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龍人対虎徹

挿絵(By みてみん)



 ここは『ガルデアの塔』幾つもの塔と塔の間にある中継地点、円形の広場、

 いつも敵として存在する、

 もはや雑魚と化した騎士は一時的に排除され、そこには龍人と虎徹と、旭とクスハがいた。



「どうしてですか、師匠ッ」



 クスハは問う、その理由も告げない、『師匠』虎徹に投げかける。



「黙れ、俺の勝手だ、見届けろ」



 虎徹はそう、冷たく、見届けろと、クスハに目もくれず相対する龍人から視線を外さない、



「準備はいいか、『虎徹』、」



 その視線を受け止め続ける龍人は、始まりの確認をする、

 いつものトレードマークの小汚いマントは外されている。



「ああ、いいよ、『龍人』、『覚悟』はできてる」



「どうしてっ、どうしてなのッ」



「龍人、やめられないのッ」



 ついには泣きはじめ泣きじゃくるクスハとそれを支える旭、

 その発言に龍人は明確に答える、



「旭、お前も黙ってろっ」



「あいつの、『虎徹』の顔を見ろ、あの顔は、『覚悟』を決めた、

 いや、『満足』しちまった奴の顔だ、時期に『浄化』される、」



「気づいていたか、さすがだな、『脳筋』」



 虎徹は顔を崩しニヤリと笑う、



「散るまえに、お前とやり合いたかった」



 その言葉に、龍人は感謝する、『カオスアニマ』が、この世界に長く居るか、

 それとも、『本気』で目指すだけの動機、

 『本気』の心のみが作り出せるアニマの結晶、『カオスアニマ』、

 その宣誓を言い、成立するだけで、龍人にとってはありがたいのだ。



「なあ虎徹、いい加減フルネーム教えてくれよ、長い付き合いだろ」



「…そうだな、言わなかったのは特に意味はない、

 こんな地獄で必要ないと想っていたからな、」



「俺の名前は伊原木虎徹いばらきこてつだ」



「…いい名字じゃねぇか、虎徹、中二病っぽいぞ」



「またよくわからん言葉を言う、俺はただの虎徹だ、それでいいだろう?」



「いや、知っておきたかった、お前の、フルネームを。それだけで意味はあるんだよ」



「…誓え、龍人、お前からでいい、」



「吾妻龍人は、伊原木虎徹と、カオスアニマを賭けて戦うことを誓う、」



「伊原木虎徹は、吾妻龍人と、カオスアニマを賭けて戦うことを誓う、」



 互いの身体が、一瞬、仄暗ほのぐらく光り輝く、

 既に契約は成された、負けたほうは、カオスアニマと化す、キャンセルなど聞かない、



「ああ、ありがてぇ、遠慮無く『貰うぜ』、その『カオスアニマ』」



 龍人は言う、『貰う』と、しかしそれは、違う、

 龍人もわかってはいる、この『親父』が、『虎徹』が、

 タダでくれるとなどとは思っていない、『微塵』も思っていない、

 だが、負ける気など『微塵』もしていない、

 だが龍人からしたら『貰う』も同然なのだ、

 しかし、それすらわかりつつ、虎徹も答える、意気揚々と、言葉を発する。



「『勘違い』するなよ、俺は、死ぬ、『浄化』され、だがな、

 どう死ぬかその『問題』はどちらでもいい、

 『最強の脳筋』とやりあって、勝ち、死ぬ、

 それとも負けてお前の『糧』となる、

 どちらでも俺は構わないんだよ。『結果』はどちらでも構わない、

 だが、その道を『切り開く』のは、『俺』か『お前』か、

 『まだ決まっちゃいない』、『わかるな?』龍人、」

 


 確かにおまえに分がある、だが落ち着けこの若造、まだ『結果』は決まっちゃいない、

 たとえ決まっていたとしても、その『道程』を楽しまずどうする?

