必然の戦い、そして決着
ようやく落ち着いた二人はこの世界に来てからのことを話し始める。
「そうか、お前を殺した理道正知は、この世界で龍人くんが倒してくれたのか」
「うん、そう、来たばかりで全然実力も足らなかったし、
今ならやっつけられる自信はあるんだけどね」
「そうか、逮捕前に交通事故で死んでしまってな、
罪を償わせることも出来なかった、
だがこの世界で一死報えたのならよかったよ。
私も気が晴れたよ。ありがとう龍人くん」
「いや、俺がそうしたいからそうしただけだ、礼を言われることじゃない」
「ふふふ、褒められられてないな、まぁいい」
「それで、お父さんはどうするの? これから」
「そうだな、優先順位第一位の旭との再会を果たしたし、
理道も龍人くんが討ち取ってくれた、
心残りがあるとすれば、遙、妻のことくらいか…正確には元妻、だがな」
「お母さん…か、三ヶ月前に確認した時はまだ来てなかったけど」
「…そうか…まぁいまさら会って、なにを言っていいかもわからん、
離婚した旦那がいまさらな。生前おまえのこともあって、
何度か顔を合わせはしたが、石化する鉱石ももう残り少ない、
そろそろ潮時なのかもな、
娘に会えただけでも私はこの世界で、意味人生は報われたよ」
「やだお父さん今にでも消えちゃいそうな感じなこと言わないでよ」
「…旭、外に出よう、ここは閉鎖的すぎるからな」
「う、うん」
旭は違和感を感じながらも大河と龍人と共にからくりの塔から離脱した。
離脱方法は簡単で、大河が銅像と化していた場所の脇に、
小さい床のスイッチが存在していたのでそれを押せばその一角がエレベーターとなり、
入ってきたエレベーターとは違う場所に出る仕組みになっていた。
ガルデアの塔、中腹の塔、朝凪大河はその情景を眺める、風は戦いでいる、
「良い風だ、時期に夜が明けるな」
「すごいよねお父さん達がここを作ったんだよね」
「ああ、作るの時間かかったんだ、今となっては何もかも懐かしい」
朝凪大河は旭に視線をやる、旭もその視線を受け止める、
真正面から、真剣な面持ちで朝凪大河は旭を見つめる。そして口を開く、
「…さぁやろうか、旭」
「えっ? なにを?」
旭は意図を理解できない、当然ではある。
「決まっているだろう、『カオスアニマ』を賭けた戦いだよ」
「!?」
「どうせ消える命、無駄にする意味は無いだろう」
大河は淡々と状況を節目しながら装備を展開させる、それはロングソード、鉄の中盾、
「お父、さん?」
「持って一週間、と言ったところか」
「いや、いやっ、お父さんの言ってる意味、私わからないよ」
旭は涙する、錯乱したかのように取り乱す、
「旭、『転生』を目指すのだろう?
誰も成したことのない『奇跡』、消える前に、
父さんに可能性を見せてくれ、私を、安心させて欲しい」
大河はあくまで冷静に状況を把握し、
最善の、最良の、最高の自分自身の使い方に向かう。
「わかんなんよ、そんなのっ、わかんなよッ」
「いいや、お前はわかっているはずだ、剣を取りなさい、旭」
「旭、使える全てを利用するくらいじゃないと、
辿りつけないのはわかってるだろう?
