ある人
何か新しく始めたいと思っていても、結局行動に移せた経験はほとんどない。自分には何かしらの才能があると信じて疑わない時代もあったが、最近ではすっかり信じていないし疑うことに余念がない。それでも何かないものかと唸っていると、次の日になっていた。
小学生の時、彼は何をしても秀でた児童だった。お勉強も得意で、とりわけ九九を覚えるのが早かった。7×4に苦戦をしなかった。運動も得意で、ボール遊び、かけっこ、縄跳びと、なんでもござれという状態だった。4年生の頃、体力テストの反復横跳びの種目は学年で1番だった。遠足の前の日はすごく長く感じた。
中学生の時、彼は、拗らせていた。もう色々と、おそらく彼は思い出す度に恥ずかしいのだと思う。ただまあ、小学校からのステータスを引き継いだ状態からのスタートだったので、遠目から見ればそこそこ見れなくもない感じだと思われよう。そんな生徒だった。勉強は学年を追うごとに成績を落とし、英語は全く読み書きできないまま卒業した。テストの前の日はどんなに眠くても一応机に向かった。
高校生の時、普通の生徒だった。部活もそれなりに努め、勉強は中学から変わらず緩やかな下降線を描き、高校3年生の頃には数学の授業がなくなっていた。ただ、彼が大人になって思い返した時、一番戻りたい時代はここである。毎日を楽しく過ごした。
大学生に関しては、最低な学生だった。とかく最低な出来の人間で、色で言ったら確実に黒。ベンタブラック。まるで光を反射しない。どんな色を置いても、何も変化がない。最早語ることがない。時間も概念も不安定な、異次元空間である。
学生が終ると、彼はやることがなくなった。別に無職というわけではない。働いているようだ。働きながら、考える。何か面白いことがしたい。でもお金もないし、時間もないし、というような現代の貧困な若者そのものである。それでも何かないものかと唸っていると、次の日になっていた。