10
こちらの世界のギラムさんがライゼさん達との合流を目指し、道中を移動していたその頃。ビル上空に吹き荒れていた風が徐々に落ちつきを取り戻しながら、ライゼさん達は空を視つつ他愛のない話に花を咲かせていたのです。
話題はとてもシンプルでしたが、徐々に深いモノへと変わったのでした。
「……ぁ、そうだ。ライゼ、助けに来てもらって変な事を聞くんだが、一つだけ良いか。」
「うっす、何すか。」
「お前等は『死にたい』って望む生き物なのか……?」
「死?」
不意に話された話題、それはどんな存在であろうとも最終的に行き着く概念のコト。考えた事は誰しもあるとは思いますが、そこまで深く考えた事がある人は少数かなと、ボクは考えて居ます。
でも実際の所、どれくらいの人が一生懸命にその事を考えるのでしょうか。ボクにはよく分かりませんね
「……んー ……少なくとも、俺の知り合いにはいねえかなぁ。確かに長命な奴等は多いけど、そういう人達って大体『好きな時に死ぬ』って選択を選ぶから、自らそう思うのって結構若い奴等かも。」
「そうなのか?」
「ようは『生きる意味合いが無い』って奴等かな。俺も一時期『自暴自棄』になってた事あるから、なーんとなく分る。どう足掻いたってどうしようもねえって思うと、やっぱりそう思いたくなるんだよ。生きてる意味すら見出せなくて、自分の家ですら居場所じゃない気がしちまう。」
「………」
そんな話題に対して、ライゼさんは考えた限りで語れる言葉をギラムさんに告げだします。経験した事と共に語られるその言葉には何処となく重みがあり、ライゼさん自身もそのことを深く考えて居た側の存在なんだなとギラムさんは理解し、その後の言葉を告げる事はありませんでした。
彼からすればそんな人達の考えを度外視した行いをする仕事の為、基本的に何と言われようとも仕事をこなすのでしょう。深く考えた事の無かった概念を理解しようと言葉を考えて居た、そんな時でした。
「でもな、ギラム准尉。」
「?」
「俺はな、そんな中でも手を差し伸べてくれる人が居たからココに居る。初めはスグにその手を握れなかったけど、段々と心が前向きになっていくと……その手を『握っても良いんだ』って思えるようになれるんだ。マウルティア司教は初めからそれを望んでて、俺が生きたくないって言っても『生きろ』って言ってくれた。」
「………」
「だからさ、ギラム准尉。そういう人が現れたとしたら、准尉には『首を飛ばす』技量はあると思う。でもそれをしたくないって言うんだったら、そいつが『したいこと』をやらせてあげる方がきっと良いと思うんだ。もちろんギラム准尉には拒否権もあるから、何でもかんでも承認しろとは言わない。むしろギラム准尉だからこその返答の仕方が、きっとある。……と、俺は思うんだ。」
「俺だからこその……返答。」
「そっすよ。」
ライゼさんは否定的では無く肯定的な考え方をしている事を話し出し、ギラムさんは黙々とその言葉の意味を噛みしめる様に首を縦に振っていました。どんな状況下に置かれた存在を視て思ったのか、それは二人の間でもわかる事ではありません。面と向かってどんな人であり、その人がどんな人生を送ってきて、またそんな風に考えてしまっているのか。ケースによって変わるであろう対応策ではない、ライゼさんなりのギラムさんに向けたメッセージの様にも感じられますね。
それだけライゼさんは、ギラムさんが大好きなのが解ります。寧ろ『信頼している』と言った方が良いのかもしれませんね。ライゼさんは優しいですから。
「………そんな選択肢が、こっちの世界の俺には出来るのか。」
「出来るっすよ。俺の憧れの『准尉』っすから。」
「………そうだな。ライゼの顔を見てると、きっとそんな俺なんだろうなって思えるぜ。凄くいい顔をしてる。」
「へへッ、ちょっと照れるっス。」
「そっか。……!」
「? どうしました、ギラム准尉。 ……ぁっ。」
図星を付かれた様子のライゼさんが照れ笑いを見せていたその時、ギラムさんは何かを察した様子で左手を背後に回し、その場に立ち上がります。突然の行動を目にしたライゼさんは軽く声をかけつつ視線を向けると、遅れて感じた気配を知って何かを理解したようです。
二人の向けた視線の先、そこにはビルと屋上を隔てる扉でした。
ガチャンッ!
