7-F-1
「……ん、んーっ 良く寝た……」
陽がまだ高い空の中、俺は主の部屋を目を覚ました。座り心地の良いリビングのラグマットの上で身体を伸ばし、俺は周りを見渡す。
見慣れた部屋と遠くから感じる主の気配が、俺に安心感を与えてくれる。今日も今日とて、主との日々だ。
『……さてと、主の所へ行くか。』
そう思いながら俺が歩こうとした、その時だった。
キュイーン……!!
「ん?」
ドスンッ!
「いでっ!!」 「うおっ!!」
突如光り出した立て鏡の中から、見知らぬ存在が転げ落ちる勢いで部屋へと倒れ込んで来た。危うく俺の尻尾が下敷きになりそうだったから、俺も転がる様に退避した。
「イツツツツ…… なんで軌跡が切れるんだよ……! もう少しだったってーのにっ!!」
軽く苛立ちながらもボヤく相手を視て、俺は我に戻りその場で口を開いた。
「お前、誰?」
「ん? おっ、コッチの世界は普通に喋れる動物が居るのか。悪いな、急に上がり込んで。ちょい訳あり。」
「ふーん、まぁ早く出て行ってくれたら別に良いけど。」
「めっちゃあしらわれてるな……」
「何騒いでるんだ? フィル。」
「「?」」 『!!』
そんなやりとりをしていると、部屋の奥から主がやって来た。どうやらさっきの物音が気になったらしく、様子を見に来てくれたらしい。
「あぁ、主。なんかコイツが鏡の中から出て来てさー」
「鏡から?」
「居た……!! ギラム、無事だったんだな!?」
バッ!
「うぉっ」
「軌跡を辿って来たら、途中で切れたからマジで焦ったけど……良かった良かった。さ、俺が案内するから帰ろうぜ。」
そう言いながら奴は主の手を取り、再び鏡へと戻る勢いで話をしていた。なーんかいろいろ気に食わなかった事も有ったから、俺は邪魔をする事にした。
「ちょい待ち。お前、主の事知ってんのか?」
「主? え、ギラムこの世界でも居候増やしたのか?」
「増やした覚えはねえんだが…… お前さん、もしかして誰かと勘違いしてねえか?」
「えっ……!? ギラム、俺の事解らねえのか!?」
「お、おう…… エリナスは幾多と見てきたが、お前さんは初めてだ。」
「えりなす……??」
何やらやり取りが噛み合わない事も有ってか、主の声で相手は首を傾げていた。主の顔はイケメンだけど、知ってる限りでも同じ顔の存在がもう一人居るしな。
そっちの可能性も、否定出来なかったのかも。現にマジで似てるしな、お互いに同じ格好と顔の模様を入れられたら、見分けられる自信は無い。
「……あれ、ギラム……なんだよな?? 『ギラム・ギクワ』だよな?」
「あぁ。」
「んー…… ぁ、そうだ。俺の探してるギラムなら『銀の短刀』を持ってるはずだ。持ってるか、ギラム。」
「あぁ、あるぜ。」
そう言って主は奥へと戻るから、地味に不安になる。そこは戻っちゃいかんだろ、嘘でも『ねぇ』って言って欲しい。
主、マジでお人良し過ぎる。まぁ、そこが好きだし惚れるんだけどさ……
などと思っていると、主は再び戻ってきた。その手には主の護身用として普段から携帯している、銀の短刀が革製のケースに入ったまま握られていた。
「コレか?」
「そう! コレコレ!! 暗殺者のギラムだよな!?」
「いや、それは違うが…… 第一、俺は人を殺した事はねえぞ。」
「マジ!?」
先程から一人で騒ぐ勢いで喋ってるが、そのテンションには付いて行けない。ぶっちゃけどこぞのお転婆メイドレベルの勢いで話すんだから、主もどう扱って良いのやらって感じだし。
まぁでも、少なくとも悪い奴では無いんだろうな。そこだけは何となく解った。