 虎徹はそう、龍人をたしなめる。



「…ああ、『わかったよ』虎徹、…だが『一つ』だけ『助言』をしてやる、」



 龍人の左手は胸元、薬指を立て1を表し、その指は必然的に天を指す、

 その左手を高く掲げる、

 右目を開け、左目を閉じながらそう語る。



「助言? なんだ、言ってみろ、」



 つむっていた左のまゆを開け、右手には大剣ヴォルファングを持つ、

 手を上げて天を指す左手にもう一本のヴォルファングを展開し、龍人は言う、 



「…最初から、『全力』で来い、」



 その龍人の言葉に歯をむき出しに笑う虎徹、



「…『無論』、そのつもりだ。」



 虎徹は不敵な笑みとともに『武器』、『刀』を展開させる、

 それは、まだ誰も見ぬ、誰も知らぬ、『新作』。




「!?」




「俺が『虎徹』をベースに作り出した、『新種』、

 『継式つぐしき 虎徹改こてつあらため』」




「これが、俺の『全力』だ」




 武器『虎徹』よりも、2倍以上長い、長刀、この世界でリーチはかなりの重要度を誇る。

 それは、鍛冶屋虎徹がこの『世界』で創りだした『傑作』、

 刀でありながら槍と同じような間合いで戦うことができ、

 元の『虎徹』程度のスタミナ消費量、動作、隙で攻撃を可能にする刀、

 それが『継式 虎徹改』。



「あまり『鍛冶屋』を舐めるなよ、『脳筋』」



「伊達にお前より僅かばかり短いがこの長きに渡り、この『地獄』にいないぜ?」

 これは合図、




「この…『たぬき』がッ」




 これは、戦い、『カオスアニマ』を賭けた、命を、魂を賭けた、




「俺は『虎』だぜ? 龍人ッ」




 もう避けられぬ戦、




 二人は衝突する、初手は虎徹、

 長くスタミナの消費が低い虎徹改で突きを数発放つ、

 頬をかすりながら、腕にかすりながらも虎徹の胸元まで余裕で入り込む龍人、

 虎徹は感じる、いや感じ続けている、

 二つの大剣『ヴォルファング』その『威圧感』、いや、『恐怖感』というべきか。


 規格外の『脳筋』が起こす、無慈悲な2連撃、

 想像力のある、妄想力のある、それらが必要な『鍛冶屋』なら、

 その『想像』は、凡人が感じる『恐怖感』とは比べ物にもならない、

 しかし、龍人のその狂気溢れる初手は、虎徹はかわすす、『完璧』に、かすりもせず躱す、



「やるじゃねぇか」



「ふん、」



 ただそれだけ、一言だけ互いに発し、再び命のやり取りは続く、



「ッッちっ(さっきより、動きが速ぇッ、スタミナと、技術力、適応力、

 並じゃねぇさすがっ虎徹っ、

 ムダに長い間俺に付き合っただけのことはある)」



「どうしたっ『脳筋』、食らいまくってるぞッ」



 虎徹の言葉の通り、体力は半分以下になるほどに龍人はダメージを負っている、

 10回程はもう斬られている、突かれている、一旦5メートル程の距離を取る龍人、

 余裕な面持ちで回復の瓶レピオス瓶を取り出し堂々と飲み始める、

 ほんの僅かに近づけば、余裕で虎徹改の間合いであるのに、



「くぅぅぅっレピオスが染みるぜっ、」



 キンキンに冷えたコーラもしくはビールを飲んでいるかのごとく、

 大げさにリアクションをかます龍人、レピオス瓶を顔近くまで掲げ更に続ける、



「いいのかよ、全回復しちまうぜ?」



 虎徹はその挑発に乗る、のらざらるえない。



「…舐めるなッッ」



 二回目のレピオス瓶を連続飲みではなくもう一回単発で飲もうとする龍人に

 突きではない連撃を放つ、一つ、二つ、三つ、四つ、左、右、左、右、

 二回目の回復分を奪う、容赦のない連撃、

 龍人は武器攻撃による累積値が溜まり仰け反る、

 仰け反り応じて虎徹は更に攻撃を仕掛け容赦なく龍人の体に二回剣撃を見舞う、

 スタミナ管理、その為に虎徹は間合いをとる、

 5メートル、6メートル、油断はならない、精神は確実にすり減る、たとえ優勢であっても、



「くぅぅぅぅぅっっ」



 龍人はまた回復薬の湧き出るレピオス瓶を飲み干す、



