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忘却の彼方

挿絵(By みてみん)

 


 二つの大剣がぶつかる音が、衝撃が、玉座の間に響き渡る、



「『ヴァルディリス』ッッ」」


「『吾妻龍人』ォッッ」




 ヴァルディリスの一撃が龍人を捉える、



「ッッちぃ」



 ダメージを負い、たまらず距離を取る龍人、苦戦、押されている、現状分は悪い、



「勝てるわけなどあるまい、

 この私に、この『ルアーノ・ヴァルディリス』に、この王たる私にッ、」


 優勢を多分に『感じる』ルアーノ・ヴァルディリスは喜々としてそう語る、

 盾はもう装備しておらず大剣『ベルフォニア』を右手に自信満々である。




「…めんどくせぇ野郎だ、」




  恐怖心がない…か、痛みもなさそうだ。

  『人』を『生者』を超えている。

  『カオスアニマ』を取り込んだ『特典』、

  『転生』を諦めているこいつの『強み』、

  …つまりいつものアドバンテージがねぇ、

  しかも奴は王にまでなった男、

  俺よりも長く、この世界にいる『生者』、

  …これが、ある意味、『本当の戦い』、

  避けては通れない、当然の戦い



 

 『吾妻龍人』、彼は、『準備』をしすぎた、

 元の性格がそうさせるのか、彼の転生への道のりは旭と『対称』、

 『相尅そうこくする矛盾』、

 『最長』こそが彼の『最短』、『正規ルート』、

 しかし、いつかその臆病者が起こす『備え』に対を成す、

 『無謀とも思える一歩を踏み出す行動』を行ない、

 『考え』と『行動』を《今》、『現実』に擦り合わせねばならない、

 龍人はわかっていた、わかりすぎていた。


 彼は『脳筋』、彼は生前『作家』、

 考えすぎた者の行動への『一歩の重さ』を、彼は知っている、

 『それ』は勝利に等しい、だがわかっていても、『きっかけ』が必要だった。

 『きっかけ』、それは、『巨大地震』のような『衝撃』、

 『恐怖』『戦慄』、『光』、『閃光』のような、背中を押す『なにか』、


   …旭に、教えられちまったな、 

   あいつもきっと、戦ってる、

   勝てるかどうかわからない相手と、命を賭けて、

   …『負けて』、いられねぇよな



 吾妻龍人、彼も笑う、旭のように、笑う、分の悪い相手と戦う、

 それは、自身を確実に成長させる行為、

 しかし、その差の分だけ『恐怖』もある、

 積み重ねたステータスを、今までの長い時を、失うは一瞬、

 龍人のそれは、あまりにも重い、想い、それでも、彼は笑った。




「…なぜ笑う、吾妻龍人」




 ヴァルディリスは笑う龍人が気に食わない、

 劣勢なのに『余裕』とも思える『矛盾』した行為に腹が立つ。



 ルアーノ・ヴァルディリスはもう『覚えて』いない、

 『忘れて』いる、『矛盾』は成長のために必要な行為、

 『矛盾』とは抱えるもの、抱え続けるもの、

 『成長』したいと願い続けるなら、必要な代償行為、

 彼はいつ『忘れた』のか、遥か彼方昔、

 彼が、『ルアーノ・ヴァルディリス』が、ガルデア王を討ち取り、

 『カオスアニマ』を取り込んだ時か、

 この世界にきて『転生』を目指さなかった時か、

 いや、この『世界』に来る前か、

 彼はいつ『矛盾』をやめたのか、きっと知らぬ間に、彼は『忘却』していた、

 斎藤 一のように、思い出す『きっかけ』すら、『覚えて』すらいなかった。




「うれしくってよ、ありがとうよ、ルアーノ、」




 龍人は、笑う、この『運命』に、

 『ルアーノ・ヴァルディリス』という

 『今』の彼におあつらえ向きの丁度いい『壁』に、『感謝』する。

 『純度100%』ではない『感謝』、

 僅かな『哀れみ』を込めた言葉を送った。



「何がおかしいぃぃッッッなぜ感謝をするッッッッ

 なぜ私をヴァルディリスと呼ばぬッッ」



 激昂するヴァルディリス、理解ができない、

 なぜなら、彼は『覚えて』いないから、『忘却』しているから、



「さあな、俺もよくわからん、仮に説明できたとして、

 どの道、お前にはわからない、

 だが一つだけ確かなことは有る、おまえもう王じゃねぇ、

 俺にとってその名前はヴァルディリスは王の名だ、侮辱は出来ねぇ、」

 


