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龍人の一歩

挿絵(By みてみん)



「さぁこいよ タイマンだぜ? 久しぶりに一緒に踊ってくれよ、

 俺を…焦らせてくれよッ」




   「「「コォォォォォォォ」」」




 言葉を喋れぬ透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は

 声にならぬ呼吸のような音を上げる、

 そして攻撃に移る、



「ッッッ」



 それは初見の攻撃、

 BOSS透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は

 世界に従う攻撃モーションではなく、


 それは『独自モーション』、


 世界が与えた種族差などはあるが

 全てのものに平等に与えられる攻撃方法ではない、

 適当に放つと思えば放て攻撃力きちんと乗るモーションではない、

 自らの身体能力と技術で放つ攻撃、

 通常のBOSSには許されない行為、その連続攻撃、

 ダメージは多少少なくなるが左右の巨大極剣を用いた高速の連続攻撃、



「ッッッ」



 消え行く魂のガルラドグラの攻撃で水しぶきが上がり続ける、龍人は避け続ける、


 それは容易ではない、僅かに見える巨大極剣を頼りに躱し続ける、

 退く訳にはいかない、格好つけるしか無い、


 たとえ格好悪い、無様な姿を晒すことになろうとも、

 その『恥』はあえて受けなければならない。


 『恥』は『勘』じるもの、感じるもの、

 成長の為の材料。

 バネの支点、かかなくていい『恥』はある が、これはかくべき『恥』、



「(避けられねぇッッッ)」



 龍人の選択肢はガード、もしくは攻撃を貰う、あえて食らう、

 スタミナをどれだけ持っていかれるかわからない。

 大盾ならばある程度は耐えられるであろう攻撃、

 しかし彼は盾を手にしていない、

 それでも大剣ヴォルファングを盾に多少のダメージを追うがガードは可能、

 しかしそれは臆病者のすること。


 遥か彼方昔に自身の本質は自覚し、特性を理解し、常に利用している。

 欲するは相反する無謀、『無鉄砲』、

 

 彼の自らの意志でそこに踏み込む、初めての一歩。

 

 久方ぶりの挑戦、暫く求めるのを辞めていたこと、

 求められてるのはただそれだけ。

 