「まだ始まったばかりだ、ゆっくりやろうや」



 龍人が余裕なのは無理も無い、『実践』、その、精神摩耗は、尋常ではない、

 慣れがない者には尚更である、



「はぁッはぁッはぁッ」



「くぅぅぅぅぅッ」




 何度、繰り返しただろうやり取り、

 毎回ダメージを負っているのは龍人、しかし見た目疲弊しているのは虎徹、



「まじめに戦えッ龍人ッ、」



 吠える虎徹に動じず言葉を発する龍人、



「…まじめに戦ってるさ、わかってるんだろう?」



「ちっ」



「どういうことですか…旭さん、」



 クスハは涙を目尻にためながら隣りにいる旭に問う、



「…もう、勝負は決まっている、最初から、決まってるの、」


「えっ?」



「龍人は、心を折り、全てを封じ、勝利しようとしている、

 ただそれだけ、むしろ回復薬を使ってあえて自分を追い込む余裕すらある、」



 旭が解説している間も虎徹は攻撃を続ける、

 しかし、もうかすりすらしなくなっている、

 その状況下で、攻撃の間の間に龍人は言う、



「だいたいもう見切った、お前の独自のモーションの間合いも、

 通常のモーションの間合いも、あんたの呼吸も、」



 はぁはぁと息を整えた虎徹は声を発すると同時に龍人に襲いかかる、



「言うだけならッッ」



 虎徹の『虎徹改』は、虎徹の右腕が、弾かれる、『パリー』、

 それは武器でも可能、タイミングよく、

 龍人は左手のヴォルファングで通常パリーモーションで虎徹の攻撃を弾いたのだ、

 それはすなわち『致命の一撃』、2・5倍の脳筋の一撃が、無条件で入る状態、



「(尻もち?、死?、耐えられる?、防御力は150、

 体力はおそらく龍人を超え6000以上もある、

 最大強化のヴォル・ファングの攻撃力は500、

 なぜ装備に高い筋力を求められているのかも全く理由が不明な

 ただの大剣達と左程変わらない攻撃力、意味のない脳筋の装備、

 それでも、筋力はこの世界一、そして両手持ち、

 いや、両手持ちの致命の一撃にダメージ的にはこの世界では特に意味はない、

 しかしわからない、いや、流石に一撃は、一撃で死ぬことはないだろう?、)」



 だが、眼前に居るのは、『この世界歴史上最強の脳筋』、

 たとえ、一撃死がなかろうと、人の感じるイメージ、『所作』、

 『本能』、『予感』、『恐怖』、『痛み』、



「(痛みに備えろッ、次の行動を、すみやかに、取らなければ『死』ッッ、)」



「(耐えっ)」



 龍人は、容赦なく、

 二つのヴォルファングを尻餅をついている虎徹に振りかざし、振り下ろした。



「「ッッッッッ」」



 二刀の同時の『致命の一撃』、はっきり言ってあまり意味はない。

 二刀だとしても与えるダメージは利き手に持つ装備に9割以上依存するからである。

 若干の一割にも満たない攻撃力の上昇を見るに過ぎないが、

 やられた相手に与えるダメージはダメージだけではない。



「「ごはぁぁぁッッッッ」」



 声を上げ、耐えられぬ異常な痛みが虎徹を容赦なく襲う、

 だが、体は動く、当たり前だが、動かないわけはない、

 恐怖に呑まれてはいけない、起き上がり、なんとか虎徹は龍人との距離を取り、

 レピオス瓶を飲み干す、飲み干す、飲み干す、3回も飲み干す、

 意味もなく3回飲み干す、龍人は襲っては来ない、その読みは正しい、



「はぁッッはぁッはぁッ、

 さすが…『脳筋』…カンカンだけやってた鍛冶屋とは『場数』が違いすぎるなッ、

 筋違いなのはわかっちゃいるがズルいとすら感じやがる。

 (ダメージは3000弱辺りってところか)」



 先程より激しく肩で呼吸をする虎徹、見るからに限界に近い、



「ならどうする? やめるか? やめられなはしないがな、」



「冗談を言うなッッ」



 呼吸が整わぬまま、虎徹は再び龍人に攻撃を仕掛ける、



「やめて、やめて、師匠、」



 クスハの声は届かない、聞こえてもいやしない、

