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『彼』について 

死なない程度にがんばります。


 一人の男がいる、


 客観的に見て、


 いや客観的に見なくとも

 『彼』の人生はとても順風満帆だったとは口が裂けても言いがたい。

 

 酒に溺れ、口を出し、手を出し、足を出し、容赦のない虐待をする父、

 なす術なく、ただ暴力を受け入れる母のもとに『彼』は生まれた。


 『彼』自身が成長したことにより、その虐待は当然のごとく『彼』に向く。

 子供ゆえ、誰かに助けを求めない、求められない、そんな『発想』すらない、

 ただ、ただ、耐える日々が続いた。


 自分の非力さを、力の無さを、悔いた、

 子供故に、彼は『世界』が『理不尽』であるということも知らなかった。

 彼はめぐらせた、思考を邏らせた。

 ただ、どうしたら、このような時に対処する力に入るのかと

 『思考』だけは止めなかった。


 中学生に成長した頃には『思考それ』は『彼』日常となった、

 しかし彼自身、『思考それ』を利用し『行動』に移し、

 『虐待』という現実を本当に解決する方向にはいつまでも到達しない。

 しかし止めない、『思考』を止めない。


 どう彼自身が行動したなら、父親を虐待をどうにかできるのか、

 その思考時間は余人よじんには計り知れないほどに、

 本人すら不明なほどに、

 そんな計測などどうでもいいと言わんばかりに彼はただ考える。

 しかし答えは出ない。時折実践してみるが、

 ただやられるだけで結末はいつも一緒。ボロボロ。

 そんな日は『彼』はよく、程よく生い茂った斜面の草むらに腰を下ろし、

 夜の夜空を眺めていた。

 

 しかし、『彼』は幸いだった、


 『彼の父が酒に溺れていた』ということが、

 『彼』の父を文字通り溺れさせたのである。

 どこぞで倒れ、入院、余命宣告、

 『彼』はなにが起こっているのかよくわからないまま、

 1ヶ月ほどで『彼』の父はこの世を去ったのだ。


 一通りの手間、…手間と言うのはいささか失礼だろうか?

 客観的に見て、それが妥当だと思われるので

 あえて彼の父の後始末を『手間』と言わせてもらおう。

 その手間から開放され、『彼』は日常に戻ることになる。


 しばらく『彼』は彼の日常を淡々と過ごすが、

 さすがの『彼』も違和感は拭えない、

 違和感を感じざる得ない、

 だが、『彼』は驚くほど遅く、塵が積もっていくように、

 日々、わずかずつ違和感は降り積もり、

 父の死から1年後、ようやく気づいたのだ。

  

 ―――ああ、俺、『なにか』から開放されたんだ。

 

 小さな声で中学の通学路、淡い桃色の桜の舞う街道の帰路のさなか、

 『彼』は空を見上げそう心の中で呟いた。


 これはそう、『彼』、吾妻龍人あずまたつとの物語である。


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