 だがそれほどまでに重い、利口の者の一歩、

 現世で言われていた『さとり世代』、行動する前に思考しすぎ、

 障害の多さに気付き疲れ終わる。

 難易度の高さと方法論がわからずそして現状の能力のなさに絶望し諦める、それ。



「ッッッ(回復できる状況じゃ、駄目だっこんな痛み、慣れちまってる、

 回復もできる、これじゃ意味がねぇッ)」



 ダメージを追う龍人、理道正知、虎徹、ヴァルディリスとの戦い、

 それ以外でも過去 ダメージは追っている、危機に直面しなかったわけではない。


 この世界に来たばかりな時、

 殺された怒りに任せ序盤の旭程度の無茶をしたこともある。


 だが怒りが落ち着いた時期に実は雪原の門番で尻尾を巻いて逃げたこともある。

 だから『旭ほどの無鉄砲でない』、というだけであって、

 龍人もそれなりに無鉄砲さは経験し、持ちあわせている。

 昔のことなので多少無鉄砲さが錆びついているとは言え

 そこまで決意し踏み込む理由は本来無い。


 だが問題なのは『焦っている』ということ、

 『転生』に必要だと、気づいてしまったということ。

 己の『勘』が幾千を超えてようやくゴーサインを出したということ。

 だからもっと踏み込むしか無い、龍人は攻撃を食らいながら決断をする、

 攻撃を食らったひるみは一瞬、攻撃は止んでいる、

 しかし攻撃しない、

 今は本来 透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』に攻撃するチャンス、



「龍人…」



 旭は即時に察する、龍人の取った行為、

 それは生者のベルトを外す、だった。

 『生者のベルト』小物入れ、

 レピオス瓶というこの世界で生きるなら

 必要なものを装備するための重要アイテム、

 誰もがこの世界に訪れた時、始まりのばばぁの先、

 始まりと終わりのアイテールの大聖堂で神の代行者ユーノから受け取る、

 重要アイテム。


 重さもあり、装備重量に僅かばかり上乗せされている装備。

 商人松原もその重量を嫌い、リラックスのために装備を外していた。

 普通の生者は寝るとき以外ははずさない。

 この世界で貴重な商人だからこそ、

 昼間から不可視の休息を使えない時間帯、

 あのような形でリラックスできたのである。

 もし商人を襲おうものなら他の生者に狩られるのは想像するのは難しくはないからである。



「邪魔だな」



 龍人はつぶやく、それはトレードマーク、

 最強の脳筋の青い薄汚れたマント、馴染みの装備、

 だが、それは今『防御力』という『安心』を生むノイズ。

 龍人はそれを投げ捨てる形で装備を外しストレージに収納する。

 そして小盾、鉄の小盾を装備する。

 この先ガードが必要になる、

 そう感じた龍人は冷静に装備を完了する、

 さすがにこの巨大な大剣相手に素手でのガードは

 頭がイカれているどころではないのでこれは当然ではある、

 たとえ盾を装備していても

 普通はあの巨躯と巨大な大剣を目の前にしてガードどころではない、

 だがそれでも立ち向かわなければならない。



「いくぜ 一応 攻撃パターンはさっきので最後か? もっとあるなら見せてくれよ」



 透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は攻撃を繰り出す、

 しかしそれは今まで見せたもの、練習台には成り得ない、

 龍人はそれくらいは可能、旭が異常な異端ならば、龍人も十分異常なのだ。



「チッ、じゃあさっさと極限状態になってもらうかッッ」



 片手に持っているヴォルファングで着実に体力を削っていく、

 当然その時は訪れる、三〇分ほどの戦いで体力は極限にまで達する、



 透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』両肩に乗るカエルたちが唾液を吐き散らかす、その色はあか、先程までのダメージはない熱さだけの透明の液体ではない。

