7-F-2
「でも、こんなに似てるし同じ『ギラム』なのに違うなんて……… ……あれ。」
そんな奴が正気に戻ったのは、それから一分も経たなかった後の事。首を傾げたり憶測を立てたりと世話しなかったが、不意に主の顔を覗き込んだ時に何かに気付いたらしい。
あぁ、そっか。もう一人ともそうだったけど今の主と見分けを付ける部分が一カ所だけあったな。主の顔、右側の目元周辺には『紫色の翼を生やしたかの様な古傷』がある。
さっさとソレを視てもらえれば、もしかしたらこんなに無駄に騒がれずにずんだのかもな。
「ギラム、その傷……」
「ん? あぁ、コレか。昔の事故の名残なんだが、あんまり見ないで貰っても良いか……? ちょっと好きじゃねえんだ。」
「あぁ、悪い。 ……ちなみにだけど、過去に『鼻の上』に一筋の切り傷って合った事、あったか?」
「いや、それは無いぜ。」
「そっか。 ……じゃあやっぱり、俺の探してる『ギラム』じゃないんだな……」
そう言って相手はその場で脱力し、膝を折って座り込んでしまった。先程までの正気は無く凄く残念そうな顔を見せていたから、俺と主は互いに顔を見合わせて相手の肩と背中を撫でだした。
現によく見ると、相手の恰好はこの辺りでは確かに見た事が無い井出達だった。右肩にだけ掛かったワインレッドのマントに腰元限定の白と金の装束、そして主の様に洒落っ気のある革製のブーツ。確かに異国の人っぽいな、エリナスには変わりないんだろうけど。
後、マントの上に割いてる『黄色と白の薔薇』が地味に気になる。コサージュか?
「大丈夫か……?」
「あぁ…… ……ちょっと、無駄に燥いでて困らせてたな。ごめんな、ギラム。」
「良いって、それくらい。ちなみにだが、お前さんの探してる『ギラム』はどんな奴だ? さっき言ってた『鼻の上に傷を負ったギラム』が、そうなのか?」
「あぁ、俺が最後に視た姿のままならそのはずだ。少なくとも回廊内で『時空間の乱れ』は無かったから、変に年を重ねてたり差し引かれてたりはしないはずだから、傷は残ってる。」
「じゃあ、俺の知り合いじゃあねえな。そいつにも鼻の上には傷が無いからさ。」
「え? この世界には、もう一人居るのか??」
「事実は少し違うが、まあ一応な。」
「へ、へぇー……」
めっちゃどういう反応をしたらいいのか解らないって感じで、主の言葉に返事を返す相手。ま、無理もねえけどな。人間ならまだしも、相手は造形体だし『異世界で造られた相手』だしな。主自身もどー説明したら良いのやらって顔してるしな、やっぱお人良しだな。
だが俺は何度も言わせてもらおう、そんな主が大好きだ。
「………」
「良かったら、俺も探そうか? そのギラム。」
「え?」
「この世界に居る確証はねえけど、これも何かの縁だ。お前が捜索を依頼してくれるなら、俺は助力を惜しまないぜ。」
「ほ、本当か……?」
「おう。」
そう言いながら相手の眼を見て主は答え、いつも通りの笑顔を浮かべ出す。マジで漢の鑑って感じ過ぎて、尚更惚れちまいそうになる。 いや現に惚れてるけどさ、改めてって奴だよ。
相手も若干見惚れてるし、こりゃ探し人が相当大事なんだと思われる。仮に主と同じ姿、人間の主なら俺も拝んでみたい気はする。イケメンコンビか、もしくはデュオと言っておくべきか。
「主、またそんな金になりそうにねえ仕事請ける気かー? 会社じゃホイホイ請けねえくせに。」
「困った相手とこういう縁で合ったんだったら、別に依頼とかじゃなくても俺は手を貸すぜ。フィルもそうだろ?」
「まぁ、そうだけどさ…… 別に主に逆らう理由もねえし。」
「んじゃ、決まりだな。お前さん、名前は?」
「ぁ…… ………『セイロン』」
「セイロンか、良い名だな。セイロン、依頼の間よろしくな。」
「お、おう……! ギラム!!」
そう叫んだ相手は主の差し出した手に引かれて、その場に立ちあがった。主よりも背の低い蜥蜴人の相手は無邪気に笑い、主の笑顔を視て心の枷が少しだけ取れた様な表情を見せていた。
それもそのはず、主には『相手の心配を解く事』が出来るからな。そんな不安に狩らせる様な空気は、主の凪ぐ風には無力だからな。