 龍人もまだ『自覚』し始めた段階、うまく言葉にはできない、

 『もう少し自己対話する時間があれば他のも言葉にはできそうだ』と、彼は思い、

 また少し口角を上げて笑う、



「私が王ではないだとッッ、侮辱した上になんだその『余裕』はァァッッ、

 舐めるなァァッッッ!」



 激昂しながらヴァルディリスは仕掛ける、殺してやると龍人に襲いかかる、

 その刹那、龍人は言う、『余裕』の面持ちで言う、

 誰かに『焦り』ながら言う、『矛盾』の最中言う、




「『余裕』じゃねぇ、まぁお前にも、俺にも、そんなことは『どうでもいい』か、」



 

 龍人は躱す、躱す、




「(ああ、いい、いいぜ、『焦って』やがる、懐かしい、

 ここまで『焦る』のはいつ以来だ、)」

 



 『思考』と、『行動』、その二つを『今』 擦り合わせ、一致させる作業、

 『自己対話』、

 ヴァルディリスの攻撃を食らうこともある、避けることもある、

 『痛み』、『恐怖』、『高揚感』、『焦り』、『威圧感』、

 積み重ねてきた『時間』という『自信』、

 『失敗』するかもという『不安感』、

 『失敗』した後の『後悔』の想像、

 様々な『混沌』が、龍人を襲っていた。



 龍人はその最中、思い出す、それは、陽花里、『吾妻陽花里あずまひかり』、

 いや、更に前、橘 陽花里、彼の妻なった女性は、

 龍人を焦らせ続けた。作家として、彼を上回り続けた。先を行き続けた。

 吾妻龍人は追いかけ続けた。焦りながら、追いつくことはなかった。

 彼女は殺され、自身も殺され、作家としての人生はあの時終わった。

 それでも覚えている、忘却などしていない、焦った気持ちも、

 彼女を思い出すたびに思い出していた、

 だがそれでも、久々の焦りの体感は、よりその時を明確に思い出させる、

 そして感じる、想う、今、自分を焦らせている、

 相対するヴァルディリスではない、誰かの視線を感じる、




「ッッッ(そもそも誰に、焦ってる?

 当然目の前にいる『ヴァルディリス』にだろう?

 なぜそんなことを思う、…なぜだ、なぜ浮かぶ、おまえの顔が、嫌でも浮かび続ける




「『旭』っ、



   おまえは、俺の、)」








       なんだってんだよッッッッ










   ヴァルディリスに反撃の一撃を龍人は見舞った。






 どれほど時間が立っただろうか、そこには疲弊した龍人と、

 汗をかきつつも『余裕』のヴァルディリスがいた。

 龍人はマントを脱ぎ、その両肩はあらわになっている、



「はぁッはぁッはぁッ」



 呼吸を整える龍人、その顔に『余裕』はない、




「どうした、終わりか、まだ『レピオス瓶』はまだあるのだろう?」




 まだ『分』はヴァルディリスにある、

 ヴァルディリスはそれを『疑い』もしない、



「ああ、最後まで付き合ってもらうぜ、ルアーノ、」



 『まだ俺に分がない、その通りだ』とヴァルディリスは龍人の言葉を受け取る、

 しかしそれは、間違い、その言葉には『嫌味』が、込められているというのに、




「しつこいな、だが、さすが『脳筋』だ」



 まだ気づかない、『勘』を失った、哀れな王は『余裕』で言う、悪い『余裕』で言う、

 悪い『矛盾』で言う、すでに『余裕』でないのに『余裕』で言う、

 『勘』が停止しているから、悪い『矛盾』に気づかない、

 気づけない、



「ああ、しつこいぜ? 

 『まだ』付き合ってもらうが、

 もうお開きだ、おまえには『飽きた』、」

 


 龍人は告げる、『まったくお前は、本当に忘れちまってるんだな』と、



「『飽きた』? また『余裕』か…ならば行動で証明してみせろッッ」



 ヴァルディリスは攻撃を繰り出す、大剣『ベルフォニア』を振るう、

 しかし、龍人は全て躱す、

 いや、パリーする、

 ヴァルディリスは尻餅をつく、何度も、何度も、尻餅をつく、

 龍人は、致命の一撃を放とうともしない、



「!? なぜだ、なぜだッッ」



 当然の疑問、ヴァルディリスは信じられない表情で龍人を見る、



「なに、簡単だ、『慣れた』だけだ、『同等』の力を持つ奴に、

 いや、『同等』じゃねぇな『結果』俺より弱かった、

 ただそれだけだ、『勘違い』とはいえ、『スリル』あったぜ、」




「何を言うバカなっバカなッッバカなッッッ」



 