 それはやがてマグマのように温度を発する。いやもはやマグマだろうか。



「なるほど、それに触れてるだけでダメージを負うようになるわけか、」



 そのマグマはこのステージのおよそ半分を覆う、

 不規則にマグマの水たまりをつくり覆う、朱と灰色のステージと化した。



「あちっあちっなにこれっちょっとっ」



 隅で見守っていた旭のところまでそのマグマはところどころに広がった。

 旭はダメージを追うほどではないが

 発する熱に熱さを感じ完全にマグマのないところへエスケープする。



「もたもたしてると全面に広がるか、いいね、ありがてぇ」



 半分に達し、透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は

 両肩に乗るカエルを壁に投げ捨てる、

 カエルたちは壁に張り付いたまま動かない、

 おそらく時間が経つとマグマの唾液を放つのだろう、

 カエルの分身軽になった透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は

 二つの巨大極剣を空高く掲げ融合させる。


 一つの巨大極剣を創りだす。


 櫛型の『ボーンクラッド』刃ではない部分を繋いだ形、

 先端は普通の剣、柄部分は直線、中はギザギザの櫛、そんな剣、

 しかし薄い、合体しようが薄っすらと見えるのみ。

 それだけでは終わらなかった、

 真ん中に集う櫛の枝は次々にポロポロと剣から離脱する、

 それはやがて集まり空中に浮く僅かに見える透明な2つの槍となる。

 そして生者に見える相手の武器の名称、それが変わる、

 『ボーンクラッド』それは変わらない、

 変わったのは『巨大極剣』、その表記、

 その大きさ、全長は変わらない。

 しかし、『大剣』、と表記を変える。

 その意味はパリー、巨大極剣はパリーできない、

 しかし大剣になるということは可能になるということ、

 しかしそれはサービスではない、

 パリーを使えなければおよそ不可避の攻撃がある、その可能性の警告でもある。


 準備を終えた透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は

 ゆっくりとそのガイコツの黒い目の部分、

 青く薄っすらと光る奥底からで龍人を見据える。

 以前は両手持ちのまま、攻撃パターンが一つ増えただけであったが、

 このBOSS透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』も

 この世界の時間が、霊子が、アニマが、時間を経て変化、進化させている。

 だからこれは初見、最長の脳筋、戦ったことがある吾妻龍人にとっても、



「いいぜ、こいよ、回復もしねぇ、

 このダメージを追う地面も丁度いい、

 お前空気読めるな? 伊達に透明じゃねぇな」



 それは龍人の言うとおり、彼にとって、これは幸運、欲した未知、欲した挑戦、



「「「コォォォォォォォッッ」」」



 咆哮とはいえない、呼吸音のような音が次の戦いの合図、

 透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』の仕切り直しの初手、

 単発攻撃、遠くからの風の突風攻撃、

 いつの間にか風を纏った『ボーンクラッド』からそれは放たれる、



「(飛び道具かッ)」



 軽く躱す、単発攻撃、それを食らう龍人ではない、

 次はまた単発、空中に浮くかなり透明な槍の2連撃、

 牽制の攻撃、ギンと音を立ててから放たれる。



「おいおい、優しいな、いちいち見せてくれるのかよ」



 軽々と躱す、『そうじゃない』、龍人は少し苛立つ、



「チッ」



 次の攻撃、それはまたも単発、

 ダッシュからの両手で持つ透明な巨大大剣で地を削りながらの振り上げ攻撃、

 勿論躱す、



「もういいよ、本気の攻撃で来いよ、」 



「「「コォォォォォォォッ」」」



 透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は

 龍人の言葉に応えるかのように呼吸音をあげる、

 龍人との距離を取る、剣を二度振る、風は巻き起こる、

 

 それは風の道、


 龍人と、透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』をつなぐ風の壁となる、

 龍人とガルラドグラの間を左右、

 そして後ろまで覆う、風の壁となる。


 道は前にしか無い、


 進むのならマグマが時より足をむしばみダメージを与える一本道、



「なるほどいいね」



 空中に浮いた透明の槍、それはまた音を立ててから放たれる、

 風に乗りそれぞれのタイミングで、高速で放たれる、

 そのスピードは、旭の戦った雪原の門番オルガレギオンの槍と同等、

 その事実はまだ龍人は知る由もない、

 だが予測は立つ『似たような攻撃だろう』、

 その分龍人は旭よりは楽、龍人はそれを想像する、

 幾分楽だとしても、『初見』、それでも龍人は前に出る、

 何が起こるかはわからない、背中にある風の壁が迫るかもしれない、

 選択は前、前には高速の透明な槍、そして武器を構えるBOSS、

 それは無茶、無謀、回復の手立てもない、

 道にはダメージを追うマグマとそれを和らげる水を含む灰色の土の道、

 横は風の壁、それでも前へ、



「(来るっ)」



 ものすごく透明な槍は、放たれる、龍人の判断はパリーではなく初撃前方への回避、



「ッッッ」



 回避は成功した、しかし二撃目、それはもう目の前、

 龍人はパリーを敢行する、それはもはやヤマ勘、

 いや先読み、そのタイミングで来るであろう、

 並外れた思考力が可能にする龍人の未来視にも似た想定、



「ッッッ」



 龍人は感じていた、後ろから風の壁が迫っているのを、

 ここまでは何も間違ってはいない、予定通り、

 しかし、それほど余裕はない、彼は久しぶりに感じている、

 『死んでしまったらどうしよう』と、

 

 理道の時は怒りがそれを隠していた。

 

 虎徹の時は、

 虎徹のこれまでを知っていたからこそ

 生者として負ける予感などさらさらなかった、


 ヴァルディリスの時は、

 ヴァルディリスの歩んできた道を多少知っていたのと、引っ掛かりが、

 ピンチの龍人に平常心を与えていた。

 だが今は違う、死ねるが、死んではならない危機的状況に自ら身を晒し、

 朝凪 旭と同一ではないが同等に近い戦いを欲している、

 それは理解している。だが今現在も、並外れた思考力、未来予測、

 ステータスと言う後ろ盾が龍人守れてしまっている。

 