「!! ギラム!!」
「セイロン……!!」
「居っ……ったぁああああーーー!!! ギラムーー!!」
突如として開かれた扉の先から現れた相手、それは別の世界のギラムさんを探していた『セイロン』さんと名乗る蜥蜴人でした。扉と共に両者の視線が交わったのも束の間、相手はそう叫びながら猛進する勢いでギラムさんに突っ込みます。気迫に押されていたライゼさんが軽く怖気づく中、ギラムさんはセイロンさんの拳を掌で受け止めるのでした。
ガシッ!
「うおっ ……何だ、どうした。」
「馬っ鹿野郎……!! 何で……! 俺なんかを庇って落ちたんだ!! 俺は『居候』なんだから、身を挺してまで俺を助けなくて良かったんだぞ……!! お前を探すために投げた手紙がたったの一通しか返ってこなくて、その中でも助けに行ったら変なところで軌跡が切れたし……!! 挙句の果てに別の世界のギラムに困惑されるしぃっ!! 何でそんな事したんだ!?」
「………」
感動の再開以前に奮起するセイロンさんに対して、ギラムさんは返答に困りつつも彼が言いたい事を言わせてあげるのでした。そんな中でも受け止められた拳と肩が軽く震えているのは彼にも分かっていましたし、愚痴を零す中でも空いた右手でギラムさんの胸を軽く叩く辺りに、本人にも抑えられない部分があったんでしょうね。
どんなに叫んでも、どんなに泣いても、探していた相手が今目の前に居る。
それ以上に嬉しく無い事は無いと、セイロンさんは言いたかったのかもしれません。偶然とはいえ騒動の先で再開したギラムさんは一通り叫んだセイロンさんを視た後、落ち着いたのを見計らって左手でセイロンさんの肩に触れました。
「……?」
「仮にセイロンが自力で戻ってこれたとしても…… 俺は……セイロンと似た様な行動を取りたかったと思うからさ。助けたいって、思うじゃねえか。」
「………グスッ 殺してくれねぇくせに、何でそう言うのばっかすんだよ………」
「お前が『それ以外の選択肢を探す』って……言ってくれたからだよ。セイロン。」
半泣きのまま語るセイロンさんに対して、ギラムさんはそう言いつつ背中を優しく叩き出します。彼の動作に安心感を抱いた様子のセイロンさんはそのままギラムさんの胸板に顔を埋めたまま、落ち着くまでされるがままに背中を撫でられるのでした。
そんな二人の様子を、遅れてやってきたリーヴァリィのギラムさん達も目撃していました。
「ぉーぉー 眼前で男泣きとか。マジ絵面やべー」
「茶々入れんなよ、フィル。それだけ探してたって言うのは、こうなる前から分かってただろ?」
「へーい。」
「ギラム准尉! お早い到着っすね。」
「あぁ、俺達も丁度外に出てたからな。ライゼもお疲れさん、ピニオへの連絡ありがとな。」
「うっす! お役に立ててよかったっす!」
無事に依頼を完了すると同時に展開された喜劇を目の当たりにし、フィルんちゃんはコメントを呟きます。確かに傍から見ると『男泣き』する相手を慰める『漢』の図でしかありませんから、ちょっと華やかさには欠けますね。そんなお二人の元にライゼさんが近づくと、今回の騒動が無事に終わった事を双方で確認するのでした。
ライゼさんもライゼさんでご機嫌ですからね、きっと良い行動が出来たと思ってるはずです。表情は先程と変わりないレベルですからね、どっちのギラムさんでもきっとその表情が自然と出るのかもしれません。現によく似てますからね、ギラムさんは。
「ギラム……?」
「ん、どうしたギラム。……あぁ、ココまで連れて来てくれた方のギラムか。紹介するぜ、ギラム。」
「ぉ、おう………」
そんな外野のやり取りを耳にしてでしょうか、セイロンさんを宥めていたギラムさんは不意に視線を別の方角へと向けました。そこには井出達は違えど自身と思われる方がライゼさん達と談笑している光景があり、光景を目にしたギラムさん本人も凄く不思議そうな目を向けていたのです。
それもそのはずですね、ピニオさんとは全く異なる純粋な『別の存在』ですからね。ドッペルゲンガーって言えるくらいですよ?
