特異体
頑張らないと…
前回のあらすじ
腕枕して寝ると翌朝肩が痛い
人には人生で一度くらいは現実を受け入れられない時があると思う。
俺にとってはそれが今だった。
親友が目の前で人間じゃ無くなる。
一度は死に別れ、再会できた友がまた目の前で姿を消す。
いや、姿形を変える。という方が正しい。
黒魔石についてはリョウから聞いていた。
それがどれだけ恐ろしいものかも。
苦しみ出したリョウをリョウの影から出てきた黒いものが包む。
リョウを包んだ黒い塊は次第に大きくなり、その大きさは2メートルくらいになった時だった。
黒い塊が表面から剥がれ落ちていった。
まるで卵から生まれるかのように。
中からは化け物。いや、化獣が出てきた。
ソレはその白い体毛とは裏腹に禍々しいオーラを放っていた。
ソレは狼だった。
いや、正確には違う。
二足で自立し、腕も長い。
ソレは雪のような白い毛をした"人狼"だった。
「これは驚いた!まさか変質して、このようになるとは。これは彼の行動に感謝しなければならないな!」
男は嬉々としてリョウだったものを観察する。
「さて、しっかりと私の命令に従ってくれればいいのだが…」
「どういうことだ?」
「先程撃ち込んだものは特別性でね。こいつらのように私の命令に忠実になるんだ。さて、手始めに君たちを殺してもらおうかな。」
木の影からヨームが2体出てくる。
男は俺たちに手を振る。
まさかと思って身構えるが、リョウは依然として立ち尽くしている。
「おや、どうやらダメみたいですね。」
男はやや残念そうにする。
「では、廃棄しましょう。殺れ。」
その言葉を受けたヨームの1体が、リョウに向かって襲いかかる。俺はとりあえずオレールと距離をとる。
リョウは呼びかけても反応がない。
ヨームの拳が容赦なくリョウを襲う。
リョウの体がくの字に曲がり、吹っ飛んで木に激突する。
ヨームがさらに追い討ちをかけようと駆け寄る。
そして顔面目掛けて右ストレート。
俺は思わず目を背けた。
しかし、聞こえてくるはずの衝撃音はなく、リョウの方を見ると、ヨームの体を一本の白い腕がヨームの強固な肉体を貫き、その手の先に黒い石を掴んでいる。
リョウがその腕を引き抜き、手の中でその石を割る。すると石から禍々しいオーラが出て、それはリョウの体に染み込んでいく。
俺は悟ってしまった。
あれはあのまま放置すべきだったと。目覚めさせてはいけないものだったのだと。
「ワオォォォォォォォォォォォォォォン!!!」
1匹の狼が天に向かって吠える。
リョウが男に向かって走り出す。
「チッ、殺れ!」
男のその言葉を合図にもう1体のヨームが向かう。
2体が衝突する瞬間。
ほんの一瞬だった。
リョウの右腕が消え、ヨームの頭も消えたのも。
ヨームはリョウに押し倒され、リョウが馬乗りになった。
リョウはそのヨームの体を貪り始めた。
体を抑え込み、胴体の真ん中らへんを肉をかき分けるように。
それは自然界の捕食のようなものだった。
少しすると、リョウが黒い石を咥え、そのまま砕く。
するとすぐに男を仕留めようとまた走り出す。
「チッ、ゴミクズが。」
男は魔法でリョウを数メートル後方へ吹っ飛ばした。
しかしリョウはそんなことで止まらない。
リョウは前屈みになり、下を向き、口を大きく開ける。
すると、口の前のあたりに水色の球が出来始めた。
俺はそれがヤバいものだと本能でわかった。
オレールをかかえ、距離をとる。
約5秒
その間に球は野球ボールより少し大きくなった。
するとリョウはそれを口に入れ、大きく息を吸う。
男は魔法で障壁を張る。
俺はオレールと共に地面に伏せる。
次の瞬間
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
音にならない咆哮。
猛烈な衝撃波。
まるで台風が間近にあるかのような爆風。
それが止まり、目を開ける。
するとそこは豊かな森とは一変した氷の世界だった。
植物には霜が降り、木には横向きにツララが付いている。
男は無事みたいだが、驚いているのがわかる。
「バカな。これほどの規模の氷魔法だと?どんな体してやがる。」
リョウは標的の生存を確認した瞬間駆け出す。
「出来ればサンプルを持ち帰りたいが、仕方ない。」
そういうと男の周りにいくつもの魔法陣が展開される。
「死ね。」
次の瞬間、リョウを無数の爆裂が襲った。
いくつもの爆発音、衝撃。
煙が晴れると、そこにはリョウの姿はなかった。
「フッ、所詮はゴミクズ、跡形も無く塵に…」
そこで男の言葉は切れた。
なぜなら、男の胸を、赤く、白い腕が貫いていたからだ。
その腕は男の影から出ていて、その影から、這い出るようにリョウが出てきた。
「グハッ…馬鹿な…あれだけの量を…生き抜くなど…」
リョウは直立し、男を掲げるように持ち上げている。
「ワオォォォォォォォン!」
咆哮。
すると、男の貫かれた胸に異変が起こる。
服が、肉が、凍りついていく。
霜をつけ、固まっていく。
「グアァァァ!やめろ!やめろ!」
男は暴れるが、体を蝕む氷は容赦なくその体を侵食する。
そして、数秒のうちに、男は完全に凍った。
氷に覆われたのではない。身体中の水分が凍ったのだろう。
リョウはその氷像のついた腕を地面に叩きつける。
氷像はあっけなく粉々に砕ける。
それが人だったとは思えないほどに。
すると、リョウがこっちを向いた。
まるで
「次はお前たちの番だ。」
とでもいうかのように。
その瞬間、俺は後悔した。
オレールを先に逃さなかったことを。
俺は恐怖した。
俺もあの氷像のようになるのかと。
リョウがこっちに向かって走り出す。
しかし、5、6歩のところで歩みを止め、苦しみだす。
あの姿になる前のリョウのように。
よく見ると初めの方より痩せ細っている。
数秒苦しんだあと、そのまま力なく倒れた。
そしてほかのヨームと同じように溶けていく。
俺は、また友を失うのか…
そう思ったときに、溶けていくリョウの体の中に何かがあるのを見つけた。
それは人の形をしていた。
駆け寄ってみると、ドロドロに溶けていく外装のなかにリョウの姿があった。
慌てて抱き上げると、衰弱しているのがわかる。
なにせ軽すぎるのだ。
息はしているが、今にも死にそうだ。
早く運ばないと。
そう思ったところで、エヴ達が来た。
「これは…一体何が起こったっていうんだ…」
「おーい!こっちだ!」
「ショウさん?って、リョウタロウさん!」
みんながこちらへ駆け寄ってくる。
「一体何があったんですか!?」
「それよりリョウだ。弱ってる。早くなんとかしないと…」
「魔力切れ…とにかく、里に運びましょう!」
俺たちは一面の銀世界を後に、里へ戻った。
次回、リョウタロウ再び死す?