 今、現実、刹那、未知、に無謀とも言える行動力と

 考えすぎる思考を持って最終的には立ち向かわなければならない。

 それが龍人の目指す理想。


 とにかく行動しかない、

 自身が積み重ねたものすらVETして、超えて行かなければならない、

 まだその領域は踏み込んでいない、未だ安全圏、

 だが恐らくこれから来る未知はある、

 確実に来る、そう感じている。

 龍人の額に一つ二つか、冷や汗があった。



「コォォォォォォッッ」



 透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は呼吸音を鳴らしながら

 パリーしたばかりの龍人にジャンプ高速回転斬り攻撃を仕掛けていた。

 槍の投擲をしたためパリーモーションの硬直の最中、

 龍人は新たな選択肢への解答を早急に求められていた。

 『再びパリーなのか』、『回避なのか』、昨日の旭がちらつく。



「(あの槍は、透明な槍2つのうち一つは回避、まだ攻撃を終えていない?

 回避後が恐らく攻撃のチャンス?

 しかしパリー? それが成功すれば一番確実、

 しかし、この上からくる回転しながら迫る 

 ただでさえ刀身が見づらい透明な巨人の速度もわからん

 ジャンプ回転斬りを初見でか?

 無謀すぎる、イカれすぎてる、回避? いやッッ、)」



   『あいつ』なら、『選択肢』は『パリー』、

    いや、『選択肢』など『発生』しないッッ 



「(未来を見過ぎるな、予測しすぎるな、その熱量を、

 今に、1秒先に、全てを賭けろ、感じろっ、

 今を生きろッッ『あいつ』からしたら『最弱』の俺を、

 この一瞬を『最強』にするためにッッ、全てを燃やせッッッ)」



「ッッッ」



 それは成された、パリー、高速回転する見えづらい大剣、それを見事に捉えた。

 致命の一撃、尻餅をついたBOSSに大剣ヴォルファングは振り下ろされる、

 龍人はシステム的に動かされる、

 巨人の顔面付近までそのリスクの対価を受け取る、

 グシャっという鈍い音が辺りに響き渡る、



「はぁッッはあッッはあッッイカれてッッやがるッッ

(透明な槍の一つは回避でOKで後ろからは流石に来ねぇかッ

 雪原のあいつより少しぬるいか? それでもイカれてやがるッ)」



 龍人は呼吸を荒げながら呟く、本心を呟く。心の中では更に呟く。


 無理はない、『利口な無鉄砲』、

 そこに自分の領分を超える危機があるのを知りながら、

 シミュレートしながらの無謀、戦場で、窮地なら、

 もう致命傷の怪我を負い、死にゆくのなら出来るのかもしれない。

 しかし求められるのは生きる意志を失わない、恐怖を知りながら、

 それでも前へ進む、生き残る『利口な無鉄砲』、

 行動を終え、いつもの思考に戻った龍人は、

 自身が先程踏み込んだ領域を『イカれてやがる』と表現する他無い、



「「「コォォォォォッッ」」」



 立ちが上がる透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』、

 まだ終わりではない、終わるわけがない、この試練は連続、当然襲いかかる、

 

 距離を取る、透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』、

 その攻撃は未知ではない、先ほどとほぼ同一の攻撃、



「芸がねぇなっまたかよッ」



 しかしそれは余裕の発言ではない、知った攻撃、知った無謀、

 だがそれはギリギリ、たまたまの成功、

 初見でなくなったからといって余裕ではない。

 それゆえにBOSS透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』の選択は間違っていない。

 