こういうのはな、だいたいそういうものなのだ。
私が、意味、遥にしたように、自分のやりたいことの探求のために、
私は意味妻を、母さんを犠牲にしたように、」
大河の言葉は重い、犠牲はつきもの、かつて現世で、
時計作りに没頭した彼は、バランスを欠いたことに気づかず、
修復する気もなく、容赦なく意味妻切り捨てた。
何かに没頭するということは、何かの犠牲なしではいられない、
彼が尽力したのなら、バランスを取ろうと熱量の比率を変えたのなら、
離婚せずに済んだのかもしれない。
しかし、そうはなれなかった、
それほどまでに探求と言うものは罪深く、時に残酷、
光のように生きることが全ての人にとって正しいわけではない。
「わかってるけどっ でもッ、でもッ」
「朝凪 大河は、朝凪 旭と、カオスアニマを賭けて戦うことを誓う」
朝凪大河は聞く耳はあるが、それでももう、それしか選択肢がない、
だからこその誓い、その表情は真剣、
娘が転生を願うのならそれに準ずる、ただそれだけ、彼はその姿勢でも旭に伝える。
「……ッッッ」
「できるな、旭、」
それは、よく知った父の顔。旭が好きだった、
時計作りの面白さを説いてた時の、情熱と、楽しさと、苦しさと、
色んな感情が混じった、父の顔だった。憧れた、父がそこにいた。
「…あ、朝凪 旭は、…あ、朝凪 大河とっ、
カオス、アニマを、賭けてっ、戦うことを…誓う」
旭は泣きながらも、号泣しながらも言葉を繋ぐ、
彼女は言い終わった後、歯を食いしばる、
淵獣王ブラキエンドに自分が吐いた言葉を思い出す、
【利用するよ、利用する、利用できるものなら、
どんな感情でさえ、人でさえ、獣さえ、竜でさえ、
親でさえ私は利用する、正しさだけでは辿りつけない、
ここは地獄、テラ・グラウンド、
この世界に降りるすべての魂を利用する、
その果てがきっと転生、…覚悟はしてる】
覚悟はしてる
二人の体が一瞬仄暗く輝く、契約は成された。
「さぁ契約は成された、見せてみなさい、脳筋の相棒とやらの実力を」
「お父…さん、私、私、」
覚悟してるつもりだった、口先だけだった、
でも、しなきゃいけない、覚悟を、
私の勘が、そうしろって、囁いてる、最低なのはわかる、
それでも、私はそうしようとしている。
『愚かさ』でさえ、利用しないと辿り着けない
私は閃光、白き閃光、でも時に悪とも取れる闇も必要、
わかってる、わかってるよ、私は、私の中の、
この答えを出す、もうひとりの私を、
どうしようもなく、信じているんだ。
この、誰かからしたら間違いとすら取られることも、
許容する『勘』、
悪側のことでも
『転生』への道のために必要ならそれを知らせてくれる勘に、
それすらも疑い、咀嚼して答えが同じなのなら、
それはもう、選択肢はない、
迷うべきではない、閃光の道、私の選ぶべき正しき道、
「いつまで泣いている、さぁ来るんだ」
旭は涙を拭う、その顔は決意に満ちているようには一様には見える、
「…、行くよ、お父さん」
旭はロングソードと鉄の小盾を手に一歩踏み出す、
それはまだ少し、ほんの僅か迷いのある踏み込み、そして一気に間合いを詰める、
それはまだ完全でない閃光の一撃、
しかしそれでもこの半年間は安くはない、
十分な一撃、そのロングソードの一撃は、
確実に殺意を持って旭の父、朝凪大河を襲う。
「ッッッ」
パリー、旭は尻餅をついている、キョトンとした顔を晒し、
3秒後ようやく自体を把握しそのまま立ち尽くす父に目をやる、
「なっっ」
旭の驚愕の声を発すると、大河はニヤリと不敵に笑った。
「…あまり舐めてもらっては困るぞ、
私はガルデア王の右腕、『閃光の虎』、朝凪 大河だぞ、
言ったはずだ旭、私を、安心させてみなさい」
朝凪大河は致命の一撃を放たない、意味完全ではない全力に、
そんな一撃を与えても何の意味もない、朝凪大河は距離を取る、
旭はその背中を見ながら立ち上がる、
「(…強い、お父さん、なに、この迫力は)」
「(『おしゃぶりタイガー』なんてとんでもねぇこの親父、やるぞ)」
