乱心
あれから一週間の時が流れた、
それぞれの『日常』に戻り、
龍人と旭は経験値稼ぎに『灼熱の黒鉄城』に敵を狩りに、
クスハは鍛冶屋虎徹で鍛冶業を営む日々。
だが、平穏はない、何かは起こる、
ここは通称『テラ・グラウンド』、『カルマ』、『地獄』『絶望の楽園』。
リディアの港、いつも通り龍人と旭は最小限の軽装で涼んでいた、
何も変わらない、いつもの情景。すれ違う、見かける者達からしたら何も変わらない、
いつもの情景、
『日常』。
二人は木の板の地面に腰を下ろし胡座をかいている、
その下には海の水が静かに押し寄せ、引く、漂う、風も吹く、
いつもどおりの場所、旭は刀を手に、訝しむようにそれを見つめている。
「どうだ、その、『継式 虎徹改』は、今日初めて使ったんだよな?」
「そう、今日初めて使ったけど、うーん、まぁそりゃ強いっちゃ強いけど、
こういう『強さ』って、虎徹さんが、『作った人』が使うから『重み』があるし、
『増す』し、なんか、やっちゃいけない『チート』、って感じするなぁ」
「…なるほどな、アリデリーナの『禁忌』を他者が使う、みたいなもんだな」
「うん、それ、同じような理由で『果てなきオーラのロングソード』も
強化したはいいけどリスク高すぎて使いどころがないんだよなぁ、」
「まぁあれは使わんほうがいいわな、
虎徹には悪いがお前はお前の『勘』を信じろよ、」
「うん、そうする、アニマを楽に稼ぎたいわけじゃないし、
あくまで目標は『転生』だからね」
そう言うと旭は『虎徹改』を武器ポケットに収納する、
「ふむ、その豊満な『胸』のように、夢も『広大』なのですな。」
「? 誰!?」
旭から見て右から声がした、油断していたわけではないが、
立ち上がり胸を揺らしつつも臨戦態勢を取る旭。
「!?…誰も…いない?」
「ここです、旭のお嬢さん、本当は見えてるんじゃないですか、
ここです、下です。わざとなら人が悪い、」
旭は言われるがまま視線を下にやると
黒く赤いラインの入っているシルクハットを被った『なにか』がいた。
「あ~~その帽子、確か、…ジョージ?、雑貨商人の」
旭は少しその場から、黒いシルクハットから遠ざかり、
そのシルクハットの全体を把握する、
「はい、ジョージ、アヒルのジョージです、」
「珍しいな、こんなところに来るなんて、どうした」
アヒルのジョージ、
普段は始まりと終わりの村、アイテールにて雑貨商人をしている。
『動物商人クインテット』の一人、
『代表』の、アヒルのジョージ。
『クインテット』のメンバーは
ホッキョクグマのアルフレド、
ペンギンのゴーシュ、
黒と白の毛色の猫のクレオパトラ、
柴犬の小太郎、
そしてこのアヒルのジョージの5匹である。
普段はアイテール近くの土地で『お茶』を作り、
大聖堂から支給される布をつかい、
つなぎあわせ定着させ大布として売ったりなどをして生計を立てている。
「それが―」
アヒルのジョージが話そうとした瞬間、男の声がそれを遮った。
「ジョージ、危ないだろ~、勝手に一人で行ってしまったら」
龍人と同じ程度の体格に見える、陽気な感じの金髪の男が歩み寄ってきた。
「おお、すまないジャック、久々の外出に僕の雄としての、
漢しての、冒険者としての心が高鳴ってしまったんだ」
そう自分の行動理由を告白するアヒルのジョージを丁寧に掴み左肩に乗せる金髪の男、
ジャックと呼ばれた男。
「お~~そうか、だが二度とやるなよ、お茶が飲めなくなるのは困る、ハニーも悲しむ」
ジャックと呼ばれた男はそう言いながら左肩に乗せたジョージの首元を右手で優しく撫でる。
「…あんたは? よく見かける顔だな」
胡座をかき続けている龍人は、
見下される形になっているジャックを見上げながら尋ねる。
「そうだな、俺もよく見かけてるぞ『脳筋』、私はジャック、ジャック・ユーキリス」
「…吾妻龍人だ、」
「朝凪 旭です」
龍人と、ついでに旭もジャックに名を告げる、
「お~~プリティガール、あの時のイチャイチャぶりはすごかったね~~」
旭の両肩をジャックは両手で掴み、その肩を音を鳴らして軽く数度叩いた、
「うっ見てたんですか」
またそれかと、思い出して赤面する旭、
「見てたよ~~そりゃねぇ、あの夜はハニーと燃えてしまったよ~
ハッスルハッスルしてしまったよ~~」
旭の両肩にあったジャックの両手はジャック自身の両肩を掴み、
その後自身の両肩を掴んでいた手は腰に行き、
ハッスルハッスルと下品に腰と手を行き違いになるように前後に動かす、
「ッッッ(かぁぁぁぁぁッッ)【ハッスル…】」
旭は両手で顔を覆い、更に赤面する、何かを想像したのだろうか、
「そういやあんたいつも女連れだったな?『現世』か?
それともやっぱりこっちに来てからできた女か?」
「『現世』だよ~、かなり珍しいらしいね、
ほぼ同時期にハニーとこの『世界』『テラ・グラウンド』に来たんだ」
ほぼ同時にこの世界、『テラ・グラウンド』に来ることは確率としてはあるが、ほぼない、
様々な時代の人、動物、恐竜、が一同に集う場所、
そこに、現世で死んだ時間の前後は関係ない、
『転生』が許されるのは自身が死んだ瞬間以降、という縛りはあるが、
龍人も、旭もほぼ同じ時代を生きていた、
だが出会うまで、かなりの年数を要したのは言うまでもない、
だが人口が増加した龍人たち『現代人』は数が多いため、
多少の時間のズレ程度で会える確率はそれなりにある。
「そりゃ珍しすぎるな、で、ジャック、それとジョージ、それで俺達にいったい何のようだ?」
「とりあえずアイテールに来てもらえるかなぁ~それが一番早いよ」
「えーこほん、私が端的に言おう、」
シルクハットを被ったアヒル、ジョージは言う。
ジャックの左肩に乗りながら、やや真剣な面持ちで、
右の白い翼で黒いシルクハットを正し、その黄色いくちばしを動かした。
「『ヴァルディリス王』が『ルアーノ・ヴァルディリス』が『乱心』した、」
「!?」




