旭対サイトウ
「ッッ(強いッ、これが斎藤 一ッ)」
「どうした、最初の勢いはッッ、これはお前の望んだ戦いだぞッッ」
「ッッッッッ」
旭は距離を取る、獲物がリーチが長い虎徹改、
かなり警戒しているのか8メートル程度離れる、
「(違うか、今は『サイトウ』か、)」
そう思考しながらも旭の体は勝手にレピオス瓶を飲む動作をする、
「回復か、懸命だな、負ければ…『死』だからな、」
「ぷはぁっ、負けない、私は、負けない。」
「(私は負けない、…あの『デジタルワールド』の、『ヒロイン』『光』のように、
きっと『あいつ』が書いたであろう、あの物語の、もう一人の『主人公』、
『ヒロイン』光のように、その『ヒロイン』すら、
『あいつ』の創りだした『想像』すら、
荒唐無稽な『理想』すら超える、超えてみせる、
超えて、私を、好きだって、大好きだって、言わせてみせるっ)」
『デジタルワールド・モンスターレイヴ』
著 アガツマ 竜人
イラスト 橘 響、
某大人気狩りゲームを意味模倣、アレンジ、影響を受けた作品。
完成したフルダイブ装置、
『ブレイン・ソサエティ』を使用したその狩りゲームのオンライン版の世界を、
発売前に体験をしに行った主人公、佐藤 勝春は
魂を、脳の意識をコピーされ現実と変わらないほどの
グラフィックのゲームの中に閉じ込められ戦いを強いられてしまう、
そしてヒロイン紅 光ともに、
このゲームのクリアを目指し、
その他数多くの仲間たちとこの世界に立ち向かう全7巻のライトノベルである、
旭が、好きだった、大好きだった、ライトノベル。
もう一人の主人公ヒロインの『光』は、
主人公の勝晴に少しでも追いつくため
かなりの無理をして痛みを感じるようになった
グレート級のモンスターに無謀にも挑み最終的には並び立つほどに強くなる。
このライトノベルの最終巻の発売はとある冬あたりの月の25日、
その2日前、23日、彼女はわざわざ秋葉原まで赴き、
早売りOKのその出版社の本を買い、
モラスバーガーで読破してから帰る夜道に彼女は理道正知に襲われ殺されたのである。
その事実は他者からすれば特に意味はない。
そんな彼女決意は誰にもわからない、だが、彼女の思いは『本物』、
彼女の誓いは『決死』、彼女の心の色はきっと光り輝く『黄金』、
「(私が感じる限り、この相手が盾を使わないのなら、
私も使わない、使ってやるものか、
だけど相手は『スタミナ』も『元』からの『技術』も尋常じゃない、
ステータスだって劣ってる、なら、今の私は、『それ』をするしかない、
だから、それで勝つ、勝ち抜いてみせる、
『何度』だって、『痛み』を伴おうとも『弾いて』みせる)」
「!?」
独自のタイミングでモーションで撃たれるリーチのあるサイトウの平突き、
それを素手でのパリーを敢行する、ダメージ確定の覚悟のパリー、
本来ならなんの『特』もない、増えるのは『緊張感』、
『常のダメージ管理』、失敗すればそのまま連撃を食らう、
自殺行為とも思える『決死』のパリー、
だがそれは確かに『成された』、
「貴様っ、」
この世界の『システム』上、尻餅をつくサイトウ、近づく旭、
不可避の『致命の一撃』、
「ガッッッ」
サイトウはダメージを追う、
この少女は後何回この『決死のパリー』に挑み、
成功させなければならないのか、まだわからない、
両者ともに計算している余裕はない、
これは命を賭けた戦い、『カオスアニマ』を賭けた戦い、
「さあ立って、私は負けない、私はあなたに勝つ、」
「ちっ」
立ち上がったサイトウは間合いを取り、武器を変える、
使い慣れない間合いの虎徹改より通常の虎徹のほうが正しいと判断したのだろう、
そして再度、ではない、改めて独自のモーションで平突きを放つ、
勿論、旭は様子を見る気がないのかそれに合わせ、『決死のパリー』を敢行する、
結果は『失敗』、簡単ではない、
リーチも変わった故、容易ではない、
高難易度であるから、当然の帰結、
「イッッ」
1撃目が来る、まだ仰け反ってはいない、
刀はそういう武器ではない、
だがパリーを放った硬直からまだ抜け出せていないため2撃目は入る、
