外伝 修行中のとある一日
こういうの書いてみたかったんですよー。
これは、勇者と戦う前に、1年の修行期間中に起こったイベントである。
きっかけはごく単純だった。
俺こと、イバラ リョウタロウは、ご飯当番をしている。
理由は、料理が上手いからだ。
といっても、今の家になってからだが。
その前までは、キーラやコルネリア、アンスがやっていた。
ミナトや、クウさん(空成)のほうでは、稲美さんや、お辰さんがやっていた。
そこで、こんな疑問が朝食のときに上がった。
普段料理しない人達の中で誰が一番料理が上手いのか。
「ということで!第一回、料理対決ー!」
と、湊人がはしゃいで司会をやっている。
「テンション高いね。湊人。」
「まあ、たまにはいいんじゃないか?」
と、クウさんとショウが話す。
「さて、今回の審査員は我らが料理長兼ハーレム王ことリョウちゃんと、最近キーラに絞られすぎて元気がないショウちゃんと、夜は狐を超えて獅子になると噂の空成でーす!」
「「「よし、あとで殺す。」」」
「ははは!司会の命運が怪しいところで、今回の参加者はこちら!」
と、なぜか昼間なのにカーテンが閉まり、スポットライトが参加者に当たる。
きっとミナトがクミナに仕込んだのだろう。
「エントリーナンバー1!自称リョウちゃんの妻!ドラゴン娘のルイシーナ!」
「妻だからな!(ドヤッ)」
外野(俺の妻達(仮))からいろんな野次が飛ぶ。
「続いてエントリーナンバー2!美形揃いのエルフからやってきた。またまたリョウちゃんの妻候補、ディアナ!」
「候補ですから!(ドヤッ)」
「リョウ?お前のところ大丈夫か?」
ショウが聞いてくる。
「大丈夫ならこんなことになってない。」
またまた外野(以下略)から野次が飛ぶ。
「さあどんどん行くぜ!エントリーナンバー3!服作りはお手の物!空成を絡めるのもお手の物!織ー!」
「が、頑張ります!」
「湊人?その解説もうすこしどうにかならないの?」
「続いて、エントリーナンバー4、由美華ー。」
「わたしだけあっさりしすぎではないか!?」
(((あ、あいつ自分の名誉だけ守りやがった。)))
「この今回は4人だけでやっていただきます!お題は自由!制限時間は無限!晩飯までにはおわらせようね!なお、4人分の今回のための緊急用キッチンの設立は我らが誇る鍛治職人のコリンナさんが作ってくれました!壊さないようにね!では、開始ー!」
と、4人がそれぞれ調理に入った。
と、湊人が満足した表情で戻ってきた。
「ふぃー。いい汗かいたぜ。」
「「「料理出来るまで時間あるからちょっと裏までこようか。」」」
「おっと、司会は身の危険を察知して飛んで逃げるぜ。カラスは頭がいいのさ!」
と、あらかじめ開けていた窓から飛んで逃げた。
「はあ、まあいいか。どの道帰ってくるだろ。てか窓越しに見てるし。」
「まあ、いいんじゃない?ここまできたら逆に怒る気しなくなってきたよ。はは。」
クウさんは一周回って諦めたらしい。
その後は淡々と料理が進み、1番に出来たのはルイシーナだった。
ルイシーナの料理は大きな肉のステーキだ。
「ふふん、火加減は得意だからな!」
3人で実食する。
「うん、美味しいね。」
「確かに、ソースなしでこれは凄いと思うな。」
ショウもクウさんも好評のようだ。
「確かに美味しいな。でも、肉だけだと、カロリーや、栄養バランスが崩れるし、胃もたれも起こし得ないからな。次からは野菜の付け合わせを作ったり、バランスを整えるためのソースなんかを作ろうな。」
「むう、やはりリョウは簡単には太鼓判を押してくれないか。」
「まあまあ、ルイシーナも頑張ったから。ね?涼太郎は鍛え方が違うから。」
「いや、自分でも意識してても飯のこととなるとな、色々と。」
親に料理を叩き込まれた際のレッスンはまさに地獄だった。
後に見ていたショウ達が『死の台所』と呼ぶほどだった。
実際トラウマレベルだ。
お陰でこっちじゃ結構役立ってるけども。
「さあ、はやくも1人目が終わり、次を待つばかり!果たしてルイシーナのステーキを超えることは出来るのかー!」
「ほんとお調子ものだね。今日は。」
「ほら、たまに発散しないとね?」
「まあ、ミナトは普段の修行で、ある意味一番苦労してるからな。」
実際飛んだりするのは難しいらしい。
と、そんなところで次が来た。
織だ。
織は肉じゃがだった。
「うん!美味しいよ!ねえ?」
「あぁ、確かに美味い。割とリョウにも匹敵するんじゃないか?」
と、口に入れてみる。
「うん、確かに美味いな。シンプルな料理だから実力が顕著に出る。それでこれなら文句ないな。久しぶりにこんな肉じゃが食ったよ。」
「ふー、き、緊張しました…!」
シンプルな料理ほど実力は測りやすい。