視線と違和感に気付いたセイロンさんに誘われる様に、お二人は皆さんの所へと赴くのでした。
「……ってなわけで、こっちが俺の居る世界の『ギラム』だ。職業は『暗殺者』 今回は本当にありがとな、ギラム。」
「どういたしまして、セイロン。初めまして、だな。俺に対しても。」
「……そうだな。……本当に、俺なのか……?」
「そゆことー こっちは俺達の世界で『傭兵』をしてる『ギラム』だ、俺の誇れる主だぜ。」
「主……… ……飼ってるのか。」
「飼われてねえしっ、相棒だよ相棒ー 酷えなぁ、そっちの主は。」
「まあ、そんな感じだ。経緯は何であれ、俺の大事な家族だ。」
「……そうみたいだな。……よろしくな。えっと……」
「『フィル』でいいぞ、別世界の主。」
「フィル。」
お互いに自己紹介を交えたやり取りを交わしつつ、面と向かって異世界同士のギラムさんが並んでいます。ボク達のよく知るギラムさんは右目付近に痣があるのに対して、向こうの世界のギラムさんは鼻筋に一本の切り傷が入っています。それ以外は本当によく似ていて、髪型も殆ど違いは無し、瞳の色も一緒。褐色の肌色ですら一緒なんです。おまけに身体へ対する筋肉の付き方まで一緒なんですから、これはもう本当に見分ける事が出来ませんね。
ですがその場に並んでいるライゼさん、フィルんちゃん、セイロンさんにはどっちがどっちかはもう分かるみたいです。凄いですね、ボクも見習いたいです。
「何はともあれ、無事に探し出せて本当に良かった。手紙を受け取って返してくれたのは、お前か?」
「うっす。……と言っても、受け取ったのは『イオルちゃん』だから俺じゃないっすけどね。今はアイドル活動をしてるから、俺から代わりに伝えときます。」
「ほー、本当にいろんな職業の奴等が生活してるんだな。ありがとう、えっと……」
「『ライゼ・護授スクアーツ』だぜ、セイロン。」
「ライゼ。……え、何でギラムがフルネーム知ってるんだ?」
「さっき教えて貰ったんだ。……セイロンと似た雰囲気があったから、正直ライゼが居てくれてよかった。俺からも礼を言わせてくれ、ライゼ。」
「へへっ、改めてギラム准尉にお礼を言われると照れるっすね…… どういたしまして。」
その後のやり取りで一番得をしていたのは、もしかしたらライゼさんだったのかもしれません。ボク達を代表してお礼を受け取る彼の笑顔はとても爽やかで、蒼い肌が赤くなるくらいに笑顔に溢れていたんだそうです。
曖昧な表現なのは、ボクがその場に居合わせなかった事と、ギラムさんがその事を教えてくれたから。
ライゼさんはやっぱり、ギラムさんが殿方の中では大好きなんですね。
「んじゃま、長居してまた世界干渉されても面倒だし。帰ろうぜギラム。」
「あぁ。 ……ぁ、そっちの俺。」
「ん? 何だ。」
「これからも自由で生きてくれ、ギラム。」
「了解。そっちの仕事以外にも、生きる道が見つかると良いな。ギラム。」
「ありがとさん。」
そしてお互いの世界に戻るべくやり取りをした後、別の世界の住人であるギラムさんとセイロンさんは戻っていきました。帰宅方法は至ってシンプルで、ゲートを開いて帰るだけ。何故それを普段からしないで探さないのか、それはお二人だけが知ることかもしれませんね。
「……ぁーぁ、行っちまったな~」
「仕方ないっすよ、クーオリアスよりも干渉が無い世界の存在達みたいだし。ギラム准尉も、ちょい寂しいっすか?」
「いや、居るべき世界で暮らすのが一番だと俺は思うぜ。……もしかしたら、俺だってそうなってても不思議じゃない『未来』が描かれた俺の姿だったのかもしれないしさ。他人事だとは思わないぜ。」
「准尉らしい回答っすね。あとの事は、俺が伝えとくっすから。」
「よろしくな、ライゼ。」
こうしてボク達が密かにリーヴァリィの中で解決した、軌跡の一つ。それは異世界のギラムさんと蜥蜴人による、物語なのでした。おしまいっ
-EPISODE END-
更新しておりましたこちらの小説は、今回の更新を持ちまして『完結』となります。連日更新でしたが、お楽しみ頂けた方がいらっしゃる様で個人的にとても嬉しく思っております。引き続き、他の連載作品をお楽しみください。
:追記(2019/8/3)
連載しておりましたこちらの物語は、以下の作品への『序章』を描いた作品となっております。興味の有る方は下記のリンクよりどうぞ。
※年齢制限がございます作品となります、ご注意ください。
https://novel18.syosetu.com/n1194fi/




