6-G
この世界の通貨を知った俺は、そのまま店主の御厚意で『質屋』にも案内してもらった。どうやらその場所とは知り合いだったらしく、俺のために『紹介状』まで用意してくれる程だ。
こんな俺には勿体ないくらいの気遣いには、痛み入るモノもある。その店へと向かい、俺は無事にこの世界の『金』を手に入れた。
『……結構な資金になったな、有難い。』
店から南側に位置する場所にある質屋を後にした俺は、普段から財布として使用している『麻袋』の重みを感じていた。金貨であれば量に比例して袋が肥大するため質量も増すが、この世界の通貨は比較的『軽い』 おかげで変にかさばる事無く移動も楽だったが、果たして俺の所持金と同等かそれ以上になったのか、そこだけは少し不安だったりもする。
現に資金以下になっていたら、しゃれにならねえしな。などと思いながら店を後にした俺は、鼻先をかすめた香りに誘われて一軒の店に向かって行った。
始めて視る代物にたじろぎながらも、俺は慣れない注文をし食材を調達する。パンを主原料に間に食材を挿んだ代物だが、この世界では『ハンバーガー』と言うらしい。元々パン自体は慣れ親しんだ食材だから抵抗は無いが、鮮度の高い『野菜』に関してはあまり食べた事が無い。
どちらかと言えば『乾燥物』の方が流通しているからだろう、始めて視た時は何かと思ったくらいだ。知ってる世界と知らない世界とでは、こうも差があるとはな。 やっぱり解らないことだらけだ。
その後の俺の動きは比較的『短調』で、人目に付かず高所な隠れ場所を探し、その場で時を待つ事を選んでいた。現に『戻る術』が解らない今、俺が出来る事は限られてるし下手に動いて『足跡』を付ける事だけは、自然と避けていたんだと思う。
元々の生活状況と俺の素性が、普通にバレちまいそうだな。
「……ん、旨い。」
そんな良き隠れ場所を見つけたのは、陽が傾き明るさを失った時間。俺からすれば『見慣れない外』を視て一瞬たじろいだが、変に気にしても仕方ねえ。
今はジッと、時を待つんだ。
現に暗くなる空模様を視て武器に手が伸びちまう程に、この世界の空には不思議な変化が生じている。俺の知る世界は常に陽が落ちる事無く日差しを降ろし、フードを被らずに外に出る事はまず無い。現に俺は道路ではない場所を歩いている頻度が高いからこそ、尚更この景色には違和感を覚えたくらいだ。
しかし向こうと違って空気が澄んでいるのが、少し有難い。
『……… 帰れるんだよな、元の世界に……』
ガラにもねえけど、そんな言葉を吐きたくなる。今の生き方を選んで間もない時の様な寂しさが、俺の心に居座っている様な感じだった。