その上で肉じゃがを選んだ度胸と味から俺の中では暫定1位だ。
「さー!料理長からも好評をもらった織の肉じゃが!個人的にはルイシーナのステーキもマジで美味しかったが、後の2人はどうなるのか!」
と、3人目は由美華だったのだが。
「なに?これ。」
司会のミナトが一番に言った。
「なにって、魚の煮付けだが?」
「その割には『ギョゾォォォ』って感じだけども?」
一言で言えばゲテモノだ。
4人で肩を組み、由美華に背を向け話す。
「あれ、ヤバイって!マジで!雑食のカラスが言ってるんだ!間違いない!」
「正直僕もそう思う。モザイク処理しなきゃのレベルだよね!あれ。」
「俺もこんなことあんまり言いたくないが、生理的に無理かも。」
「でもあの顔見ろよ。あれはきっと、自覚がない顔だ。純粋無垢にアレが正解と思ってる顔だぁ。」
由美華はキョトンとしている。
「でも俺正直食いたくないぜ!?」
「僕も遠慮したいなぁ…」
「でもどうしようもなくないか!?この状況。」
そこで俺は腹をくくった。
「だが、食材を無駄にすることは避けたい。故に!」
俺は席に戻り、しぶしぶ魚の煮付け(?)を口に運んだ。
「やめろ!早まるんじゃない!」
と、しばらくの沈黙。
「涼太郎?大丈夫?」
「何故だ。何故美味い。」
もう自分でも笑いが抑えられなかった。
見た目はモザイク処理必須なのに、黒いオーラ放っているのに、美味いのだこれが。
「「「はぁ!?」」」
俺に続きほかの3人も口に運ぶ。
「なんで!?なんで美味しいの!?」
「見た目とのギャップ凄すぎるだろ。」
「司会やってて良かったと思ったけど、これは意外すぎる。」
「なんだ、お前たち、美味しいに決まっているだろう。」
「えっとー、料理長のリョウちゃん?コメントを。」
「あー、意外性ではトップだな。うん。」
と、そうこうしているうちに、最後のディアナが持ってきた。
「さて、最後はディアナの、これは?」
「野菜のスープです!」
「うん、さっきのせいか、見た目でホッとなるね。」
「だな。」
と、ショウとクウさんが口に運ぶ。
が、咳き込んだ。
「おい!?クウさん!?ショウも!大丈夫か!?」
と、俺も口に運ぶが、吐かないのがやっとのレベルだった。
「会議!」
と、クウさんが声をかける。
「また4人で肩を組むことになるとはなぁ。」
ミナトはやや安心している。
「それどころじゃないよ!なにアレ!さっきのは見た目がアレだったけど、なにをどうしたらあぁなるの!?」
「正直見た目と味を由美華のと取り替える方がいいかもな。」
「く、まさかディアナがここまで料理音痴だったとは。」
味は、その、言葉に出来ない。
アニメとかでみるダークマターってこんな味なんだろうなって感じだ。
「でも、どうしよう。これ以上食べられないよ。僕。」
「でも、食い切らないといけないぜ?俺は辞退したいけど。」
「で?リョウちゃんはどうする?」
3人が俺をみる。
「やはり、食材は無駄に出来ない。となれば、やることは1つ!」
俺は席に着き、見た目“は”いいシチューを一気に食べた。
「あのー、リョウちゃん?」
俺は司会だから食べないでいいから割と安心してたけど、涼太郎がこんなことするとは思ってなかった。
涼太郎は食器をテーブルに置き、ただ黙っている。
「おーい?大丈夫か?リョウ?」
と、空成が近づく。
「ちょ!?脈止まってる!!!」
『はぁ!?』
その場の全員が驚いた。
空成と稲美さんが蘇生措置をして、なんとか脈は戻り、意識も戻ってきた。
「おい!大丈夫か!」
ショウが支えながら言う。
「花畑が…彼岸花が…」
「しっかりしろ!そっちに行くのはまだ早いぞ!」
「はぁ…はぁ…た、助かった…のか?」
「危ないところだったけどね。」
「コリンナの爺さんに会った。なんかな?謝られたんだ。嫁にもらってとかそういうアレで俺について行きなさいって言ったわけじゃないのになんかそんな感じになってて申し訳ないって。」
コリンナが赤くなる。
「でも、そのあと、ひ孫は楽しみしてるってめっちゃ後押しされた。お陰で戻ってこれた。」
「あー、それは置いといて、料理長?コメントおねがいできる?」
涼太郎は起き上がって、水を飲んだ。
「ディアナ、台所には近づくな。以上!解散!」
「うぇ!?なんでですかー!」
「ディアナ、あんまりこんなこと言いたくないけど、お前には料理は向いてない。だから、台所には近づくな。いいな?」
その後、ディアナ以外の全員で、『ディアナキッチン不可侵条約』が締結され、みんなでディアナをキッチンに近づけさせないようにした。
次回、3年ー、B組ー!涼太郎先生ー!
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