龍人の妻
忘却の雪原にある洞窟、
休憩所とも取れる茶色い岩肌の洞窟の内部で
龍人と旭は不可視の休息を使い装備一式も全て解除して
完全くつろぎモードで焚き火を前にお茶を啜っている。
「ふー温まるぅ、お茶はリリンの生み出した文化の極みだねぇ」
「おまえ本当に女子高生だったのか?、
変態BL同人大好き腐女子だったんじゃないか?」
龍人は辛辣にも
『男同士がくんずほぐれつするのが大好きなフレンズなんだね?』と問いかける。
もちろん龍人は『け◯の◯レンズ』を知らない、
彼が死んだのは2016年末頃、アプリは当然知らなかった。
「ひどっ、◯ヴァは常識でしょっ教養でしょっ、
それにBLだっていいじゃない、人の趣味は人それぞれでしょっ、
あ、私はどっちかって言うとヒロインと男の子一杯系が好きでした」
「な、なんのカミングアウトだよ、そんなこと言って、あれだろ、
俺とジャックとか、この間の鉄心とか、
虎徹とか妄想したりしたんじゃねぇのか、
虎×龍 龍×鉄とかっ、こわっこわいよぉ、
あえて最初に無難に好きなものカミングアウトして予防線張ってるよぉッッッ~、
おとうさーん~~絶対それ一番好きなのじゃないよぉ~~~~」
「なっっそんなことするわけ無いでしょ生物は私は絶対にNG、
私が好きなのはアニメの
『Tiger&Dragon』のカズトラとリュウジのカップリングだってッッ」
『Tiger&Dragon
TwelveMaximum』、
2013年の4月に始まったバディヒーロー物アニメ、
架空の平行世界、
太平洋の中心に作られた水上都市、
アプサラスシティ、
実験都市として世界が協力して創り出した人類の英知の結晶でもある。
多くの国の人が移住した多国籍都市、
その治安の安定のために、同時期に人類に現れ始めた超人、
別名 〈アリエナ〉
人の進化、脅威ともどちらとも取れるその存在をどうにか
多国籍都市であるアプサラスシティから、
世界に広がる無意識的、有意識的、
〈超人アリエナ〉に対する恐怖心と差別を
友好的に好意的になるように浸透させようと
彼らを使った治安維持活動を始める。それは苦肉の策であった。
集められた優秀なアリエナ達は、違う名で呼称される、
それは〈英雄〉(ヒーロー)。
〈マキシマス〉である。
かつて、この並行世界に居たとされる
ローマの英雄マキシマスから付けられた彼らは治安安定のため、これに尽力した。
アプサラスシティも、
世界もこの〈アリエナショック〉からなんとか戦争などには至らず安定を勝ち取った。
今もなおそのマキシマス達の治安安定化運動を放映する番組
〈アプサラスマキシマム〉は、放映継続している。
そんなアプサラスシティ30周年の年、ロートルマキシマス
九重カズトラと新人マキシマス
碇・リー・リュウジのアジア人コンビが
アプサラスシティの背後にある闇に巻き込まれていく
シリアス、ギャグ、恋、色んな要素を詰め込んだバディヒーロー物である。
原案 『巴 縁』のサプライズアニメーションが制作した、
2クール放映の大人気オリジナルアニメーションである。
30超えオジサンと22歳の凸凹コンビが受け、
腐女子大人気の同人誌即売会コミック桃源郷マーケット、
通称〈コトマ〉でも同人誌が2016年現在もかなりの数出ている人気作品である。
「…わかった、旭、これからはBL大好き露出狂女子高生と呼んでやる、
だから、この話はここでおしまいなんだロック、いや、旭、」
「ちょっまてっ黒い衣を纏おうとするな、
わかった、俺が悪かった、
からかいすぎたっすまんっ、
高木さんのように俺は上手くなかったッッ
許してくれっほんまッッ堪忍してつかあさいッッ、旭はんッッ」
旭は『闇の衣の柱石』を使用寸前で留まる。そしてモジモジしながら言う、
「まぁ、いいけど、忘れるように、私、
こういうこと話せる友達は一人いたんだけどさ、
その、さ、こんな地獄だし、
漫画とかラノベとかアニメとかゲームとかもう出来ないじゃん?
だからこういう話普通に話し振ってくれると助かる、ていうか、うん」
「…しおらしくなるなよ、きもちわりい…」
「そこで『こいつ以外に素直なとこあるじゃないか、
かわいい旭ちゃん、胸キュンっ』、とかないの?
ほんっと結婚してたの龍人?
