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どの企業、どの職場においても上に行けばそれなりの金子に合わせてリスクがセットでやってくると言って良いだろう。軍事会社セルベトルガにおいてもそれは例外では無く、外部班は名を汚す事は出来ず、内部班は上層に置いての機密を守る義務が発生する。だがそれは本人達の望む仕事に置いて必要な条件だったとも読み取れるが、逆に望まずに手に入れてしまった事柄に過ぎ無いのかもしれない。
社員達は何を望み、そして何を得る為にその場においてその仕事を行っているのか。造られたばかりの俺にはよく分からない事柄の一つに分類されるソレだが、この会社ではその相違を打破するべく展開された『入社事前制度』がある事を俺は知っている。それは『勤務形態自己分析診断』と言う、少し長ったらしいが解りやすい名前のモノだ。
雇用する側は『この仕事を行って貰いたい、この仕事を補佐してほしい』と言った『仕事内容』に対する案件を先に提示して来る。しかし雇用される側は『これだけの賃金が欲しい、仕事はこれくらいしたい』と言った『報酬内容』で選別する傾向があるのは、語る間でも無いだろう。現代都市リーヴァリィにおいてもそれは変わりなく、幾ら報酬が良くても自ら行いたくない仕事をしては長続きはせず、結果的にいずれ社員を逃し再度新規開拓する手間と時間を要する事となる。
この分析診断はそう言った『双方の接点をより明確にし、かつ本人が何を求め仕事を続けていく上で何が大事なのか』を明確にする事が出来、結果的に双方の手間や苦労を最小限にする事を目的としている。
主な分析内容をザックリ説明すると、まず始めに雇用される側が『どんな条件であると良い』と考えているかを調べる事。人間は十人十色多種多様な人種に性格を組み合わせた集合体であり、例え一重にグループ分けが叶ったとしても同じ扱いで良いとは限らない。人によっては『昼間にしっかり働きたい』と言う者も居れば『隙間時間に働きたい、長く働きたい』と言う人もおり、中には『人目に付かない夜間に働きたい』と言う者も居るだろう。この時点で希望する時間帯は双方に分かれ、勤務する時間も上下しておりパターンが分かれた事に気付くだろう。
セルベトルガにおいてはそんな人材の要望を叶えるべく双方の時間帯の仕事は用意されており、企業側が活動を中心とする仕事によっては昼夜逆転もゼロではない。依頼は何時如何なる時であってもやって来るため、それを管理する者も常駐する必要があれば守護する者も必要となって来るだろう。希望する時間帯と勤務時間をこの時点で選定し、次の診断に移行される。
勤務時間が大まかに決定すると、今度はそれに対し『どれだけの報酬が必要か』を調べる。これはあくまで『理想とする賃金が幾らか』と言った方面では無く、事前に調べるのは『その人がどれくらいの賃金で日々を生活する水準に至るか』を割り出すのだ。元よりセンスミントで個人情報が管理されたこの現代都市だ、それくらいを算出するのは朝飯前だろう。
人間が生活するに必要な『衣食住』に対する傾向や概念、毎月の固定出費額、そして身体を保つ為に重要視な趣味への金額は幾ら位なのか。必要最低限とされる金子がハッキリすればまず生きる事が可能であり、それを満たす条件が何処かハッキリすれば、企業に務め始め苦労有れど生活する事は出来る。努めても金子が足りなければそれは満たされない為、いずれ離れてしまう事も多いにあり得る、これは見逃せない重要な事と言って良いだろう。
だがその為に『こうしなければダメだ』と言う『強制』を強いてはいけない、あくまで事前診断である事を忘れてはいけない。
最低限がハッキリした後、次に明確にするべきは『本人の理想』だ。幾らなんでも必要最低限のまま生活しようと考える者は、余程の事を除けば極一部であり趣味にのめり込み過ぎているかもしれない。殆どの人間は『最低限が満たされれば、次なる欲望が生まれて来る』為、上限は無く次なるステップアップを図るのは必然だろう。
夢も理想も大きく壮大な方が、より人生を謳歌出来ると言ったものだ。