 無常にも龍人は、その攻撃を躱しながらその中から丁寧に一つを選択し、

 パリーを決める、今度は攻撃もせず立ち上がってくるのを待つ。

 何度、何度、何十度繰り返したのだろうか、

 もはや、初手で全てを叩き落とす、龍人。尻餅をつく虎徹。龍人は問う。



「…もう…いいか、」



「はぁッはぁッはぁッ…よかねぇ…よかねぇよ、」



 立ち上がりながら虎徹は答え、続ける、



「はぁッはぁッはぁッ、まだ感じてねぇ、最強、最強の『脳筋』の本気というやつを」



「…いいのか?」



「はぁッはぁッはぁッ、もとより、それが『望み』ッ」



 その言葉と同時に、襲いかかる虎徹、龍人は静かに笑い、そして言った。

 言葉を発した。



「…後悔、するなよ」



 それぞれの手にあったヴォルファング、

 左手に持つヴォルファングを龍人は収納する、

 片手のヴォルファング、総合的なモーションの『攻撃力』は落ちる、

 しかし、それは『問題』ではない、これは手加減、

 

 二刀は、実はハンデ。



「「ッッッ」」



 久しぶりに虎徹の攻撃が入る、二つも、三つも、四つも、いや、七つも入る、

 しかし、虎徹はミスを犯す。冷静でいられるはずもない、

 久しぶりにダメージを負い、与えてきた相手が


 『脳筋』吾妻龍人、


 それは仕方のないこと、そう、スタミナ管理を怠ったのである。

 スタミナを使いきった、つまり、スタミナが回復するまでは、

 もしくは攻撃を貰うまではこの間合、避けられない、

 強靭な意思があれば対価を払いあるいはでは有るが、

 そんな『例外』は今は発動などしない、

 『片手』の『最強の脳筋』の『連撃』、

 いや、『煉獄れんごく』といったほうが正しいだろうか?

 通常モーションではない、『独自モーション』、

 通常モーションに頼らない、この世界の『想定外』の『脳筋』の筋力に任せた、

 倒れることを許されない、無慈悲の『煉獄』、


 虎徹にはもう『恐怖しかなかった』。




「「ッッッ(怖え、なんだこりゃ)」」




  一撃が入る、龍人の豪腕から繰り出される片手の大剣ヴォルファングの一撃、

 右から左へ、そのスピードは、『神速』、彼にとって、通常モーションも『手加減』、

 虎徹にとって左上から右下へ、虎徹を切り裂き、

 虎徹の『なにか』を砕きながら、

 龍人は振ったヴォルファングを返す刀で次の独自モーションを起こす、




「(痛てぇ、怖えぇ、だがまた、『くるっ』、『きやがるッッ』)」




 虎徹も龍人と同じ時間、いや、ややその時間より短く、この世界にいる、『異端』、

 戦闘経験もそれなりにある、龍人に付き合い狩りに付き合ったことも何度も有る、

 故に攻撃自体は見えなくはない、

 龍人はそのまま左から右上に、ヴォルファングを横に薙ぎ払う、



「(ああ、つええ、怖えよ、スタミナ管理を間違わなくとも、『動けなかった』だろうな)」



 また、その右腕を、ヴォルファングが、龍人が止まることはない、

 容赦のない三撃目、モーションが『起こる』、『巻き起こる』。



「ッッッ(もう、攻撃を『食らった』から回避行動を移せるはずなのに、

 移せねぇ、動けねぇ、倒れてえのに人の『所作』が、

 俺の『イメージ』が衝撃で動けないと、

 倒れられないというイメージを持っちまってるッッ、)」





   



    「(…時間の進みが遅せぇ)」









     「(ああ…、これが、)」
















       『最強の脳筋』












 10回に及ぶ龍人の全スタミナの限界すらとうに超えて放たれた攻撃は、

 勝負を決定した。

  

 

  絶対に、『転生』、しろよ、龍人


  最初に会った時から、わかっていた、

  こいつの抱える『熱量』のでかさに、

  こいつらの時代の言葉で言う『サイズ』に、


  俺は、そうだ、あてられちまったんだ、この男の途方も無い、

  馬鹿みたいな『サイズ』に、生かされちまった。

  