そして3撃目、少しタイミングをずらしサイトウは三撃目を放つ、
通常の生者なら連撃を貰うのは必然、痛みをまだ感じている旭に対して、容赦なく放つ、
「!?」
決死のパリー二度目の成功、だが、成功しても一撃目と二撃目のダメージと、
三撃目のパリーをした際のダメージを追う、
旭の選択は『レピオス瓶を飲む』、ではない、
『前進』、『攻撃』、『致命の一撃』、である、
「「ガッッッ」」
サイトウは再び致命の一撃でダメージを負ったが、立ち上がり距離を取る、
2回の致命の一撃で体力が心もとないからこそ、彼は回復を選択する、
回復するのは別段恥ではない、
命が掛かっているこの状況で常軌を逸しているのはどう考えても旭なのである。
「き、貴様ッッ、」
飲み終えたサイトウはフツフツ湧き上がる怒りのような感情を込めてそう言った。
「(なんだこいつは、なんなんだ、この少女はっ、)」
混乱の中、再びサイトウは仕掛ける、
先程までの累積ダメージを考えると体力を回復をしたサイトウが圧倒的有利、
サイトウは攻撃を放つ、現時点の彼が出せる最善最高の選択、
『殺すつもりの攻撃』、手抜きはない、しかし、
「なっ」
それでも彼女はパリーを辞めない、
またわざわざ難しい初撃に合わせ『決死のパリー』を敢行する、
サイトウが感じている最新の『感触』では、
今また失敗し食らった一撃、そしてその結果次の一撃はほぼ確定で入る、
合計5回の有効打、2回のダメージ覚悟のパリー成功、
成功したとしても素手故にダメージを追う、つまり通算7回の有効打。
更に追撃の3撃目、旭は躱せずに攻撃をもらい累積ダメージでシステム的に仰け反る、
旭は意志でこれを捻じ曲げようと試みるがそれは無駄な努力に終わる、
有効打は累積8、痛みを感じながらも仕方なく旭は距離を取る、
視線はサイトウから逸らさない、暫く見つめ合う二人、
旭に、回復の意志がないことを確認する形になってしまったサイトウは、
ただ勝利のために動く、
「(あの『感触』なら、後一撃半、分かっているのか? 朝凪 旭ッッ)」
パリーが『成功しなければ』もう一撃、それは死、
その『感触』は決して間違いではない、
しかしサイトウの失敗はそれを頭の中で声にしてしまったことである。
サイトウが間合いを詰め攻撃を出そうとした瞬間、
サイトウは攻撃を辞める、一歩二歩、後ろに引く、
旭の『異常性』に押されたのか、
もう攻撃の命令を脳が伝令する刹那、もう止まれない、
本人すら思うほどのギリギリで彼は引く、
旭は、そんなことも知らず、サイトウが下がった瞬間、
攻撃していたかもしれない瞬間、絶妙なタイミング、
命をかけた素手のパリーが間抜けに眼前にあった、
さらにサイトウは一歩下がってしまった、
その隙にやれたかもしれない、だが、彼は、恐怖した、戦慄した、
この儚き特攻覚悟の少女に、
幾千の修羅場を乗り越えた壬生の狼ですら流石にたじろぐ、
「おまえは、なんだッッ、回復をしろッ、
『まとも』に戦えッッ、これは『カオスアニマ』を賭けた戦いなんだぞッッ、」
サイトウの指摘は『真っ当』、『矛盾』はない、
だが、それが『限界』を生む、それもまた事実、
「…『まとも』だよ、回復なら、次のパリーが『成功』したら『がぶ飲み』する、
だから…だから来なよ、」
「(これくらい、やらないと、一度くらい踏み込まないと、きっとどの道『死ぬ』、
どこかで確実に『落ちる』、そんな『予感』がさっきからずっとしてる。
五月蝿いくらい耳元で『勘』が騒いで『囁いてる』、
だから、今、この『瞬間』が、
他者から見たら早過ぎる『私の最終試験』、
だけど、それは『当然』。
生ぬるいやり方じゃ下手すりゃ『万年』いる龍人に絶対追いつけない、
龍人なら、切羽詰まってない龍人ならこれくらいやれるようになる、
どのみち今からじゃ『ステータス』は間に合わない、
だから、これは『まとも』、この行為は『正当』『私の正規ルート』
『転生への正規ルート』、
近道じゃないけど遠回りでもない私の、
『朝凪 旭の真っ当な正規ルート』あいつに助けられて、命を救われて、旅をして、