 龍人は『知った恐怖』に立ち向かわなければならない、

 無自覚にただがむしゃらに42・195キロ走るのではない、

 自覚しながらの苦しさを理解し意識し、

 感情をコントロールしながら、自覚しながらの42・195キロ、

 どちらが難しいかは語るまでもない。



 その一瞬、再び、



「ふぅぅぅぅぅぅ……はあぁぁぁぁぁぁ………」



 龍人は呼吸する、吸い、吐く、旭と同じ、ほぼ同一の行為、

 システム上特に意味は無い、あるとすれば、整えざる得ないほどの窮地、

 それを心と体と技術に言い聞かせる、無謀への自分自身への警告、

 もう一度あそこに行くとせめて伝える、人の所作のための行動。

 ただ前を向く、そこにあるは透明の攻撃、

 赤いマグマと灰色の水を含んだ土、岩の天井、透明の巨人、

 見えづらい巨大な大剣、2つの見えづらい槍、



「「「コォォォォォォォッ」」」



 透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は剣を振るう、

 風は起こり、龍人と透明の巨人

 『消えゆく魂のガルラドグラ』の間に再び一本道を作り出す、

 そして空中にある、2つの透明の槍、龍人は前へ歩み始める。



「ッッッ」



 槍の回避、パリー、それも決して簡単ではないがそれをこなす、

 そして龍人は再び訪れる、

 息もつかさぬうちの透明な巨人によるジャンプ回転斬り、

 タイミングは覚えている、

 しかし、覚えているとはいえそれは一瞬、

 極限の最中で出来た、踏み出したからこそできた、極致、

 まだ息を吸うようにできるわけはない、

 『意図』的に入るしか無い、あの領域に、

 今度は迎え撃つ場所の地面はマグマ、環境は常に同一ではない、

 痛みとダメージを感じながら、



「「ッッッ(そんな都合よく、二度もできるかッ)」」




 龍人の行動と思考は矛盾する、



「「ッッッッッッ」」



 選択、それは『パリー』、



「がぁぁッッッッ」



 攻撃をもらう、僅かパリーのタイミングを逃す、

 恐怖が、いや 刹那のタイミングを死を恐れながら、

 それでも前へ進みながら、わかっていながら、1秒後を描けなかった、

 思う通りに想像する、未来に、たどり着けはしなかった。


 吹き飛ぶ龍人を風の壁が押し寄せ追加のダメージを与える。

 無惨に灰色の地面とマグマの水たまりを転がる、



「はぁッはぁッはぁッ」



 立ち上がる、それでもHPはまだある、マグマの水たまりを越え、

 BOSSに攻撃を食らわせ絶命させる、それだけのHPはまだある、

 しかし攻撃はもうもらえない。 

 それでもひとつだけ 『得た物』がある、



「龍人…」


「はぁッはぁッはぁッ」



 透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は、三度目の攻撃体制、

 僅かに映る透明な剣と、足元があげる土煙だけでそれを告げる。



「はぁッはぁッはぁッ」



 また、二つの風の道が、一つの道を創る、

 槍が放たれる、視認しづらい槍、二つの槍、回避と、パリー、

 本来それはかなり難しい行為、

 

 そこまでは辿り着く、想い描ける、問題はここから、だが――



「はぁッはぁッはぁッ」



 龍人の目は、もう、



「「「コォォォォォォッッ」」」




 青い、強く輝きを放つ、確信の瞳、




 『パリー』、それはなされる、


「はぁッはぁッはぁッ(選択肢が一つ無くなった、

 考えすぎるのが俺の短所だが、長所だ、

 生と死、二つを意識しながら向かうのは難しい、

 選んだ後に一つに向かうのも浪費が激しい、

 『決断』はいつも『重労働』、パリーか回避か、パリーを選べたんだ、

 もうほかの選択肢はない、回避を選んでも恐らく道は繋がってない、

 なら行くしか無い、それでもチラついてた、

 回避という臆病者の選択肢が、

 だがその『決断』はさっきした。さっき消した。

 向かう先に選択肢がないなら、一度でも体験したなら、

 やれる予感がしたのなら、行ける、行ける予感しかしない、

 やることが一つなら、決断する余地ももうないのなら、

 予感がするなら、それで行けなかったことはない。

 俺は誰にも意味勝ったことも、負けたことすら無い、

 だが思えたのなら、想い描けたのなら、

 出来なかったことはいまだかつて一度もない、

 なら行ける、情けねえが、今の俺の限界、)」


 致命の一撃それは入る、感触は後一撃、致命の一撃なら後一撃、


 カエルたちが、マグマを吐き出す、その広まった範囲は3分の2、

 回復アイテム類すべてが含まれている生者のベルトを回収することも考えると、

 決めなければならない、




   「「「コォォォォォォォッ」」」

 



