立つ鳥、跡を濁す。
前回のあらすじ
必殺技ってのはな?“必ず殺す技”って書くんだよ。
倒れた勇者に近寄る。
「さて、最後の情けで遺言を聞いてやる。何か言い残すことあるか?」
「この…!俺は…!勇者なのに…!グァァァァ!!!」
ショウが治癒し始めた体を見て、四肢を切り落とした。
「翔、そこまでしなくても。」
「もう一回あんなのになられたらたまったもんじゃない。」
流石に切り落とした部分は生えて来ないらしい。
すると、勇者は唇を噛み、何かを唱えた。
それを止めるために口の中に刀を少し入れる。
「テメェ!何しやがった!」
「ハハハ…死ぬならお前らも、あの国の奴らも一緒…だ…」
そこで勇者は生き絶えた。
しかし、勇者の中の魔力は活性化を始めた。
「空成、どうなってる!」
「まずい…どこまでも腐ってる…」
「どういうことだ?」
ショウが剣を納めて聞く。
「儀式魔法だ。それも超大型の。」
「儀式魔法?何それ。」
「涼太郎たちにはまだ教えてなかったね。儀式魔法っていうのは文字通り、儀式のことで、何かを贄として強力な魔法を行使することだ。この場合、勇者は自分の命を贄として、魔法を起動させた。」
「それで、何が起きるんだ?」
「勇者は…ここから半径三メートルをアリスターの近くまで転移させて…そして…」
「何勿体ぶってるだよクウ、それで何がおきるんだよ?」
「人類の叡智の結晶であり、最悪の兵器…」
そこで3人ともピンと来た。
「まさか…」
「“核”だ。厳密には核じゃないけど、威力は比にならないレベルの爆発が起きる。アリスターなんて更地になるかも…」
正直クウが言ってることは冗談だと思った。
だが、現に勇者の魔力の活性化が、探知スキル熟練度の低い俺でも分かるくらい莫大だ。
すると、リョウが刀を仕舞った。
「ショウ達は戻って兵士達の避難と防壁の作成を頼む。」
「涼太郎はどうするの?」
「俺の氷魔法で術式を凍結させるように干渉する。」
「だが、それだとリョウが…」
「何、心配すんなって。“約束”じゃなくて“契約”だからな。最終的には帰るよ。何があってもさ。」
「涼太郎、それは危険すぎるよ。僕も…」
「いや、クウさんはダメだ。こいつの始末つけた後も戦争はまだ続く。そこにお前は必須だからな。」
リョウは振り返って早速勇者の儀式魔法に干渉を始めた。
今顔は見えないが、なんとなく分かる。
こいつは今、決心した顔してる。
「わかった…行くぞ、2人とも。」
クウを抱え、立ち去る。
「でも!翔!ちょっと!」
振り返りはしない。
帰ってくると言ったのだ。
目を合わせて言ったのだ。
間違いなくあいつは帰ってくる。
「サンキュー…」
ボソッと聞こえた気がして、足を止めそうになるが、なお走る。
少しして、シラトが足を止めた。
「どうしたの?」
「俺、やっぱ涼ちゃんのとこ行くわ。」
「はあ!?お前、なんで!」
「涼ちゃん一人じゃ寂しいだろうからさ。それに、帰るとき飛んだ方が早いでしょ?」
「たが、あいつは1人でいいって!」
「二人はこの後仕事があるでしょ?それに、また涼太郎のこと、一人に出来ないからね。」
最後の1文が、心に刺さる。
「この中で戻るなら俺が一番適役でしょ?」
「わかったよ湊人。なら伝えといて、だいたい1時間で起動完了する。引き際心得てね。」
「はいよ。あ、そうだ。二人とも、由美華達に説明よろしくね〜」
そう言うと、半獣化して飛んで行った。
「全く、厄介な仕事押し付けやがって。」
「そうだね。さ、任された以上、しっかりこなさないとね。」
涼ちゃんの所へ着いた。
「一人じゃ寂しいでしょ?来てあげたよ〜俺ってばや〜さしぃ〜!」
「バカ!なんで!?」
早速涼ちゃんの干渉に参加する。
「ふざけあう相手が欲しかったから。かな?」
すると涼ちゃんはポカンとした後、笑った。
「後悔すんなよ?」
「はいはい。それで?あと一時間でどこまで行けそうだい?」
「まず、完全凍結は1時間じゃ無理だ。だから、すこし手を加える。」
「と、いうと?」
「この儀式の手順としては、まず、アリスターに転移した後、爆破ってのが一連の流れだ。その転移を利用する。厳密にいうと、爆破の魔力を転移に回す。」
「それで爆破を最小限にすると?」
「あぁ、だが、爆発を起こすのはここだ。爆発させた一瞬後に転移させる。」
「りょーかい。魔力移すのやるから凍結続けて。」
「うっし!やるか!」
戦場に戻ると、まだ兵士達が戦っていた。
クウが魔法で声を大きくして撤退の号令をかける。
俺は戦場の間に地割れを起こし、友軍と敵軍を分断する。
基地へ戻ると、指揮官が困惑していた。
「一体何が起こっているんです?」
「敵軍が大掛かりな爆裂魔法を行使するんです。それから守るためにも一度撤退させました。残ってる兵士がいないか。確認を!」
基地が一斉に慌ただしくなる。
俺は戦場に出て、地面に大きな裂け目を作り、敵軍が来ないようにする。
次々と兵士が帰ってくる。
「涼ちゃん!移してるけど多すぎるよ!?」
「口じゃなく手動かせ!クッソ、立つ鳥跡を濁さずって言葉教えてから殺すべきだったか!」
「ところで、いつ撤退するの?」
「こんなの放置出来るか!一瞬の爆発の後の転移でそのまま何処かへバイバイだ!タイミング見計らってシールド貼る用意しとけ!」
「何処かってどこ!?」
「ここじゃない何処かだよ!」
「兵士はほぼ全員戻ってきました!」
「どうする?翔、もう防壁を作る?」
「まだだ。ギリギリまで兵士を待とう。じゃないとあいつらに怒られるