、

 その軽減している域を超えれば湧き出る、

 当然の人としての所作、未知への恐怖、それは初見。



「アリスッ」



「よそ見してていいのかよ、俺も本気だすぜ、ジャック」



「ッッ!?」



 空気が変わる、龍人は構える、

 それは、本物の吾妻龍人の久しぶりの本気の一撃、

 コピーされた吾妻龍人が朝凪 旭に見せた全力、

 黒き領域が起こす閃光の一撃、

 両腕で大剣ヴォルファングを持ち、半身、左肩はジャックに向き、

 両の手で持つ手を顔の横まで引く、腰は落ち、突きの構えをする。

 ジャックは、ガルデアの塔から龍人の世界に、領域に誘われる。

 ここにいるのは吾妻龍人とジャック・ユーキリス、二人のみ。


 そしてその威圧感は、恐怖感は、もはや、カオスアニマなどで拭い去れるものではない、

 最強の脳筋、最強の一撃。

 ジャックは構えから察する、突き、それは理解する、高速、それもわかる、

 分からない程愚かではない、

 彼はジャック・ユーキリスは歴戦の、熟練の生者。


 1000を超える時間を生きた、

 今このテラ・グラウンド10本の指に入るであろう、本物。

 そして、カオスアニマを取り込んだ、怪物。



「…シッツ」



 クソと言いながらもジャックは構える、備える、

 それはこの状態でも避けられるかどうかわからないほどの一撃、

 その予感は正しい、


 脳筋の相棒、朝凪 旭がすぐに立ち直れぬほどの衝撃、

 完全に当たらなくとも、心を砕く、最恐の一撃。



 世界は黒く染まり続けている、これは『領域』、

 別名、正式名称第八魔術、名はない、魔女エレナ・ブラン・ヒートが使った『奇跡』、



「一撃じゃ死にはしない、行くぞッッ」

 ジャックの世界は、スローモーションになる、走馬灯というのか、

 過去を思い出す、それは、それほどの狂気、

 積み重ねた闇の狂気と馬鹿げた脳筋のステータスが可能にする、

 最悪の一撃、それは、最恐の、最悪の一撃は、ジャックの顔をめがけて放たれる、






「ッッッ(みえ、てる、よけられ、か、からだが…だ、だめ、だ)」





 

 ジャックは思考、行動命令、実行、それは回避の命令、

 3つめの実行は不完全、避けられない、不可避の攻撃、

 高速の一撃はジャックの顔の右側をえぐる、僅かに避けた、

 頬と耳をえぐる、実際はえぐれない、しかし、それは自分でしてしまう、

 衝撃から、恐怖から、本能は計算する、

 ただ踊る、ダメージと、所作と、衝撃で踊る、面白いように回転し、

 黒い領域の地面に叩きつけられながらも、

 まだその攻撃の熱量は全て消費されず、

 ジャックの巨躯を躍らせる。

 何度も交通事故にあったかのように、

 ようやく地面に落ち着いたジャックは、眼の焦点が合わない、

 それは当然、だが目をやらざる得ない、

 その恐怖を発した元凶を、場所を、確認せざる得ない、



「…く、クレイジーぃ…ぉぉ…クレイジーぃ…ふふふ、」



 ダメージよりも違うダメージを狙った脳筋の一撃、

 それは確実に脳筋を、龍人を優位にする、龍人の表情は多少バツが悪そうではある、

 これは一種のチート。しかし使わざる得なかったことも確か、



「わりいな、使いたくはなかったが、

 お前がカオスアニマを取り込んだ、こっちは使えないんだ、使うしかねぇ、

 お前は本物だ。

 ヴァルディリス王のように腑抜けてない、

 本物のカオスアニマを取り込んだ生者の怪物、

 なら、しょうがねぇよな。

 俺は、負けるわけには行かねぇ、

 鉄火場をご所望してはいるが手札惜しんで負けるほど、馬鹿でもねぇ、…脳筋だけどな」



 龍人は領域を展開したまま左手で頭をボリボリかきながらそう言葉を吐く。



「モンスター? お前のほうが、バケモノだよ龍人、まるでドラゴンだよ」



 ようやく落ち着いてきたジャックは立ち上がりながら先程のダメージの箇所、

 顔の右側を左手で撫でながらそう言った。おまえのほうが化物だと、



「そうかもな、だがこの名前大っ嫌いなんだがなぁ、

 名前からは逃れられないのか、皮肉なもんだ、

 まぁいいや、もっとギリギリの戦い出来るならそうしたかったが、この戦いはもうシンプルだぜ?」



「…イエス、カミィン、ドラゴンモンスター」



 それは、二撃目、ジャックは笑う、

 冷や汗をかきながら、恐怖を感じながら、それに備える、

 そして再び黒い世界に引き込まれる、それは来る、知ったうえでの二撃目、


 