 透明の巨人『消えゆく魂のガルラドグラ』は違う攻撃モーションに入る、

 それは初見、竜巻、それは起こる、剣を振る度に起こる、

 巻き起こる、4つ、

 

 渦を巻いた風が、龍人に襲いかかる、

 龍人は躱す、不規則な竜巻を、4つ、全て、

 一度の自動追尾竜巻攻撃を躱した龍人に、

 その躱された竜巻達は無情にもシステム的に、龍人の周りを覆い、

 一つの竜巻を生む、その中心は吾妻龍人、

 前は見えない、後ろは見えない、右も左も見えない確実に見えるのは、

 下にあるマグマさえも水を含んだ土さえも巻き上げた灰色と朱の竜巻の壁と、

 感じるのは、『絶望』、回避行動を許されない、攻撃、

 それは誰だろうと安易に想像がつく、



「ひでぇ攻撃だ、容赦ねえ、…やればできるじゃねぇか」



 予測される攻撃、初見ではないにしろ見えづらい槍の2連撃、

 見えない状況での槍の2連撃、そして、透明な巨人本体の攻撃、

 これも恐らく攻撃自体は初見ではない、見えない状況なだけ、

 求められるのは全てのパリー、世界が示す、攻略法、

 『選択肢』は、『タイミング』のみ、



 龍人は笑う、



   だがそれは悪手だ、『選択肢』が『タイミング』しか無い?

   俺の『勘』を、『感』を、『間』を、『観』を、舐めてるのか?


   二つ三つ『選択肢』があれば俺は迷う、

   臆病になる、あいつに比べたらまだ『最弱』、

   だがたった『一つ』を貫くのなら、

   俺は、間違いなく『最強』だぜ?


   

   そして知っている、この世界は、



   『理不尽』ではない、



 ギンッという音発射音と共に放たれれる、空気を切り裂く限りなく透明な、槍、

 タイミングは一定で、以前と変わらない。


 カンッと金属音を鳴らす、小盾、

 銀色の古びた鉄の小盾を、

 ただ操り飛んできた、当たれば死の、一撃、

 いともたやすく息をするように龍人は切って落とす、



  『理不尽』というクソ野郎とずっと戦っていた、

  どうやったら抗えるかとずっと俺は思考していた、

  あの『糞野郎』に対抗するために

    

  『結論』は人は多勢に一人では意味勝てない、だがな、

  いま、『親父あいつ』なら、

  『一人』なら、

  『一つ』ならば、

  俺は、それにはもう勝てるぞ。いや、勝ちに興味ない、

  俺は抗いたい、抗えるぞ、もう、あの日のように、俺は、




      

  そこまで弱くわないぞ





「ッッッ」



 2発目の槍、龍人はパリーする、成功する。




「さぁ こい、ありがとよ、思い出した。一歩踏み込めた、今はそれでいい、

 だが次の一歩は、お前じゃないらしい、」




   俺の、いまいち信用できて、信用出来ない、

   臆病者の『勘』がそう囁くから、

 

   だから必ず、利口な無鉄砲に、届いてみせる、

   転生に届き得ると感じるほどの、あいつが、いるなら、


   あいつが、

   無鉄砲な利口を目指すあいつが、隣りにいるなら、

   

   俺は焦れる、思い出した、

   いつだって俺を焦らせてくれるやつが居たじゃないか、

   『あれは』、俺一人じゃ、目指せねぇものだった、


   …これ以上の思考はまだいいか、


   …なぁ、 そのでいいのか? なら――



 

       「じゃあな、」


 


 龍人はそうつぶやく、


 地を這う、

 マグマと灰色の土を巻き上げた一撃、

 ご丁寧に音のする一撃、迫り来る音が感じられる攻撃、

 その剣撃は見えない、しかし、龍人には通じない、

 五感全てを、思考という名の6感すら全力で使い、

 長年の生者の経験則すら使い尽くし計算し尽くす、

 襲い来る音を立ててやってくる地を這う剣撃、選択肢はない、当然パリー、

 