「さぁ立ちなさい、次からは容赦なく致命の一撃だろうと、
連撃だろうと、止めはしない」
旭は立ち上がる、その顔にもはや迷いはない、彼女は『転生』を目指す、脳筋の相棒、
朝凪 旭、最強の脳筋を超えるつもりの白き閃光、
「お父さん、行くね」
「ああ、来なさい、全力で」
仕切り直し、旭は再び間合いを詰める、朝凪大河もこれに応戦する、
剣閃が飛び交う、二人は笑う、その修練にお互いに焦る、
汗は飛び散る、龍人はただ見守る、
「(…良い親父さんだな、
俺は、親父とこんな戦いはできないだろう、
恐らく、どうしようもない戦いになる、
お互いを認められず、嫌ったまま戦うだろう、
…なぁ旭、ちょっと……ちょっと妬けるぜ?)」
戦いの最中朝凪大河は想う、
「(強くなったな、僅か半年でここまでとは、
本当に目指しているんだな、しかし。
その道はあまりに過酷、あまりに非道、人の道ではない、
鬼にも修羅にもならねばならぬ道)」
「(これを越えて、超えていけるか? 旭 我が最愛の娘よ)」
「ッッッ(これはっ、領域?)」
それは領域、白き世界、朝凪大河の足元は白き世界になる、
旭も、龍人も、その領域に引きずり込まれる。
「未完成ではあるが、私が閃光の虎と言われた所以、見せてやろう」
「(ヴァルディリスも領域はかつて使えたと聞く、
だが俺とやりあったときはもう使えなくなってたがな、
ガルデア王も使えたと聞く、
その右腕ならこれくらいは当然といえば当然、どうする旭、
この親父、本気で『どっちでもいい』みたいだぞ)」
『どっちでもいい』それは、旭がこの場でカオスアニマになろうとも、
自分がカオスアニマになろうとも『どちらでもいい』、
彼はただ、娘の道のための試練になるべく、ただ全力を尽くす、
その果ての結果など今はどうでもいい、
ただ今に全力、彼の名は朝凪大河、閃光の虎、
「行くぞッッ」
「ッッッ(速い)」
生者の限界を引き出しやすくする『領域』、朝凪大河は旭を翻弄する、
ロングソードで容赦なく娘を斬りつける、その形相は鬼、
そうでなくては斬れはしない、彼に優しさが無いわけではない、
鬼と化してまで彼は戦う、
この地獄で、実の娘と殺し合う、
「どうした、旭、そんなものかッ」
旭は間合いを取る、
「ぷはぁっっ冗談、」
旭はレピオス瓶を飲み干す。
その表情に映る感情は、焦りと、死への恐怖、超えるべき壁の出現への感謝。
「ッッッ(私も、私の領域に、入らないと、勝てるわけないッッ)」
しかし、間合いを詰められ、旭は攻撃を、連撃を貰う、防戦一方、
「がぁッッッ」
旭は吹き飛ぶ、それは旭がイメージした所作、
本来はそこまで吹き飛ばない、焦りと、恐怖が生む所作。
旭は片膝をついて見上げる、父を、大河を、超えるべき壁を、
「はぁッはぁッはぁッ(どうしてっ入れないっ)」
旭は立ち上がる、レピオス瓶をまた飲む、繰り返される行為、
「焦っているな、旭、『領域』は、
熟練の生者でもほんの一部しか踏み込めない領域、
自在に使うとなったら数えるほどしか到達できないない高等技術だ、
簡単ではない、ましてやまだこの世界にきて僅か半年、
本来、そんな領域に達する必要性はない」
「だが、お前はもう踏み込んだのだろう?
見ていればわかる、いやそれは適切ではないな、感じる、というべきか、
異様なオーラというべきか、もちろん龍人くんからも感じる」
「その私の感じた勘が、語るのだ、囁くのだ、
この壁を、今超えられなければ、旭、
お前は龍人くんと行くべきではない、わかっているだろう」
「わかってる、言われなくたって、わかってるッ」
「ならば示しなさい、私が、安心していけるように、父である私すら利用してみせろ」
「言われなくてもッ」
気合を入れて間合いを詰める旭、しかし、
「ッッッ」
パリー、それは成される、旭は尻餅をつき、
大河は容赦なく宣言通り今度は致命の一撃を間もなく旭の胸に突き立てる。
「グッッッッ(どうしてっ)」
朝凪大河は背中を向け距離を取る、
旭はダメージ部分の胸を抑えながら立ち上がる。