  それは、最恐、



「ッッッ(うご、け、ない、おぼえた、からかっ、手が、足が、ばかなっ)」




 ジャックは想定していなかった。それは棒立ち、動けない、

 わかっていても刻まれた恐怖は拭えない、

 感じていなかったとしても身体は覚えている、心は覚えている、

 痛みの軽減があったとしても刻まれている恐怖の刻印、

 カオスアニマは時に何の意味もなさない、ある意味毒となる、

 直前まで次は避ける、避けれる、躱せる、

 そう思っていたジャックは知る、知るという恐怖を、思い出す。


 僅かな痛みとともに、攻撃を貰い踊る、

 そしてまた怪物を探す、そして見つける、その姿を見てジャックは言う、



「…ッッッファ◯ク」



 龍人はもう語る言葉も無いのか、

 次の体制に入っている、それは、巨大な龍、

 ジャックのイメージしたのはあまりにも強大なモンスター。黒き、漆黒の龍。



「はぁッはぁッはぁッ(それでも、負けられない、

 このモンスターに、負けられない、エレナのためにも、

 マークのためにも、アリスのためにも、私の、ジャック・ユーキリスのためにも)」



 起き上がる、息を切らしながらもその瞳は意志を失っていない、

 今を最高に、目の前の怪物をただ撃つために、

 家族のために自分のためにジャック・ユーキリスは戦う、



「はぁッはぁッはぁッ(恐らく躱されたことはない、必殺の剣、

 なら躱せば、そこにチャンスが有る、そこしかもうない)」



「はぁぁぁぁぁ……ふうぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁ」



 ジャックの深呼吸、龍人は待つ、ジャックの体制が整うのを待つ、

 ただ勝つだけではダメ、龍人も期待しているのかもしれない、

 躱されるのを、さらなる困難を想定して。



「ッッッ(行くッ)」



 ジャックは疾走る、あえて向かう、その絶望に立ち向かう、

 彼もまた挑戦者、未だに気持ちは転生を目指すもの。それは本物、


 それは放たれる、3度めの最恐の一撃、



「ッッッッッ(こわい、こわい、なんだ、これは、

 うごけっうごくんだっ、家族の、ために、己のために、

 今を掴むために、僅かばかりの未来を掴むために)」



 家族や思い出、走馬灯の最中、ジャックの思考は変化する、



「(思い、想い、重い、これでは動けない、

 なら捨てる、明日に拾う、一秒先に拾う、

 己のためだけに、今は動けッ、ムーブっムーブッッムーブッッッッッ)」



 それは限りなく正しい、時に誰かのためなど意味を成さない、

 ジャックは気づかない、自分の足元に白い領域ができていることに、



 ヴォルファングは虚空を貫く、

 必殺の一撃が終わり漆黒の空間は、

 世界はガルデアの塔に戻る、




「ッッッ」



 