あくまでこれは俺の憶測に過ぎ無いが、大抵の人間は『必要最低限の倍額』がその金額に値するだろうと俺は考える。独り身であれば約二倍、養う相手が居ればその人数分増えて良き、子供が居れば尚更その賃金は増えて行くのは間違いないだろう。子育ては大変なのは眼に視えているが、俺にはギラムの記憶でそちら側は存在しないから多くは語れないし、情報もほとんどない。
だが面倒臭がる人の傾向は観察済みの為、場合によっては『貯金は下手だからそっちもお願いしたい』と言う輩も居るだろう、セルベトルガはその辺りも寛容だ。何かと抜け目のない制度に、更なる仕組みを追加していると思う。
そして勤務時間と金子が決定した後、最後に行われるのが『どんな仕事をしたいか』だ。人によっては外部班希望も居れば内部班希望も居る為、その辺りは分析を通して採用担当者が話を聞いて行く必要があるだろう。求める人材とは多少異なれど『思わぬ拾いモノ』となる可能性はゼロではない、人間は何時だって原石だ。
ココはあえて『ギラムの場合』で見てみよう、そのデータも残っていたからな。
ギラムはセルベトルガを知った経緯は比較的シンプルだが、採用される前は大まかだが望んだ条件が幾つかあった。一つは『生活に必要な資金を集める事』、一つは『連携する仕事では無く個人でも出来る仕事』 そして最も重要視していたのが、治安維持部隊を脱退した際に考えていた『自らにしか出来ない仕事がしたい』というモノだった。
傍から見れば中々に贅沢な内容だが、コレが満たせなければこの場でギラムは傭兵としての仕事は出来なかっただろう。可能としたセルベトルガも中々に凄いのではないかと、俺は思う。
生活に必要な賃金に関しては、既に事前の自己分析によってそれは把握出来た。個人でも行える仕事に関しては『外部班』が適任であり、彼の元の経歴である『治安維持部隊、陸軍部隊准士官』を視れば不可能な事でもない。おおよその目標ランクもその時点で判明しており、ギラムの場合は『Aランク前後』と言う目先の視える目標が即座に判明したと言えよう。
そして一番最後『自らにしか出来ない仕事』、これは中々に手強い。
当時のギラムは『真憧士』としてまだ目覚めては居らず、朧気な記憶の中にしか存在しなかった『クレトムーン』ではまだ可能性は低かっただろう。採用担当者は具体的な部分を知る為に質問を繰り返し、彼の言う他者に出来ない事が『指名』と言う傾向で現れやすい『承認欲求に近い』と言う結論に辿り着けた。
彼は確かに治安維持部隊で上に立てるだけの技量も知識もあったが、それが彼にしか出来ない事とは言えなかった。その気になれば誰にだって出来る事を彼が行っているだけに過ぎず、一部の隊員に関しては『駒として扱う』と言うのは当然であり、人格の尊重のへったくれもない。ギラムはその場において満足していなかった部分が存在しており、悩んだ末に治安維持部隊を脱退し転職を決意したのだ。
一部の部下達から厚い信頼感を得ていたとはいえ、それくらいでは彼も満足出来なかったと言えよう。
故に、彼を更に大きな場へと後押し出来る肩書『稼ぎ頭』が得られるのが、一番良いのではないか。採用担当者はそう考え話を持ち掛け、彼は好感を得て無事に採用に至ったのだ。
ちなみに『総務部』と言う肩書は表向きである事は、今になって話す事も無いだろう。外部班とはいえ表向きの肩書は必要であり、稼ぎ頭に成れる前まではそれが彼の世間へ対する看板だ。依頼が入るまでの時間を埋めるべく『内部班』としての仕事を覚え、組織を構成する部署との交流、また外部班として仕事をするならば『報告書』の作成も当然行わなければならない。
覚える事は山積みだが『これも鍛錬の内』と割り切り、彼は一生懸命に仕事をしたそうだ。苦手な社員との交流も適度に行い、未だに雑用を押し付けられるウチクラのお使いも、現在の彼の仕事の延長戦と言って良いだろう。
獲得してきた知識と仕事内容、人間関係は外部班でも生かされる。
採用する際に説明を受けて来たギラムは解釈に時間はかかれど、すんなりとそれを受け入れ、夢と目標の為に頑張ったのだろうと俺は思う。相手の考えを聞き理解し、そしてその上でどうしたら良いのかを考える。真憧士となった今でも続けているこの行いは、ギラムが好かれる要因の一つなんだろうと思った。
ちなみに余談だが、セルベトルガで試験運用し既に使われているこの自己分析。今では現代都市内に存在する企業全般で使われており、既に認知され周知されている制度と成ったそうだ。