あいつが好きで、好きで、それが叶わなくて、
ヤキモキして、キスしたくて、好きって言って欲しくて、
私だけを見つめて欲しくて、最高潮に片思いな今じゃないと、きっと『迷う』、
だから、今の私はあなたにとってさいっこうに『まとも』じゃない、
私だってホントは『死んでも嫌』、だけど、今の私はそれが『大好き』、
今、この私が出来得る、さいっこうで、
ある意味さいってぇの『矛盾』、私は応えたい、応えたいよ、応えたいんだよッッ)」
一向に回復をしようとしない旭に、
サイトウは解いていた構えを再び取り直し、
旭を『特攻少女』だということを理解し、受け入れ、『決断』をした、
無謀を悔いて死ねッッ
「(…応えて…みせるよ、)」
旭は、真正面から受け入れる、その殺意に、真正面から立ち向かう、
この状態でしか得られない『経験値』、それが、彼女の望み、
彼女の『勘』が『超えろ』という、これは最初の『最終試験』、
「このバカがッッ」
サイトウは決して短絡的に攻撃を放ったのではない、
間合いを計り、タイミングを伺い、殺意を持った、達人の一撃、その『初撃』、
失敗すれば、『死』、
彼女は、朝凪 旭は生と死の狭間で、矛盾との葛藤の最中、笑う、
「ッッッ!」
3度目の『パリー』に成功する、
確かに殺気を放ち、タイミングを図り、
幾多のフェイントを交え、サイトウに明らかに主導権があった、その一撃、
勝負を決するはずの一撃、あまりに有利にな一撃、
彼女は、朝凪 旭は生と死との狭間で、
『それ』を成功させる、それはもはや、『人』ではない、
それは『なにか』、
形容しがたい、境界線を超えた、『なにか』、
「ぷはぁぁぁ、生き返るぅぅ」
旭は宣言通り回復行為に至る、
レピオス瓶2回がぶ飲み、
尻餅をついているサイトウは、思考を邏らせる、
「(なぜ、追い込まれる、見切られた?
馬鹿な、片手平突きにこだわったとはいえ、
この世界の『システム』が有るとはいえッ)」
「(こんな、年端もいかぬ娘に、少女に、あれを、
『決行』し、成功させる技術と心?
理解が、できん、この少女の『なにが』、ここまでの行動に至らせる、
わからない、わかるきがしないッッ)」
立ち上がったサイトウは、混乱しながら攻撃を出す、
先程とは精度が一枚落ちる、落ちている、落ちざる得ない、動揺は明らか、
旭にはその攻撃はもう通じない、精度があまりにも低いなら、もう通じない、
「ッッッ、」
4度目、5度目のパリー、成功、三度の致命の一撃、
死まであと一歩、サイトウは距離を取り、『レピオス瓶』を飲み干す、
「(なんだこの『焦り』は、なんだこの『焦燥感』は、
敗北の予感を感じている……だと?、)」
「回復? いいよ、ちゃんと全回復させてね、とことんやろう、時間はまだあるから、」
「(何度思考しても理解できん、なんなのだ、
この、今にも消えそうな、
激しく光り輝く『閃光』のような少女は、)」
斎藤 一は戦いながら過去を思い出す、彼は捨てたはずの『一』を、彼は思い出す、
いや正確には、旭に『思い出さされた』、かつての記憶、
「総、何をやっている、体に障るぞ、」
いつかの時代、どこかの建物、どこぞの屋根、
斎藤に『総』と呼ばれた青年は、
早朝の日の出前の瓦のひしめく屋根に乗り、何かを待っていた、
「斎藤の言うとおりだ、全くお前というやつは、」
『総』と呼ばれた青年は立て続けに咎められる、
「土方さんに斎藤さん、早いですね、おはようございます、」
この建物の下から、
この建物の庭から声をかけてきた2人に挨拶をして『総』は続ける、
二人から視線を外し、目の前に広がる景色を見ながら彼は答える、
「好きなんですよ、ここから、朝日が、地平線から出てくる『旭』が」
その会話の最中、太陽が、旭は昇る、
「? 好きなのはわかったが、そんなことは『どうでもいい』、さっさと中にはいれ、総」
斎藤は、ともかく総の身体を気遣い、彼の言いたいことは伝わっていないようだ。
「ふふふ、今日も今日とて、お節介が好きですね、斎藤さんは、
いつか、…いつかわかる日が来ますよ、斎藤さん、」