 選択肢は意味タイミングだけ、


 金属音がする、結果は出る、無常にも出る、

 時間はだいたい向かって左から右にイメージするように流れる、

 決着は必ず訪れる。


 龍人は、左から右に盾と腕を躍動させパリーを成功させる、

 龍人は無言で、止めの致命の一撃を透明な巨人に振りかざし、

 この戦いに終わりを告げる。


 カエルたちは虚空に消え、共にマグマも最初からなかったかのように消え失せる、




「龍人ッ」




「まぁ、こんなもんだ、今の俺はな」



「開口一番がそれ? 冷静だなぁ~余裕あるねぇ。

 まぁ、及第点かな? いわゆる『まぁまぁ』かな?」 



 旭は真剣に左手の薬指を曲げ唇の下に当てて『まぁまぁ』という点数を発表する。



「…お前はそういうやつだよな、うん、龍人ちゃんわかってた。」



「え、なに、読まれてる、理解されてる、ちょっと嬉しいけど、ちょっと複雑」



「ふふふ、まぁお前は俺と本質では正反対で相容れない性質、

 だがその矛盾は嫌いじゃない…いややめとこ、

 今は言わない方がいい勘 おまえ、調子に乗りそう」



「えっなに、すごい良い雰囲気だったのに、

 なに、えっウソッ、もう終わり、黙って聞いてたのに、酷くないっ」



「いいんだよ、俺とお前はこうやってるのが一番正しい」



「なにそれっむかー、『まぁまぁ』龍人のくせにっ」



「何だその言い草は、なんだ、『まぁまぁ』龍人って、

 体張ったろ、カッコついただろ、

 『甘めに見て80点くらいかな、しょうがないなぁ、

 今日は好きなだけ私の元女子高生おっぱい

 吸わせてあげるっ〈は~と〉』とか言えないのっ? 死ぬのっ?」



「なにまたおっぱい? 私のおっぱいどれだけ好きなのよ。

 どーせおっぱいならなんでもいいんでしょっ、

 大聖堂でユーノさんのおっぱいとか

 商人のシエスタさんとかのおっぱいとか

 人妻のアリスさんのおっぱいとか

 クスハのおっぱいもガン見してたのて見てたの知ってるんだからねッッ」



「旭、おっぱいはなぁ…お前にはわからんだろうが『正義』なんだよ…

 そして赤ん坊じゃない大の大人が、男が、

 いや『漢』がそれをむしゃぶるそれはロマン、

 見ているだけでも幸せだが、それを自由にするということはそれは他者からしたら、

 『犯罪』、『罪』、『悪』、石で投擲されたって文句が言えない。

 その『正義』と『悪』、その振り幅が、その『矛盾』が、俺を強くするんだ。

 サ◯ヤ人が瀕死に陥って回復したら強くなる。

 つまりそういうことなんだよ、

 ――QED証明終了」



「はいはい、なにいってんの」



「君に手を伸ばす、届かぬとわかっていても、

 奇跡が起きて届いたら揉み砕く、

 それがたとえ罪だとしても僕は再び手を伸ばす」



「なにブ◯ーチみたいなオサレポエムに言い換えてるのよ、ともかく先に進も、」



「ちっどうなんだっ、今夜はっ今夜はっヒト吸いだけでも、

 旭っ、旭様っ、おっぱい吸わせてっ」



 龍人は拝み倒す、ヴォルファングを地面に落として両の手で懇願する。



「ああぁもうっうるさいっっ好きにすればっ、

 もうっ了承するの恥ずかしいんだからっ、

 勝手に食後のデザートみたいに吸えばっ」



旭は龍人に背を向け歩き始める、



「ひゃっほ~~」



「ほんと馬鹿っ、こういうところは一直線で他のこと考えないで馬鹿丸出しなんだから」



 白と黒の歩みは止まらない、目指すのは『転生』、

 どちらが欠けても辿り着くことはない。




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