 その龍人の告白にヴァルディリスは否定する他ない、

 彼は、気づけないから、そうする他ない、

「『痛み』を忘れ、『恐怖』を忘れ、『眠る』ことを辞め、

 『勘』を失い、『矛盾』を『忘却』して『転生』を求めるでもなく、

 この長い間よくもまぁ『生者』でいられたなルアーノ、」



 その指摘は、ヴァルディリスを焦らせる、

 心の奥底の、誰かが、かつての若かりし頃の彼がほんの僅か残っていたのだろう、

 しかしそれを、それすらも、ルアーノ・ヴァルディリスは、

 自らの矮小なプライドのために言葉で掻き消すしかない、




「黙れ黙れっ黙れッッッ」




 龍人は続ける、ルアーノ・ヴァルディリスのゲームオーバーを突き付け続ける。




「お前がもし、一時いっときでも『転生』を目指すような馬鹿、

 『大馬鹿』なら、

 カオスアニマを取り込んだお前に俺は手も足も出なかったかもしれん、

 だが、そうはならなかった、そうなるはずもなかった、ただそれだけだ、

 …お前の物語はここでおしまいなんだよ。」 



 パリーによる尻もちから立ち上がったヴァルディリスは声を上げながら龍人に襲いかかる、




「わたしはっ、わたしはッッッ、」




 パリー、致命の一撃、パリー、致命の一撃、繰り返される光景、

 龍人以上の体力を持つヴァルディリスでも、3発目は、耐えれない、

 それでも、乱心したヴァルディリスは、

 レピオス瓶の残数はあるのだが『アニマの雫』を幾つか砕く、

 回復は未完全なままヴァルディリスは龍人に襲いかかる、

 

 その刹那、龍人は言う、




「おまえとの『えん』もこれまでだ、

 『ルアーノ・ヴァルディリス』、

 目的もなく『王』になった、」





           

     哀れなこの世界の英雄よ






「私は死なないッ、『転生』を必ず果たす、

たとえ一度は『カオスアニマ』を受け入れ、

『輪』から外れた私でも、この『指輪』が私を導いてくれるッ、







         『死ねっ』『吾妻龍人』ッッ、

  私の、このルアーノ・ヴァルディリスの『一部』となれぇぇッッッ」






 もはや敗北は決定していた。

 『ルアーノ・ヴァルディリスの敗北』、

 それは、いつ決まっていたのか、

 それは彼にも、龍人にもわからない、

 彼が、『勘』を失った時、

 彼が『矛盾』を抱えるのをやめた時か、

 シグナムの言葉を受け止めなかった時か、それとも、

 