青年はそう言うと、青年は右手を伸ばす、その『旭』に右腕を前に伸ばす、
前に出た右の手のひらで、その彼方にある掴めない、
『旭』を、掴もうと、手を握った、
虚空を掴んだ、
総と呼ばれた青年は、にこやかに笑った。
もう何度目かわからぬ『パリー』、『致命の一撃』、
サイトウは立ち上がる、苦笑いをしながら立ち上がり、旭との距離を取る、
「(そうだな、総、現世でも長く生き、この世界でも長く生き、
ようやく今『わかった』、)」
「(生まれゆく、新たな『旭』、
『光』、
あてられてしまうな、この『輝き』には、
たとえ『死ぬ』とわかっていても、
『明日』のためにその『一日』を『全力』で生きようとしてしまうな、
人は『愚か』だ、
わかっていても、『忘れる』、
だからこそ、忘れぬための『日課』、『所作』、)」
サイトウは顔を上げる、なにか達観したような顔で、
旭を見つめる、構えを解いて、旭を見続ける、
武器を持たぬ左腕を前に伸ばし、
その前に出た手のひらで、彼は『旭』を、
ここからでは届かない彼女を、その手のひらで握りこんだ、
彼は笑う、あの日の、『彼』のように、
その握りこんだ拳を下におろし、サイトウは言う、
「お前は、大したやつだ、朝凪、旭、」
サイトウの本心の一言、お世辞など混じりようのない、純度100%の『賞賛』、
「…そんな評価、今は『どうでもいい』」
「(私は応えたいだけ、他のことは今は『どうでもいい』、
後で『必要』なら拾えばいい、そんな凝り固まった『発想』じゃ、
あそこまで辿り着く、並び立つ、並び超える『成長』などありえない、
使えるものは全部使う、利用できるものは全部使う、
現世での後悔も、この世界での死の恐怖の感情も、
まだ覚えている理道正知への復讐心も、お父さんに謝りたい気持ちも、
あいつへの一方的な片思いも、全部使う、
たどり着きたい未来への感情も、妄想も、髪の毛一本残さず、全部使う、
それが私の、それが今の、朝凪 旭の『全力』)」
彼女の瞳は語る、それはたどり着きたい『未来』のための『今』、
だからこそ『今』にしか興味は向いていない、
『勘』は『未来』にしか向いていない、
だがもはやその『未来』すら邪魔、欲しいものは『今』、
この瞬間の『成長』のみ、振り返る過去も、望む未来も、彼女は知っている、
自覚している、
だが、今はそれさえも、今得られる『経験値』以外、
その他一切は全て『不純物』、
『熱量』になるべき、『資源』、燃やせるものは全て『燃やす』、
今燃やさねば、理道への復讐心を『忘れ』薄れ、
龍人への想いもいつしか『慣れ』、ここまでは燃やせない、
だから、だからこそ、
彼女は『今』『燃やす』、自分の『命』さえも、生と死の間で『燃やす』、
それはまさしく『閃光』、
「そうだな、『どうでもいい』な、…なら、なら勝ってみせろ、
この『新選組 3番組組長 斎藤 一』に」
サイトウは、『斎藤 一』は、左肩の肩甲冑の装備を外し、
右肩に肩甲冑を装備する、右手に持つ虎徹を左手に持ち替え構える、
『全力』、『明日』のために、『今』を、
『全力』で生きる、人としての、『最大』、
思い出した『振り幅』、いつの間にか使っていなかった『領域』、
その戻ってきた『総て』を用いた『全力』で、
『閃光』のような輝いた瞳で、それを思い出させてくれた少女に、
全力で『礼儀』を果たそう、
「ッッッ(強くなったッ左のほうが慣れてるっ)」
「(そう、これだよっ、『死人』と戦っても面白くもないっ、
今日を『全力』で今を『全力』で明日のために生きるあなたを倒してこそ、
私はもっと強くなるッ、)」
『全力』の斎藤の攻撃に、迂闊にパリーをできなくなった、
しかし、『それ』すらも心地よい、彼女は、無自覚にまた笑っていた、
そして相手が使わぬなら使わないと決めていた盾を装備する、
最初と状況が違う故、相手の『段階』が変わったが故、
これは矛盾はしていない、あのままならあれが『適当』、
相手は熟練の生者、そして現世で刀の時代を生き抜いた修羅、今はこれが『適当』、
「斎藤、一ッッ」
「朝凪、旭ッッ」
