6
本人に内緒で赴き拝借した水の解析を終えると、俺は再び路地を後にし人通りの多い場へとやってきた。軍事会社セルベトルガのある区域からそう遠くはない場所に存在するショッピングストリートは、今日も活気のある賑わいを見せていた。
都市中央駅周辺に位置するこの大通りは、幾多の企業ビルが立ち並ぶ周辺を諸戸もしない店が幾つも軒並み連なって出来た場所だ。定食から軽食、専門店から菓子屋まで種類は豊富であり、俗にいう『デートスポット』としても認知度が高い。俺も何度か赴いた際にはぷらぷらと歩いていたりするが、正直何かを買うわけではない為『冷やかし』と言われても否定は出来ない。
資金的に買物も勿論可能だが、俺は食生活に関しては特に気にする余地が無い為、本当に使うのは稀と言える。
俺の身体は確かにギラムと大差ない造りをしているが、根本的に『人間』として通用するかと言われたらそうではない。幾多の薬品と共にギラムの素子情報を用いて造られた俺だ、食事に関しては本当にそう言った面でも配慮されていると言っても間違いでは無いんだろう。基本的に『食べたいモノだけ食べると良い』とベネディスには言われている上、前例の『リターブ』の件もある。
食っても食わなくても一緒なんだろう。
そう言った意味では、俺はこの都市内で口にしたのは『コーヒー』くらいと言える。それ以外は食べた事は無いし、仮にギラムと食べる機会が無ければ多分今後も食べないと思う。興味はそこからしか、今は無い。
そんな事を思っていた、回想後の事だった。
「……あら、珍しいわね。こんなところで会うなんて。」
「?」
リターブを行い再びリーヴァリィへとやって来た俺は、セルベトルガでの思い出を振り返った際に、ショッピングストリートで声をかけられた。まさか誰かから声をかけられるとは思ってもみなかった俺だが、声に反応しないのも返ってオカシイだろう。いつも通り静かに振り返ると、そこにはワンピース姿で髪を下ろした美麗な女性が立っていた。背丈は俺よりも低く胸元くらいまでしか無いだろうが、正直背丈は元々高いから基準がどれくらいかはイマイチ解らない。
なので、そこは保留しておこう。
振り返り相手を見ていると、彼女はその日非番で買い物に来ていた事を話しだした。恐らくギラムと間違えているのだろうと思い軽く相槌を打ちながら頷いていると、彼女は満足した様子で口元に笑みを浮かべ可愛らしい笑顔を見せていた。でも俺からすると誰か解らない為、正直何とも言えない。
見知った顔の様な気がするが、何処か違う気がするのは何故だろう。
「……ぁっ、こんな所で呼び止め続けるのも難ね。つい話し込んじゃったわ。」
「気にしなくて良いぜ。……またな。」
「えぇ。」
とはいえ、相手から話を切り上げてくれたので去るタイミングは普通にやって来た。俺は変わらない対応でそう言い振り返ると、静かに歩き出そうとした。
まさに、その時だった。
「………ねえ、貴方。」
「?」
「一つだけ確認したいのだけれど。……貴方、本当に『ギラム』?」
『えっ?』
お互いに別れられるだろうと思った矢先、俺は唐突に気になる単語を耳で拾っていた。これまた突然だった為正直驚いたが、何より『ギラムなのか』と問いかけられるとは思ってもみなかったからだ。この人は一体、ギラムの事をどれだけ知っているのだろうか。
再び振り返り相手の顔を視ると、彼女は軽く首を傾げながら俺の顔をまじまじと見ていた。その眼は軽く疑惑を抱いた目である事は即座に分かったが、幸いにも敵意に満ちた目では無かった。人通りの多いこんな場所でその気になられても困るが、そう言った意味では『確認』を込めた質問だったのかもしれない。
俺は内心返答に困りつつ言葉を選んでいた時、彼女は続けてこう言った。
「私はそれなりに長い時間、ギラムを見て来たつもりだし接してきた時間も多いつもりよ。仮にもし彼を偽った悪意ある存在ならば、看過出来ないわ。」
「………」
「でも、さっきのやり取りを聞いた限りでは『悪意』は感じられなかった。だけども、貴方はこうして『ギラム』と同じ姿をしている。……それは何故かしら。」
『………疑惑は既に明確に成ってる、って感じだな。誤魔化すのはダメだな。』
既にいろいろ見破られている感覚を感じた俺は言葉を聞くと、静かに頷き『ギラムではない』事を行動で示した。しかし彼女の言う通り『悪意ある存在』では無いのもまた事実な為、話せる範囲で話そうと思った。
「流石だな。……俺の名前は『ピニオ・ウォータ』、訳合ってギラムを模して造られた『ゼルレスト』だ。」
「ゼルレスト……? 聞かない単語ね。」
「詳しくはギラムに聞いてくれれば、解ると思う。俺の事はギラムも認知してるし、現に一度『創憎主』を相手に共闘したくらいだ。君の言う『悪意ある存在』かどうかは、その後に決めてくれて良い。」
「………」
「俺がココに居る理由に関しても、ギラムは把握してる。……俺から多く情報を語る事は出来ないから、これで済ませてくれると有難い。」
「そう……… ……なら、一つだけ聞かせて頂戴。」
「?」
「貴方はギラムを、どういう存在だと思ってる?」
「……… 俺が目指すべき、真憧士だと思ってるぜ。幾ら知っても知り足りないくらいに、高見に近い存在だ……ってな。」
「そう、それを聞けて安心したわ。私の眼も曇ってないって所かしらね。」
「曇る……?」
「貴方は善良な想いから創られた存在。ギラムを利用した存在だったなら即座に消し飛ばして差し上げる所だけれど、そうでないのなら良いわ。ギラムも知ってるなら、話は早そうだもの。」
「……… 君は、ギラムが好きなのか。」
「えぇ、彼以上の殿方は居ないと思ってるわ。ラクトが聞いたら何て言うかしらね。」
そんな問いかけに様々な感情が入り混じったが、最終的に彼女はそんな風に笑みをこぼしていた。俺にはよくわからない事だらけであったが、少なくともこの人は『ギラムを信用している存在』である事だけは解った。彼の事を良く見て理解しているからこそ、俺がどんな存在なのかを知り結果後にどうするかを決めている。
危険視する相手なら即座に対応するところを見ると、ギラムとは違い創憎主は『不要』と考えて居るんだろうな。手を組むならとても心強い相手ではあるが、何処か割り切りが過ぎて少し怖い部分も感じられなくはない。ギラムはどう思っているかはわからないが、それでも頼もしい仲間の一人なんだろうな。
ラクトと言うのは恐らく『エリナス』なんだろう、彼女もリアナスなんだな。
「それじゃ、長々と呼び止めて御免なさいね。貴方にも目的があるのでしょ?」
「あ、あぁ……」
「なら、その目的の為に動きなさい。共に手を組めるのなら、私は気にしないわ。逆なら容赦しないから、そのつもりでね。」
「了解。……えっと。」
「『サインナ・ミット』 サインナで良いわよ、ピニオ。」
「ありがとう、サインナ。またな。」
「えぇ、またね。」
そう言って俺等はその場を後にし、互いに背中を向けて歩き出した。彼女は本当にギラムを理解してるんだな、ちょっとだけ羨ましいぜ。