その眼前には、振り返った父、朝凪大河、
「はぁッはぁッはぁッ」
「駄目だなそれでは」
今度は大河が間合いを詰める、旭の攻撃はことごとく空を切る、
「そんなものかッッ」
大河のロングソードの連撃、旭はただ、また吹き飛ぶ、
その地面に吹き飛ばされた旭に大河は言い放つ、
「それで『転生』に至れるなら、私はもう至っているぞ、
ガルデア王も、ヴァルディリスも、龍人くんも」
「はぁッはぁッはぁッ」
それは事実、それは分かっている、
朝凪 旭は呼吸を荒げながら父の言葉を聞くしかない、
「領域とは己の全てを賭けて、作り出す領域、
お前の深層心理の奥底でなぜか使えていない領域がある、
全ての人間性を狂気性を信仰性を使うんだ」
「ッッッ(そんなことわかってるのにっ)」
どうしたんだろう、私、
駄目だ、なにか、おかしい、
なに?、なにかが、おかしい
「(…そうか)」
龍人はその原因に気づく、
まだ完全にいつも入れるわけではない旭の領域、
だからこれは別段そこまでおかしくない、
しかし、旭は異常だった、この半年の奇跡、
この状況で領域に入れないほど旭の潜った修羅場は伊達ではない、
その半分以上を見てきた龍人は大河の次に気づく。
「旭、お前は何のために転生を求める」
「ッッッ、私はっ私はっお父さんにっ、……」
「(あれ、…お父さんに、会えた、ごめんなさいって言えた。
私を殺した奴にも龍人が一矢報いてくれた、
後は、龍人を龍人を超えたい、
超えられなくても隣に居られるくらい強くなって、一緒に転生したい……)」
「そっか…」
「……わかったよ」
「だから、もう少し付き合って」
旭は気づく、領域に入れない理由に、
「ああ、こいっ」
旭も大河もお互いに間合いを詰める、
二つのロングソードは互いを狙い、互いに躱し空を切る、
「(私は、張り直す、目標の更新、
今まではピンと調度良く転生に向かって張られていた一本の目標という縄、
それが、緩んだんだ、だから、だったら、張り直せばいい)」
「ッッッ」
「くッッッッッ」
お互いに攻撃をもらう、距離を取る、
「はぁッはぁッはぁッはぁッ」
「ふぅ…(変わった? 調節できたのか、折り合いがついたのか、
折り合いが取れ始めているのか?
そんな簡単に調節できるものではないがっさすが我が娘ッッ)」
まだ旭の足元に白き世界は見当たらない、
それでも彼女の動きは生者の限界に近づいて入る、人の限界は超えている。
「行くッッ(もう少し、もう少しッッ)」
「ッッッ」
「ちぃぃっっっ」
朝凪大河は旭の連撃を貰う、その大河の目に旭の足元が映る、
それは白、白き未完の領域、
大河は自分の白い領域ではないそれを五感全てで感じる、
旭は朝凪大河の苦し紛れの攻撃をパリーする、そして致命の一撃を見舞う、
「がぁぁぁぁッッッ」
朝凪大河は立ち上がりレピオス瓶を飲む、
旭はそれを見ながら一瞬目を閉じる、一旦白き世界は戻り、
ガルデアの塔に戻る、
「(そうか、そこか、そこなんだ、わかった、私は、それでいい)」
見開かれた旭の瞳は深緑のエメラルド、いつもの旭、
「お父さん、ありがとう、私、もう大丈夫だから」
その自信に溢れた声音、それだけで朝凪大河は納得する、
「…どうやらそうらしいな、私も全てを尽くそう」
朝凪大河はそう言うと、白き世界を再び展開させる。
彼の精一杯、恐らく旭よりも持たない不完全な第8魔術、
「うん、ありがとう」
それは起こる、その感謝とともに旭の白き世界が展開される、それも第8魔術。
二つの世界は合わさり、どちらの世界とも分からない白の領域、
龍人は二つの領域に巻き込まれる。
ただ見守る、この戦いの行く末を、
この場にいる3人がもう知っている。
それは決着が近いこと、
「いくぞッ」「いくッ」
それは同時、示し合わせたかのような合図、
先制したのは朝凪大河のロングソード独自モーションの攻撃、
右上からの左下への打ち下ろし、旭はそれを躱す、人とも生者とも思えぬスピードで躱す、
「ッッッ(もっと、もっと疾く)」
「ッッッ(疾い、私より、確実に疾い、半年、だと?
