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ハルノソラ  作者: 弓原優歌
春を告げる者
7/13

第六話『二代目』

 翌日、生はいつものように学園に向かう。

 いつも通り雪の降る寒い道路を一人歩いていく。

 学園に着くと生は昨日と同じように自分の席に着く。

 すると今日は昨日学園に来ていたからか、反応は薄い。変わりにまた変わった話が聞こえてきた。


『ねえねえ、知ってる?』


『ん~、何?』


『昨日幽霊が出たんだってさ!』


『………昨日の話?』


『違う違う、そうじゃなくて。本物だよ、本物!街に出たんだって』


『それ、誰から聞いたの?』


『さ~、誰だっけ』


『何それ~』


『どこかで聞いたんだけどなあ~』


『それで?幽霊がどうしたんだっけ?』


『だから出たんだって。確か駅前だったと思うよ』


『駅前?普通幽霊って言ったら墓地じゃないの』


『でも駅前って聞いたよ』


『それでどんなのだって?』


『えっと、確か女性で白かったって聞いた。美人だったんだって』


『なんかそれ話が盛られてない?』


『それがさ、目撃者が何人も居たらしいんだよ』


『へ~、そうなんだ』


『まあ私は見てないんだけどね』


『知ってるわよ』


 そんな話だった。

 また幽霊の話だ。

 昨日も同じ話だったが、今日は昨日よりも具体的な話のようだ。

 白い女性の幽霊。

 定番と言えば定番だ。むしろ白い女性以外の幽霊の話の方が聞かないだろう。

 とはいえ、心当たりがある生にとっては事実であるか否かは明白だった。

 ただし、生がそれを言うわけがない。第一、生は他の生徒からは恐怖の対象として認識されているため、特定の相手以外とは話してもらえない。別にそれで生が困っていることなどはないが。

 生は窓の外をいつものようにぼんやりと眺めているとポケットの中で振動するものがあった。


「はぁ………」


 生はため息を吐いて昨日と同じように机から立ち上がろうとして教室の外に人影を見つけてしまった。

 一瞬面倒臭そうな表情を浮かべた。


「先輩、そんな面倒臭そうな表情を浮かべないでください」


「………実際、面倒臭いんだよ」


 生は数少ない自分びに声をかけてくれる生徒、水沢飛鳥にそう告げる。

 飛鳥は風紀委員を務める二年生、つまり後輩だ。

 そんな飛鳥とは本来部活や委員会にでも入っていなければ関わりを持つことはないが、生に関しては別だった。


「先輩、昨日学園に居ましたよね」


「ああ」


「私が連絡したときにも居ましたよね?」


「いや」


 しれっと生は嘘をついた。

 正直、飛鳥の相手をするのは面倒だと思っている生は相手を刺激しない程度に受け流そうとする。


「まあ、どっちでもいいんですけど。でも今日は来て貰いますからね」


 飛鳥はやや強引に生の腕を引っ張る。

 女子とはいえ、飛鳥は並みの女子生徒よりは力がある。というよりもこの学園の風紀委員は何故か荒事に慣れているため、生でも押さえられることが多い。


「………ち」


 生は逃げようとしたが、思いの外上手く腕を掴まれているせいで抜け出せない。

 仕方なく飛鳥に従ってついていくことにする。


「それで、今日は何の用だよ」


「………私、昨日メールしましたよね。そこに書いてあったんですけど、まさかそれも読んでないんですか?」


 確かに昨日メールは来た。

 しかし誰かからかも内容も分かっていたので意図的に見なかった。読むよりも先に逃げることに意識が向いたためにメールを確認しなかった。

 それがなくても普段から持っているだけのスマホにはほとんど触れていない。


「読んでない」


「読んでください」


「面倒だ。説明しろ、二代目」


「………はあ、少しは自分でやろうって気がないんですか?」


「ならない」


「そうですか………」


 飛鳥は呆れて項垂れた。


「まあ、今日は昨日とは別件。というより先輩に客人です」


「あ、客?」


 生は滅多にない客人が、誰も生に関わりたくないと言う意味合いで、来ることがないので思わず聞き返した。

 生たちの通う学園は街、若戸市との結び付きがかなり強いために学園生に対して訪問者が来ることがある。委員会や部活、ボランティアなども盛んに行っている節があるので他と比べると少し変に感じられるだろう。

 そのため、この場合の客というのは何らかの学園に関することで外部の人が学園生に対して会うというものだ。つまるところ、生にはほとんど関係のない話である。


「はい。私、驚きましたよ。先輩にあんな綺麗な知り合いがいたんですね」


「………」


「………先輩、なんて顔してるんですか」


 生は飛鳥の言葉を聞いて思わず顔をしかめた。

 誰が来たのかを想像できたからだ。

 思ったよりも早かったと言うべきか、いずれ来てしまうとは思っていたが、生の予想が外れた。それがいいことかどうかはまだ分からないが、とりあえずは会うことが優先だろう。


「それで知り合いなんですよね?」


「ああ、ただの知り合いだ」


 生が答えを簡潔に言うと飛鳥は顔に手を当てて宙を仰ぐ。


「………すいません、先輩。私は始関先輩のように先輩の僅かな言葉から推測するような頭脳はないので具体的な説明をお願いします」


 飛鳥はこめかみを押さえてうんざりした表情で言う。

 飛鳥がうんざりした表情を浮かべたのは生の発言が分かりにくいからだ。しかも本人はそれでいいと思っている。

 生は物事を面倒臭がる傾向が他人よりも一層強く、必要なこと以外はやらない。勉強や学園のことに関してはユキとの約束があるのである程度は行っているが、決して励んでなどいない。

 そしてそれは他人と会話するときにも大きく出る。具体的には短い単語で会話したり、そもそも会話しなかったりする。

 これはある程度の期間を一緒にいないと生が何を言っているのか分からず、それゆえに他人からは終始不機嫌なように見えるのだ。実際不機嫌な事の方が多いが。

 その点でほぼ産まれたときからずっと一緒にいたユキや一年以上風紀委員として関わってきた冬華はなんとなく会話の意図を取れたりする。


「昨日会った奴」


「ああ………。本当にただの知り合いですね」


 飛鳥は生の言葉を聞いて、心の中では何やったんだ、この人と思っていた。

 常識的に考えて、昨日会ったばかりの女性が学園でも生粋の問題不良児である生に会いに来ることはどう考えてもおかしい。というかそもそも初対面で次の日に会いに来ること自体が変である。

 そのせいで飛鳥は生が何かをやらかしたのだと勘違いしているのだが、実際はそんなことは全くない。本当にただ会って、ちょっとしたアドバイスをしただけだ。


「まあ、本人に聞けばいいか………」


 飛鳥は少しだけこの場で生のことを問い質してみることも考えたが、会いに来た女性に直接聞けばいいと思い直した。

 ここで生から聞くよりもそっちの方が絶対に早い。言葉足らずで分かりにくく、おまけに面倒臭がってろくに話もしない生に聞くよりも早く済むのは明らかだ。

 そして二人は生に会いに来た女性の元へ向かった。

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