 だがどちらにせよ、






      この『敗北』は決まっていたのだ。






「だから、もう、お前の『負け』なんだよ」





  無常にも、パリーにより尻餅をつくルアーノ・ヴァルディリスに

  龍人の大剣『ヴォルファング』が振り下ろされた。



 龍人は終わったと、少しヴァルディリスから距離を取る、

 振り返り消えゆく者に背を向ける。

 それは確かに、龍人の『間違い』、現状を把握し尽くし、

 ステータスがあり過ぎる強者故のほんの僅かな油断と言うなの計算違い、




「負けていないっ、負けてはいないッ、私は負けてなどいないッッッッ」




 ヴァルディリスは立ち上がる、

 ギリギリで徐々に回復する『アニマの雫』の効果で絶命を免れた、

 流石の龍人も読み違えることはある、頭を掻きながら龍人は言う、




「『アニマの雫』を砕いていたか…そういや、忘れてた、流石にしつこい」




「私はっ、私は負けていないッッッ、」




 龍人の声はまだ届いているのか、分からない、

 ヴァルディリスはワナワナしながら

 『私は負けていない』と言うだけの人形になっているようにも見えた、



 その『人形』に一応龍人は確認することを思い出して聞いてみることにした、

「一応最後に聞いておくか、お前の『指輪』はなにか『引っかかる』、

 『今は』なんて書いてあるんだ?」



 片目を閉じながら顔に左手をやり、

 右手でヴォルファングを肩に乗せて、ヴァルディリスを見る龍人、



「? 何を言っているっ、ふざけているのかッッ、『脳筋』ッッ」



「いいから見てみろよ」



 龍人の催促に渋々従うことにするヴァルディリス王、

 まだ、『壊れた人形』になったわけではないようだ、

 すでに似たようなものではあるが、

 盲信していたとしても確かめるだけの器量はまだ存在しているようである、

 腐っても『慢心』を意図的にしているところは『王』か。

 幾多の経験をしてきたが故、おのが答えを決めてきたからこそ、固めてきたからこそ、

 恥をかく機会を作るための慢心、自身を信じている、

 だが何らかのきっかけがあれば疑い改める、そんな『慢心』

 王らしい部分は僅かだが保たれていた。

 ヴァルディリス王は『謎の指輪』、

 彼の言うところの『示す指輪』のフレーバーテキストを展開してみる、

 そしてその顔は、見る見るうちに青ざめていく、

 彼は口にする、する他ない、




「…な、なんだこれは、は、破滅の、『破滅はめつの指輪』、

『吾妻龍人に殺され、ルアーノ・ヴァルディリスはカオスアニマになる』、だと、

 馬鹿な、馬鹿な馬鹿なっ馬鹿なッッッ、」



 

 それを聞き龍人は少し思考する、そして合点がいったように話し始める、




「……なるほどな、それはもしかしたら、お前が、

 お前から離れていった『アニマ』が、

 こぼれ落ちた『アニマ』、『記憶』たちが作り出した『新種』、

 そういうことか」




「何を言っている、何を言っているっ、

 何を知っているッッッ、貴様がッ、

 貴様ごときが何を知っているッッ」

 


 驚き、おののきき、後ずさる、ルアーノ・ヴァルディリス、

 龍人は容赦なく左手を前に突き出し、薬指でヴァルディリスを指差して言った、



「お前は、『お前に』殺されるんだ、

 かつての王になったばかりの凛とした『お前に』、

 いや、それだけじゃない、『ガルデアの王』も『混じって』いるかもな」



 それは、『彼』の創りだした、『自殺装置』、

 それが、龍人の結論、そしてそれは、その『推測』は全て正しい。



「認めない、私は認めないっ、この『指輪』は、私を導いてくれるっ、



 必ずッ、この『退屈』から、

 私を『転生』に誰よりも早く、より『簡単』に導いてくれるッッ。」




 認めない、認められない、彼の限界、彼がいつの日か無意識に決めた、彼の敗北。




「そうか、そうかっ『次』はそうすればいいのかっ、わかったそうしよう、ははははッッ」




 またフレーバーテキストの表示が変わったのだろうか、

 ヴァルディリスはうなずきながら笑いながらそう言った。

 だが龍人はもう疑問がない、生かしておく理由がない、

 『利用』し尽くしたのだから、後はもうカオスアニマになってもらうだけなのだ。




「もういいよ、死ねッ」




 その龍人の一撃は、届くことはなかった。



「!?」



 躱したのだ、ギリギリのところで、ルアーノ・ヴァルディリスの執念なのか、

 狂気なのか、わからない、彼は走る、走る、ひた疾走はしる、




「私は死なない、私は死なないッッ、」




 そう言いながら、ヴァルディリスは玉座の間から出て行った。



「チッ、あの野郎、逃げやがったッ」



 呆気にとられた龍人はそれを追う、玉座の間を出た時、そこに戦いを終えた旭がやってきた。



「龍人っ、」



 声をかける旭、龍人を呼ぶ旭、しかし龍人はそれどころではない、



「旭っ、くそっ、お前はここで待ってろっ、あの野郎逃げやがったッッ。」



 そう簡単な説明をすれ違いざまに言った龍人は走り去っていった、旭を置き去りに

 ルアーノ・ヴァルディリスを追って玉座を後にする、




「えっあっちょっとっ、龍人っ」


「まったく、もうッ、」




 突然のことで驚いた旭はその場に立ち尽くし

 顔の頬を膨らませてその小さくなった龍人の大きな背中を見送るしかなかった。

 