バカを言うな私は1500年の生者、
ガルデア・マキナスの側近、閃光の虎だぞッッ)」
「ッッッ(もっと余裕しゃくしゃくで、避けられるけど、
ギリギリを楽しむように、この一瞬を無駄にしないようにッッ)」
「ッッッ(旭、お前は、これを、躱すのかッッ)」
それは大河のロングソードの渾身の一撃、
旭が間合いに入ってくるところへの踏み込んでの左から右への横薙ぎ、
それは高速、旭はそれを更に頭を低くして躱す、
顎先ギリギリを地面に、
ただ懐に最速で飛び込むだけを考えての回避、
前へ、彼女は白き閃光、
その刹那 朝凪大河は聞く、
「ありがとう、お父さん、私、辿り着いてみせるから」
さよなら お父さん
高速の神速の連撃、それは朝凪大河を、父を斬り刻む、
倒れることすら許さない、絶命寸前まで至らせる、
スタミナ配分などお構いなし、
ただ父を倒すためだけに旭はスタミナを捻り出す、体力すら対価に差し出す、
しかし朝凪大河も止まらない、
血の一滴すら全て娘のために燃やすように、
極限の最中の最速の一撃、突き、
彼が生涯で投じた一撃の中の最高、奇跡、無意識的に放たれる。
「――――ッッ」
旭は栗色の髪を棚引かせ、
少し髪の先端をその剣撃に斬られながらも、前へ踏み込む、
朝凪大河はその娘の表情を見る、
なんて顔をしている、
どれ程の修羅場をくぐってきたのだ、僅か数ヶ月で、
私が、『閃光の虎』が、焦り、
見惚れてしまうほどの、閃光、
私の、愛娘、
遙、旭は私が想うよりずっと、
この世界で強くなっていたぞ、
朝凪大河は刹那、思い出す、それは別に走馬灯ではない、
この子の名は旭、旭だ。
どうして、旭なの?
一昨年君と見た旭、元旦の旭、
あの旭のように、見ているものに元気を与えて、
焦らせるほどの輝きをいつか持って欲しい、
持ち続けて何かに挑んで欲しい欲しい
そう言う思いを込めたんだよ
そう…、旭…いい名前ね、
大量の涙を目尻に溜めながら、歯を食いしばりながら、
旭は父の胸を貫いた。
白き世界は崩壊していく、そこはガルデアの塔、中腹、
海から太陽が、『旭』が立ち昇る、二人を照らす。
「旭、強く、なったな、たった数ヶ月で、見違えた」
「…ようやく会えたのに、お父さん、お父さんっ」
旭は泣く、戦いが終わり、ただの朝凪 旭に、
彼の娘にこの瞬間だけは戻る、
「旭、よく聞きなさい、ここは魂の墓場、カルマ、業、
テラ・グラウンド、魂の浄化の場、
これは必然だ、旭の為に死ねるのだから、何も後悔はない」
「だって、だってッ、」
「ガルデア王と、仲間たちと、この世界と戦い、城を築き、馬鹿もやった、
仲間たちが去っていくのも見てきた、
そして最愛の娘に出会えた、私は恵まれすぎている、もう、いいんだ」
「全然良くないよ…良くないよっ」
旭はわかってる、だが、それでも今この時だけは女子高生朝凪 旭、
「龍人くん、娘を、頼む、転生の道は険しいだろう、
どんな結果であれ、最後まで娘のそばに、旭のそばに居てやってくれ、
私にはそれができない」
「…ああ、任せてくれ」
大河は龍人に視線をやり、そう言葉を掛け、龍人は言葉少なに大河の言葉に応える。
「旭、母さんのこと、許してやってほしい、私が悪いんだ、
もし会うことがあればちゃんと話をしなさい、遙も相当悔いていたからね」
再び胸の中の旭に視線を送り、優しい顔で母のことを託す、
「うん、うん、わかってる、わかってるよ」
旭はグチョグチョの顔を上げ、大河の、父の最後の顔を見る、
「さぁそろそろ時間だ」
いい旭だなぁ
あれは、母さんと見た旭に似ているな、
私は、幸せものだ。
暖かいな、この、温もりは、
朝凪大河は娘の旭の胸の中で笑いながらカオスアニマになる、
その色は、青と白と赤の混沌、大河のような青と、
旭に焼ける赤い空の色。
その色はまさしく閃光の虎、白き閃光の父の色。
情熱の赤と、白き閃光と、海のような広大な青。
「お父さん…ありがとう」
「強くて、面白い、親父さんだったな」
「…うん、だって、私の、さいっこうのお父さんだから」
ガルデアの塔に、少し冷たい、どこか暖かい朝凪が吹いた。
旭の栗色の髪は揺れる、太陽が、旭の光が、旭の涙を照らす、精一杯の笑顔を照らす。
龍人は、静かに微笑んだ。
脳筋おじさんと野盗の王と獣の王とカラクリおじさん 了
4巻イラスト付き短編付きで各所で発売中。
無料1巻分コミカライズもよろしくおねがいします。