責任
世界設定に“和の街”について軽く触れておきました。
前回のあらすじ
現実は時として非情である。
その日の晩、みんなが下の街から戻ってきた。
みんな、かなり働いたらしくヘトヘトのようだ。
少し休憩させたあと、みんなを集めた。
稲美さんとお辰さんはまだ寝かせている。
空成は起きた。
「まず、みんな無事で何よりだ。話はキーラと勇麟から聞いた。肝心なときに守ってやれなくて、すまない。」
座ったまま俺と空成は頭を下げた。
「し、仕方ないですよ。お二人共、行かなきゃならなかったんですから。」
と、コリンナがフォローしてくれる。
「キーフトからの援軍だが、距離があるから到着まで結構かかる。だから、それまではみんなで大人しくして、怪我人の手当てに当たってくれ。俺と空成は偵察をする。必ずアリスターを取り戻す。」
みんなの表情に少し安堵が見えた。
しかし、まだ不安と、恐怖が残っている。
すると、エヴリーヌが口を開いた。
「どうして…」
みんながエヴリーヌの方を見た。
「どうして…どちらか片方残ってくれなかったんだ…?」
エヴリーヌの目には怒りが見えた。
たしかに、片方残っていれば、ここまで酷くはならなかっただろう。
すると、勇麟が怒鳴った。
「そんなもん仕方ねぇだろ!それを言い出したらキリがない。」
「だけど!…どちらか残っていれば…父上も…母上も…もっと沢山の人が死なずに済んだかもしれないじゃないか!」
現状、心に1番の傷を負っているのはエヴリーヌだ。
エヴリーヌ以外の家族はおそらく皆死んだ。
叫ぶエヴリーヌにさらに怒鳴ろうとする勇麟を抑える。
すると、奥の部屋から稲美さんがやつれた様子で出てきた。
「それは…私が説明します…」
近くにいた茶子さんが支える。
そして、稲美さんは空成の力の過剰適合のことを話した。
そこで、キーフトでの空成の暴走も付け加えた。
稲美さんはそれを聞いて、「やはり…」という顔をした。
遅かれ早かれ、ああなっていたということかもしれない。
「…すまなかった…怒鳴ってしまって…」
エヴリーヌはその話を聞いて、また黙り込んだ。
昔虐められた涼太郎や空成を見たことがあるからわかる。
エヴリーヌは今崖っぷちだ。
心が折れかけてる。
きっと心の中で「涼太郎がいれば…」と思っているのだろう。
それは俺も同じだ。
ここに涼太郎がいれば、まだ慰められるのに…
だが、居ない奴のことを考えても仕方がない。
その日はそれで解散した。
俺も布団で少し寝ることにした。
だが、考えてることは、アリスターをどうやって取り戻すかだ。
どうなっているかも分からない以上、明日行って見てみるしかない。
そして、眠ったとき、夢に呼び出された。
そこは普段姐さんがいる昔の俺の部屋。
だが、今回は、玉さんと空成もいる。
だいぶ前にこうやって夢の中で会えるようになった。
テーブルに座ると、空成が謝った。
「ごめん…その、キーフトのこと。」
「自分でもどうにも出来なかったんだろ?仕方ないさ。でしょ?玉さん。」
すると、玉さんも申し訳なさそうな顔をした。
「前々から空成さんには言っていました。その上、いざというときは私がブレーキになろうと思っていたのですが、想像以上で…。」
「姐さんの目から見ても、この組み合わせは凄いの?」
すると、姐さんは腕を組みながら言った。
「あぁ。正に奇跡ってやつだ。何がどうなったらこうなるのかは分からないが、全く別の魂がくっついた結果とは思えないね。元は1つだったと言われるほうがまだ理解できるよ。」
4人ともそれ以上言葉が出なかった。
「でもさ、もし、それを使いこなせれば。」
玉さんが目を逸らしながら答えた。
「ええ、たしかに、使いこなせれば、それこそ国の1つや2つ、簡単に滅ぼせるかもしれませんね。ですが、それには時間が要ります。1年や2年で習得できるものじゃありません。」
「そうか…」
流石に無理があったと自分でも後悔した。
やっぱり、キーフトの援軍をまって、侵攻作戦を立てたほうが…
と、思ったところで空成の口が開いた。
「翔、僕、やってみたい。」
「え?」
すると、玉さんが驚いた様子で止めに入った。
「ダメです!自分がどうなるかわかってるんですか!?」
「わかってます!でも、こうなったのは僕にも原因があります。体だけじゃなく、精神も壊れるかもしれない。二度と人に戻れないかもしれない。でも、ここでやらなかったら一生後悔する。それに…」
そう言って空成は、こっちをみて、笑った。
「メンバーが暴走したら止めてくれる頼りになるリーダーがいるから。」
俺は少し考えたあと、ため息とともに答えた。
「はぁ…分かった。ただ、死んでも埋葬してやらないからな?」
「あはは、それは困るな。はは。」
「あ、貴方達自分が何やろうとしてるか分かってますか!?」
「玉さん、僕らはさ、涼太郎と湊人から、みんなを任せられたんだ。なら、その責任を果たさないと。2人に叱られちゃうから。」
「で、でも…」
「玉さん、僕を選んだ以上、死ぬまでついてきてもらうよ。もっとも、当分死ぬ予定は無いけどね。」
姐さんも呆れた様子たが、笑っている。
俺も腹を括った。
空成にここまで言われたら、抵抗できない。
玉さんは3人を見渡し、何か言おうとしたが、諦めた。
「はあ、分かりました。ただし!無理は禁物ですよ!翔さんも!空成さんをあまり調子に乗せないで下さい!」
「はいはい。」
それから、少し玉さんの注意(?)が続いた。
次回、特攻野郎共
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@kisame_novelist
ちょくちょく挿絵(お手製)を追加していきますぜ。
ちなみに早速涼太郎の刀の絵を[刀]の話の中に追加しました。