暴走
前回のあらすじ
先生は、仕事をしただけですよ?
今はアリスターからかなり離れたところの夜の森の中。
メンバーは、俺こと翔、空成、ロボル、ヤタ、ルナだ。
目的はキーフト連合国に行くことだ。
ここで、キーフト連合国について少し話そう。
キーフト連合国は、魔王に対抗するために作られた人類の連合国だ。
元々は魔王戦線に近い国が統合してできた国だ。
そこは城塞国家で、軍備がかなり発達しているらしい。
いわば、人類側のトップだ。
帝国も、アリスターもその国の傘下だ。
しかし、繋がりはそこまで強くない。
例えるなら町内会みたいな感じだ。
そして、勇者の件で、町内会長のキーフト連合国から呼び出しが来た。
俺たちはそれに向かっている途中だ。
今は俺が火の番をしていて、皆眠っている。
一応完全武装だ。
といっても俺の剣二本くらいだが。
現地で何があるか分からないからな。
正直キーフトは敵に回したくない。
おそらく揉める。
理由はやっと現れた勇者をぶっ殺したからだ。
それにあたり、来る前に、稲美から忠告を受けた。
「空成が?」
「ええ、あくまで私の勘ですが。」
夜、テーブルでお茶を飲みながら俺と稲美は話し合う。
話題は空成のことだ。
稲美曰く、最近の空成は妖術のレベルも上がってきて、その上、玉さんの力、つまり、“古獣”の力も、著しく馴染んで来ているという。
「でも、それは良いことなんじゃないのか?」
「いえ、その、馴染んでいるというか、“馴染み過ぎている”というか。」
「と、いうと?」
稲美はお茶を一口飲み、切り出した。
「適合の速度が空成さんだけ皆さんより早く感じるです。」
実は、稲美は俺たち4人の妖術や魔法のトレーニングコーチもやってもらっていた。
「今の空成さんの器に対して、注がれる力の量が多いんです。」
「過剰適合といったところですか?」
稲美は頷いた。
「皆さんの力には、相性があります。私の見立てでは、翔さんと、涼太郎さんは相性はあまり良くありません。特に、涼太郎さんの方は。」
涼太郎は転生時に、魔力のステータスはあまり伸ばさずに来た。
その上で世界でトップクラスに燃費の悪い氷魔法の力を手に入れた。
俺は単純に力に対してステータス不足だ。
「湊人さんは相性が良い方です。そして、空成さんも相性は良いです。いえ、“良過ぎた”んです。」
「良過ぎた?」
「はい。そのせいで、力が半ば暴走しかけているかもしれません。暴走で死んだりはしませんが、空成さん自身が自分を制御出来るのかが心配なんです。」
このこともあって、当初はどちらか1人が行く予定だったが、2人で行くことになった。
暴走したとき、止められるとしたら、俺しかいないからだ。
目線を空成のほうに向ける。
普通に寝ている。
だが、その体の中で何が起こっているのか、俺には想像がつかない。
稲美曰く、本人は気づいていてもおかしくないらしいが…
とにかく、暴走した時はした時だ。
なんとしても止めて見せる。
翌朝、キーフトについた。
アリスターからロボルの全速力で3日半ほどかかった。
キーフトは国をぐるっと強固な城壁が囲っており、なんと銃火器がある。
といってもマスケット銃だが、アリスターとは大違いだ。
軍事力がバカだ。
そんな国の中でも人々は笑顔で暮らしていることに驚いた。
衛兵に案内され、城についたが、城もデカイゴツいったらありゃしない。
それでいて中身は西洋風でちゃんとしたお城なのだ。
そして、謁見の間に通された。
中はアリスターのでっかい版。
正面に玉座、長いカーペット、後ろに国旗とか。
違いは、王妃と御子息?も玉座の隣に椅子があって座っていることだ。
また、中には兵士が大量にいる。
キーフトの王様、ヴァルトル王の前に来て、とりあえず跪く。
来る途中で執政に言われた。
「顔を上げよ。」
そう言われて立ち上がる。
「呼び出した理由は分かっているだろうな?」
ヴァルトル王は厳しそうなおじさんだ。
だが、話のわかるような感じがする。
「勇者の件、ですね?」
と、空成が話す。
「そうだ。長く待ちわびた勇者を殺した。これは事実で間違いないか?」
「はい。僕らが殺しました。」
周りの人達が騒つく。
「それにはもちろん理由があるからであろうな?」
「はい。その勇者ですが、人間性を疑うべきことを多く行ったため、抵抗したところ、国を挙げて攻めてきたので、それを迎え撃ちました。その際、勇者を殺しました。」
「と、いうと?」
「勇者の子供で軍を作るため、国の女を全て差し出せ。と。」