 ここは日が昇る直前の『ガルデアの塔』、

 『ルアーノ・ヴァルディリス王』はヴァルディリス城からガルデアの塔に来た、

 その歩みは弱く、辿々《たどたど》しく、滑稽こっけい



「わたしは、私は、するんだ、『転生』を、もう、ここは嫌だ、」



 ヴァルディリス王は気づかない、BOSSの前の霧の壁を越えたというのに、

 いや、気づいていても恐らくは警戒しない、

 なぜならそこにいるは、『忘却の騎士エルディオン』、




「わたしは、ここを守る、戦士、エルディオン、

 ガルデア王の許しがないものはここを通す訳にはいかない、死、あるのみ」




 あろうことか、ヴァルディリスの命令下にあるはずのBOSS

 『忘却の騎士エルディオン』は攻撃態勢に入る、

 例えBOSSなったとしても王の命令下にあるのである。




「何だお前は、わたしは、私は『ヴァルディリス王』、

 ガルデア王の『ガルデア・マキナス』のっ『カオスアニマ』を有している『王』であり

 『生者』だぞッ、命令を聞けっなぜ剣を振り上げる、やめろっ、おまえは私のッッ」




 『忘却の騎士エルディオン』の大剣『エルドカリバー』は、幾千の時を超えて、

 主君『ガルデア・マキナス』のかたき

 『ルアーノ・ヴァルディリス』の胸を無自覚に貫いた。



 しばらくして『ルアーノ・ヴァルディリス』は『カオスアニマ』となる。

 『忘却の騎士エルディオン』は状況を認識していないのか、

 出来たばかりの『カオスアニマ』に攻撃を仕掛ける。

 もはや彼の体の一部のような剣がカオスアニマに触れる。



 『カオスアニマを賭けた戦い』、



 互いの名を宣誓をし、

 お互いの体が仄暗く一瞬光り行われる『儀式』、


 他の『生者』はいかなる手段でも攻撃できなくなる、また逆もしかり、


 『例外』は、モンスター、BOSS、誰も試したことはない、

 もし、何らかの手違いで、

 『カオスアニマ』を賭けて戦った者が戦いの最中にBOSSにやられる、

 これはこの『世界』の『イレギュラー』。

 本来起こりえない『奇跡』、『例外』、

 彼は、変貌を遂げる、更なる『強者』となる、

 『復讐』を遂げたことも解らぬままにカオスアニマを受け入れる。

 その変化の最中、BOSSのくびきから一時的に解き放たれたエルディオンは

 苦しみながらカオスアニマを受け入れる。

 

 龍人はそれを目撃していた。おそらく勝てない、

 『王』にまで至った二つのカオスアニマ、エルディオンの資質、

 BOSSなりながらも喋れるだけの知性を

 龍人が生きた同じ時間を経ようとも変わらないほどの者、

 今のままでは確実に勝てないのは明白である。

 

 龍人の『直感』がそう告げていた、囁いていた、

 ただ、かつての友の名を、彼の新たな産声を聞きながら今は呟くことしかできなかった。







        「「「ウオォォォォォォッッッッッッ、」」」









「……エル…」




 ガルデアの塔に、新たな『忘却の騎士エルディオン』の産声が、

 『咆哮ほうこう』が、周囲に虚しく響き渡った。



 ヴァルディリス城の玉座の間から出た場所で海が見渡せるこの場所で、

 その美しい長い髪を風を受けてなびかせて旭が一人立っている、 

 旭はヴァルディリス城から『旭』を見た、この世界に来てどれほどたっただろうか、

 逞しく、強くなった、だけどもまだ『足らない』、

 『明らかに足らない』、『彼』よりスタートの遅かった彼女は、

 今回自分に化した『最終試練』を突破した、だがそれでも、まだ『足りていない』、

 囁く危機感の警鐘はだいぶ静まった、

 それでもまだ、彼女の『勘』は次に向け囁き続けている、

 おもむろに彼女は手を伸ばす、

 その真正面にある、眩い『旭』に手を伸ばす、



「(私は必ず、『転生』する、あの人と一緒に、

 あの人の『理想』すら超えて、

 だから、見守っていて、お父さん、)」



「待ってて、龍人、」


 

  少女はその『旭』をそのまっすぐ伸ばした腕の先、

  手のひらで掴もうとする、

  掴めるはずのない遥か彼方先にある『旭』を、


  その少女の名は朝凪 旭、『閃光』のような、

  次の瞬間には『消えて』しまいそうな、

  それでも消えない、その芯に、真に強い黄金の輝きを持った少女。


  『史上最強の脳筋』『吾妻龍人』に並び立つもの、

  いつか並び、超えるもの。

 

  ヴァルディリス城に吹き付ける風は今止んでいる、

  『旭』が眩しいこの地に、

  主のいなくなったヴァルディリス城に静寂が訪れる、

 



  少女は空を見上げた、

  その時この地に、風が止み『朝凪』になった今、

  いつか必ず来る、風、

  栗色の美しい髪が横になびく。



  少女に、迷いはない。この先も迷ったとしても、

  必ず答えに辿り着くであろう。

  再び少女は『旭』を見つめる、



  その瞳は美しく、

  何処までも深い、




    深緑しんりょくのエメラルド。





  脳筋おじさんとまつろわぬ王と忘却の彼方  了

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