  この世界を攻略しようってやつはほとんど居なかった、

  ヴァルディリス王とか話に聞くガルデア王とか、

  奴らは転生を目指しちゃいなかった、

  他にも見どころのあるやつは今までごまんといたが、

  それでも、龍人程のやつはいなかった。

  次から次へと新しい『新種』の武器を持ってきては、

  強化させられた、

  俺の『技量』が『技術力』が足らないことが何度もあった、

  その度にこいつのめちゃくちゃに付き合わされて

  経験値を稼ぎに行かされたこともあった、           

  まったく、迷惑な野郎だよ、お前は


  ここ300年、いや、たまに一瞬だけ顔をだすのはカウントしないなら

  千年以上か、

  強化するものもなくなったからな、まったく来なくなった、

  俺の役目は終わったと思った、

  だが、俺は、『満足』していなかった、なにか、引っかかってた。


  クスハに出会って、こいつに繋ぐことか、そうも思った、

  それも『半分』だったんだろう

  久しぶりに来たこいつは、全く違う顔をしてた、昔と違う、

  毒が抜けたとか、狂気がなくなったとか、そうじゃねぇ、

  弱くなったとかでもねぇ

  ようやく、こいつの、脳筋の、収まる『鞘』が、いや、

  共に駆け上がる、『同士』が、見つかったんだと、

  俺は察した。それが、俺の『満足』のもう『半分』、  




  …俺が、俺が転生に付き合えれば…、





      よかったんだがなぁ…、                     












      …悪いな、龍人――――










 虎徹は、吹き飛ぶ、天を見上げて、最後の一撃は突き、吹き飛ぶ他ない、

 吹き飛んだ虎徹はどこか満足げな顔をしている。

 そのまま地面に落ち、地面を擦りながら勢いを殺し、ようやく止まった、




「師匠っ、師匠ッ」




「…クスハ、お前は、もうとっくの昔に一人前だ、

 そして俺よりも、良い鍛冶屋になる、だから、俺のように、

 笑って死ねるその日まで、戦い続けろ、いいな、」



「はい、はいッ、」



 泣きじゃくるクスハはただ、返事をするしかない、



「…良い返事だ」



 虎徹は持っていた『虎徹改』を差し出す、そして譲渡申請をする、旭に、



「旭のお嬢ちゃん、どうやらまだ時間がある、

 この世界は優しいな、だからこの刀を託す、好きに使え、

 …龍人を、……『脳筋』を頼む、」



「…はい」



 旭は刀を抱いて、ただ、そう答える、




「ああ…、いい…、『人生』だった…、」




「虎徹」




「…なに泣いてやがる、そんな顔するな龍人、

 お前は確かに、『最強』だったよ、

 …負けるなよ」




 龍人は泣いていた、斬りつけた剣から、

 ヴォルファングから伝わったのか、

 いや、既に満足していた鍛冶屋虎徹の霊子、

 漏れていた『記憶』、『アニマ』に触れ、感じたのだろう、

 虎徹の『想い』を『同士』になってやれなかった『謝罪』を、感じてしまったのである。




「ああ」

 



 静かに涙を流しながら、龍人は短く応えた。




「…ありがとう、クスハ……」




 虎徹はクスハの頬に手を添えながら、そう最後の言葉を口にした。





  何一つ、悔いはない、

  俺の意志を継いでくれる娘がいる。 

  お前のこれからの『成長』など見なくてもわかる、

  お前の終わりも案外速いかもしれない、だが、付き合ってやれ、

 

  この、二人馬鹿に、転生を目指そうという馬鹿に、

  俺の分まで付き合ってやってくれ






   「「うあぁぁぁぁぁぁぁッッッ」」






 クスハの鳴き声が、あたりに響き渡る、ガルデアの塔に、虚しく響き渡る、

 鍛冶屋虎徹は、カオスアニマと化した。


 その色彩は、黒と灰色、鎧や、武器のような、

 銀色ではなく少し汚れたグレー、しかし輝く銀色に見えなくもない、それは、鍛冶屋の色。




「…確かに、受け取ったぜ、虎徹、」




 そのカオスアニマを手に持ちながら、龍人は、決意を新たにする、




「受け取ったよ、虎徹さん、私も、受け取ったよ」




 旭もまた、『継式 虎徹改』を胸に抱え、カオスアニマに含まれなかった虎徹の、

 漏れ散っていたアニマに触れ、想いに触れ一筋の涙を流した、

 それでもその顔は、決意に満ちた、戦士の顔だった。



 夕暮れ時のカルデアの塔に今日も風は吹いている。





一旦更新終了です。

後は発売日17日更新です。



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