そこでまた周りが騒つく。
「それは真か?」
「もちろん僕らがやったことは魔王討伐にあたって不利益です。王様が虚偽の報告を疑うのも無理はありません。しかし、王様も考えてください。そのために、妻も、娘も何も言えずに連れて行かれそうになった民の気持ちを。僕らは罰なら受けましょう。しかし、勇者を殺したことでアリスターの人達を責めるようなことだけはやめていただきたいのです。」
こういうときの空成は頼りになる。
王様は少し考えたあと、少し座り直した。
「わかった。その件は不問としよう。それで、その戦闘での被害はどうなった?」
内心ホッとした。
やっぱり話のわかる人だったようだ。
「はい。アリスターの兵士達の方は軽度でしたが、帝国側が大々的な被害が出ました。」
「では、こちらから兵を少し貸し出そう。復興に尽力してくれ。ところで、勇者はどうやって倒したのだ?」
周りの目が俺たちに集まる。
「僕と彼、そして、あと2人の友人の4人で。」
「そうか。その、ほかの2人というのは?」
「勇者との戦闘で、勇者が仕掛けた爆裂魔法を防ぐために。その際に巻き込まれ、どこかへ飛ばされてしまったようです。生きてはいます。」
「わかった。ご苦労だったな。今日は休んで、明日、兵を率いて戻ると良い。」
「わかりました。ありがとうございます。」
なんとかやりきった。
このまま帰ろうとしたところで、誰かが呟いた。
「きっと彼らは相当な実力なんだろうな…」
「しかし、爆裂魔法を止めるために行き、その魔法に巻き込まれるとは、情けない。」
その言葉に俺はカチンと来た。
だが、それは一瞬で消えた。
「今、なんて言った?」
喋ったのは間違いなく隣にいる空成だ。
だが、声が違う。
空成はその声の聞こえた方を向く。
兵士達が何かを察し、銃を構える。
空成はそのままその声の方へ歩く。
「もう一度言ってみろ。」
歩みは止まらない。
しかも、一歩進むごとに半獣化、超獣化し、完全獣化形態になった。
言った奴も、怯えて動けない。
「なあ、言ってみろよ。2人が、なんだって?情けない?」
『不味い!早く止めろ!』
姐さんが話しかけてきた。
「なにが不味いんだよ!?」
『稲美の言ってた暴走だ。お前にはまだ教えてないが、このままだと、完全獣化形態の“次のステップ”までいくぞ!』
「“次のステップ”って!?」
「2人の気持ちも知らないで、知ったような口を聞くなぁ!!!」
すると、空成から火柱が上がり、そこから狐の前足が出て来た。
サイズは、魂をつなぐ前の姐さんサイズ。
そこからもう片方の前足、顔、胴体と次々に出てくる。
そしてついに謁見の間に、1匹の大きな九尾が現れた。
衛兵は発砲するが、まるで効いていない。
「グァァァァァァァァ!!!」
俺も完全獣化形態になる。
空成はさっきの大臣か誰かは分からない誰かを狙っている。
前へ出て、空成の拳を止める。
「空成!目覚ませ!」
「グァァァァァァァァ!!!」
空成はまだ止まらない。
空成が吼えると、周りの衛兵が火柱に包まれた。
衛兵は銃を落とし、火を消そうと必死だが、なかなか消えない。
仕方ない。
右腕に岩を纏わせ、空成の腕を踏み台に飛ぶ。
「オラァァァ!」
その拳で空成の顎を思いっきり殴る。
そのまま天井に頭をぶつける。
すると、空成はそのまま倒れ、狐の体が光になって消え、真ん中に空成が倒れていた。
気絶しているようだ。
とりあえず止めることには成功した。
だが、運が良かっただけだ。
次はないかもしれない。
「い、今のは…」
ヴァルトル王も驚いている。
「わかりましたか?俺たちが勇者を倒せた理由。それと、いない2人は俺たちにとって親友を超えた友です。さっきみたいにバカにしようものなら、どうなるかはわかりませんよ。お騒がせしました。失礼します。」
そう言って空成を担ぎ上げ、出て行った。
翌日、その一件は大臣の失言が原因ということもあり、水に流してくれた。
出発のためにもう一度謁見の間に来た。
天井には空成の頭をぶつけた跡が残っている。
空成はその場で謝罪した。
ヴァルトル王も少し謝罪して一件落着(?)した。
そこに、伝令が走って来た。
「お伝えします!アリスター王国が陥落!翔様と空成様は至急戻られたし!繰り返します!アリスター王国が陥落!」
俺たち2人は開いた口が塞がらなかった。
次回、アリスターが陥落!?
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