…はぁ、なんでこんなやつ好きになっちゃったんだろ」
旭は本気で肩を落としながらため息を一つしながらそう言い放つ、
「ナチュラルに思ってること言ってくれるお前は嫌いじゃないがな、
あいつは、陽花里は、
まぁ俺の目から見てもそうとう出来たやつだったよ、
おっぱいはおまえの勝ちだがな」
「…、陽花里さん、か、どんな人だったの?」
「それ…聞くのか?」
「…一応、ライバルだし、情報は戦において最も大切なことでしょ」
「……そうだな、…隠すようなことでもないしな、
…陽花里とは大学で出会ったんだが、」
「大学ぅぅっっ????? どーせアニメ系の専門学校とかでしょ」
旭の疑いの眼は龍人の瞳から視線を外さない、龍人は目が泳ぐ、
「ばっ、なっなんでわかるんだよっおまえっ」
墓穴を掘る吾妻龍人、立ち上がってそう言い放つ、立ちながら墓穴を掘る。
「だってwakiペディアに書いてあったもん」
「あっえっあっ? そうか、そういや、くそっ」
ヴァルディリスの時の旭の龍人に対する問いかけ、どうやらそれは正しかったらしい。
「ボロが出るのはお互い様だねアガツマ先生、」
「ああ、そうだよ、俺がラノベ作家 アガツマ竜人だよ、」
「その図体でアニ専って、そうとう恥ずかしかったでしょうねぇ竜人どの」
「うるせぇっ、
漫画家になりたいならすぐアシスタントに慣ればいいんですよとか、
美術大学行けばいいんですよ、とか、
バイトしながら円盤マラソンしたりパソコン買ったり、
男子高校生にそんな器量求めても
そのルートが正規ルートのやつ以外無理に決まってんだろうがッッ
いいんだよっ専門でッッ、
2年間のモラトリアム的猶予が簡易的な猶予が欲しかったんだよっっ
金だって奨学金だッッ借金だよッッ文句あるかよッッ」
「で、そこで出会ったの?」
「ああ、入った専門はアニメだのイラストだの撮影だの背景だの、漫画だの、
マルチに試せるところでな、
在籍番号があるんだがこれは願書を出した順で決まるものでな、
俺の次が陽花里だった。」
「へーそこで初日におっぱい揉ませてくれって陽花里さんにアプローチしたんだ」
「いやしないよ、旭さん、俺のこと完全に誤解してませんかね?」
「えーそうなんだー(棒)ふーん(呆れ)で?」
「ぐぬぬ、で、まぁ俺は漫画家志望だった、
しかし絵は下手だった、話やキャラクター原案くらいはそこそこで、
陽花里は真逆で、イラストは入学時でもうかなり描けて、
オリジナルキャラや話は小学生以下だった。
利害は一致した。
あいつはあっという間に俺からも他の先生や生徒から良いところを吸収していってな
あっという間に力の差は更に開いた。
まぁ俺も学校の授業もまじめにやったし、
それでも2年じゃ俺の絵はプロレベルには到底及ばなかった。甘さも多少あったし、」
「だけど、陽花里はイラストで在学デビュー、
その後も多少の苦労はあったが、
専門出て少ししたらコトマ(コミック桃源郷マーケット)じゃ
エロ同人とBLをこなすスーパー壁サークル、売れっ子の同人作家になってた、」
「だが陽花里の両親は幼い頃に立て続けに逝っちまっててな、
俺は専門出てアルバイト暮らし、
まぁ端的に燻ってたんだが、
不安定ながらも片方は売れっ子だし、
付き合ってた俺たちは結婚、という結論に達した。」
「俺は、諦めて就職しようとしたが、就職はともかく諦めちゃ駄目だって言われた、」
「就職して、子供はすぐ作った。
親も兄弟もいないあいつに、確かな繋がりが欲しかったんだ、」
「俺は働きながらラノベを書いたよ、応募して、落ちて、応募して落ちて、
やっぱり集中したいから結局仕事も2年程度でやめた。
あいつは、着実に実力を上げて、
20代半ばで漫画家として出した作品がアニメ化、
あっという間にそっちでも売れっ子、知名度も上げて、子育てもこなしながらな、」
「27になった時、俺はようやく賞とってな、
あいつがイラストを担当して、ようやくデビュー、
陽花里はお前の好きなアニメ作品の原案者だ」
「え?」
「あいつはどこまでも行こうとする、
俺は、追いつこう追いつこうとするがいつまでたっても追いつけない、
でも、諦めたくなかった、置いて行かれたくなかった、
だから、今できるラノベを全力で書いたよ、
一作目は駄目だったが二作目はお前も御存知の通りそこそこ売れてな、
だが、俺も絵を描けなきゃ、あいつに置いてかれる気がしてな、そっちも頑張ったさ。」
「これじゃあいつの話になってないか、
まぁそんくらいすげぇやつだった。
あいつがいたから俺がいたんだ、まぁあいつにとっても、
僅かばかりでも俺がそうであったと今も信じている、」
「…どうしてペンネームが違うの」
「…売れっ子イラストレーターの名前と
夫婦だってこととかまぁ利用すべきなんだろうが、
俺が念を押して断ったんだ。
まだ作家として始まったばかりなのに間違った評価は勘違いを起こしそうだからな。
まぁそれでも、売れっ子イラストレーターの実力は利用したわけだが、
それでもキャラデザは俺がしたんだぞ」
「…もういい、十分だよ、十分過ぎるよ。」
旭は知らされた情報に戸惑った、
それは見るに明らかである。
目を閉じ左手で更に目を厳重に囲い、もういいと首を横に振る。
「? そうか?」
龍人は旭の受けた感情のほとんど理解できず軽くそう返事をする。
「うん、もう寝よ、なんだか今日は疲れちゃった、色々あったし、」
旭は精一杯の体力を捻り出し少し微笑みながらそう言った。
「…そうだな、」
この日はこうして就寝となった。