 龍人は驚愕する、しかし、




「ッッッ(躱したっ、一撃、入るっ)」




 それは届かない、

 いや、手に持つ果てなきオーラのオーラアックスは、

 彼の手からこぼれ落ちる、手に何も持たぬジャックの手が虚空を力なく切り裂く、




「『拾って』おけよ、大事なもんだろ」




「…済まない龍人、もう『拾った』、

 だが瞬時に捨てて瞬時に拾う訓練などしていなかった」




 家族への思い、攻撃に乗る、想い、それは総じて重さを生む、

 しかしそれを躱すために捨て、領域を一部とは言え発生させた、

 だが一度捨てたのだ、便利に拾い、切り替わりなどはしない、

 それほど、人の心は便利にできてはいない、

 たとえカオスアニマで強化されていようがそれは変わらない、



「だろうよ」



「ふふふ、まったく、しようがないことだ」





「…じゃあな、お前の名前は忘れない、

 ジャック・ユーキリス、俺のあの剣を躱した初めての生者よ」





 龍人は起こす、片手のヴォルファングの連撃、煉獄を、







「ッッッ(負けるっこの娘は、なにっ)」



「おおおおおおぉぉぉぉぉぉッッッ」




 旭の連撃が入る、高速の連撃、まだたどたどしい、

 領域を僅かに使いながらの強弱の効いた連撃、

 旭はボロボロになろうとも、前へ進むことを止めない、

 攻撃を喰らおうとも、その瞳は深緑のエメラルド、

 何もかも深く飲み込むほどの双眸、光輝き、

 1秒後には消えそうな、それでも永遠に延々に輝くかのごとく、閃光。



「がァァァッッ(ジャックッわたしはっ勝ちたいッ、

 二人でエレナを開放して、マークを待つ、『今』に、辿り着きたい、

 わたしは、わたしはアリス、アリス・ユーキリスだッッ)」



 アリス・ユーキリスの最後の反撃、果てなきオーラのロングソードの連撃、

 旭より高いステータスから起こされる独自モーションによる龍人には何枚も劣る連撃、

 それでもそれは生者の限界に近い、

 最強と言っていい攻撃、旭は、迷いなく飛び込む、


 アリスは、眼前で起こるその奇跡にも似た旭の回避に、

 攻撃を放ちながらも目を奪われる、

 


 



       なんて、美しいの






「はぁッはぁッはぁッ……どうしたの、旭、あなたの、勝ちよ、」


 旭はアリスの胸元にとどめの一撃を与えられるのに止まった。

 彼女はまだ女子高生、

 事情を知ってしまっているアリスに

 無情に止めを与えられるほどの闇はまだ持ち合わせていない、


 彼女は光、白き閃光なのだから、




「はぁッはぁッはぁッ」




 肩で呼吸をしながら旭は止まる、見かねたアリスは言う、




「…あなたなに、旭、最後に聞かせて、あなたはなに? 

 Who are you?」




「…私は、閃光、脳筋の相棒、白き閃光、朝凪 旭、脳筋を超える者」



 それは堂々と、恥ずかしげもなく、

 真面目に、真剣に、一片の迷い物なく、

 真剣なまなこで答える。

  

  

     それは、嘘偽りない、カオスアニマを、脳筋を目指す者、

            

         見紛みまごうことはない本物、



「…、ありがとう、旭、辿り着いて、

 カオスアニマの、わたし達が辿りつけなかった、向こう側へ、

 彼すら超えて、その糧にして、」




「アアアァァァァッッッッッ」




 旭のロングソードは彼女の胸を貫く、アリスはただ旭を抱きしめる、




「…お願い、息子に、マークにあうことがあったら伝えて、

 わたしたちは、全力で生きたって、

 後、勝手だけどエレナのこと、よろしくお願いします」




「…はい」




 旭はただ黙って抱きしめられている、




「ジャック、わたし、幸せだったわ、ありがとう、」




 アリスは大の字になっているジャックに視線をやる、



「…すまない、私が弱いばかりに、

 最後、家族すら手放してまで勝とうとしたが勝てなかった、情けない」


 

 アリスは抱きしめていた旭から離れ、首を振り言う、



「あなたは弱くなんてない、情けなくなんてない、それは龍人達が知っている、

 この二人が怒るわ、わたし達すら糧にして、きっと辿り着いてくれる、それなら、

 わたしは納得できる、あなたはどう? ジャック」




「…そうだな、私は強かったか、脳筋、吾妻龍人」




「ああ、ジャック、お前は本物だった、最高のライバルだったよ。」




「ふふふ、最強の脳筋にそう言われるのは悪い気分じゃないな」




「エレナを頼む、もし会えたならマークもな、龍人、旭、」




「ああ、任せとけ」




「はい」




「…旭ちゃん、ハッスルは大事だぞ、

 後悔のないよう脳筋とヒートなハッスルしておくんだな」




「…それ、セクハラですよ ジャックさん」




 旭は肩を落とし、昔のアニメのように水マークを頭に浮かべながらセクハラを訴える。




「ふふふ、そうだな、ジャック・ユーキリス最後のセクハラだ。

 しっかりハートにこのヒート、刻みつけてくれよ」




「いやです」




 全力で刻みつけたくないと声音こわねと言葉で表現する旭、




「ふふふ、残念ながらお別れの時間のようだ…

 だが、死ぬのは何回体験しても嫌なものだな、一人ではないのがいつも救いだ」




 そう言いつつもジャックは、アリスは、

 二人は笑みを浮かべながらカオスアニマに変化する。

 その色は、二つとも情熱と燃え盛る熱気、赤と、黄、情熱の混沌


 相剋そうこくする赤と黄色。

 




 まだ昼前のガルデアの塔に、龍人は魔女フレデリカ・アラーノから貰った秘薬を撒く、

 それは虹となる。





「強かったぜ、ジャック・ユーキリス、」

 




 龍人は、その虹を眺めながら、そう自分に刻み込んだ。





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