互いの名を呼び合った、自身が『輝き』を認めた者の名前を、
二人は無性に呼びたくなった。
そこに輝くは『全力』、
その先にあるのは『成長』、
その果てにあるのは『結末』、
回復薬はお互いに尽き、体力は互いに『ほぼ』ない、
斎藤一は左の平突きからの横への派生攻撃も含めそれ以外の剣撃を混じえながらも、
『生涯』を『賭けた』平突きを放つ、
『賭けた』、それが、彼の『限界』、
『転生』を目指さなかった、王にもならなかった彼の『限界』、
『燃やせは』しなかった。目指せはしなかった、
ただ命を賭けただけ、その僅かが、結末を決定した。
旭のパリーが、『全力』の斎藤の平突きを弾いた。
『最後』の致命の一撃が、彼を貫いた。
彼女は、一寸の迷いもなく、『礼儀』を貫いた。
「…見事だ、朝凪 旭、」
斎藤 一は立ちながら、この部屋の中央で旭に致命の一撃を貰った。、
それは『独自パリー』、システム的通常のパリーモーションではない、
真の意味で全力になった斎藤 一の独自モーションに対抗するためには
通常のパリーでは難易度が高すぎる、
今の旭でさえそれは特攻を超える何か、彼女は燃やした、生死を賭けた一瞬に、
発想した、思えた、想う、それしかないと、戦いの最中直感的にそれを理解し、
考えすぎず実行をした。
『独自パリー』は現実でも行えるほどの技術と、心があり、
僅かしか無い世界が認めるタイミングでなければ出来ない、成立しない行為、
致命の一撃のタイミングも刹那しか無い、現実とほぼ同一の決死の行為、
それが成された、それは意味『奇跡』に近い
斎藤 一の、彼の全ての体力が尽き、彼はこの部屋の中心で大の字に倒れた。
「はぁッはぁッはぁッ」
旭は呼吸を整えるのに必死で倒れる前の斎藤 一の賞賛にはまだ答えられない。
「ふふふ、清々しいものだ。
『全力』とは、こんなにも気持ちいいものだったのだな。
いつの間にか『深層心理』の奥底で手を抜いていた、
まったく『人間』というやつは、」
天井を見つめながら斎藤 一は人の『愚かさ』を問う、
人は、『忘れる』、忘れることすら『忘れる』、
大人になると『疲れる』ことを嫌う、
子供の頃は、いつも『全力』だったはずなのに、
『電池』がきれるまで、『全力』であれたのに、
そんな簡単なことに気づくまでに彼はかなりの時間を要した。
斎藤 一は現世とこの世界、『テラ・グラウンド』でどれほどの長い時を過ごしたのか、
故に『愚かさ』を感じずにはいられなかった。
「本当に強かった、ありがとう」
呼吸を整え終わった旭は、素直に、斎藤 一に『賞賛』を送った、
混じりけのない、純度100%の『賞賛』を、
「…ふん、『嫌味』にしか聞こえないな。まさか負けるとはな。
だが、悪くない、お前の『光』がいつか、あの『脳筋』に届くことを、
それすらも『超える』ことを願っておいてやるよ、」
その斎藤 一の声は弾み、嬉しそうだった、『嫌味』、
『彼』のような『悪態』、
旭は闘いながら受け取った印象を加え、
また少し『斎藤 一』が好きになった、
きっと彼女はその想いすら『利用』して、強くなるのだろう。
彼の願いを背負い、強くなるのだろう。
旭は、おそらくそんなことを思いながら、
そんな自分の『業』の深さに苦笑いを浮かべ、
斎藤 一にもう一度、礼を言う、
最後の別れの言葉を言う。
「…さよなら、『斎藤 一』、あなたのおかげで、私、きっともう迷わない、
最後まで迷わない、
迷ったとしてもすぐに振り払らえる自信がある、
もしかしたら迷うかもだけど、それだけの今は『予感』がある、…ありがとう、」
斎藤 一は旭に目をやる、成長した彼女の顔をただ見つめる、
そしてまた天井に目をやり、最後の言葉を旭に返した、
「ああ、こちらこそありがとう、朝凪 旭。」
最後の相手がおまえでよかった
斎藤は目を閉じた、心のなかで、もう言葉は発せられない、『時間』なのだろう。
それでももう言葉にならない、感謝を想った。彼は笑った。
『新選組の斎藤 一』として逝った彼のカオスアニマの色は、どこかで見た2色、
浅葱色と純白、静かな輝きを放っていた。




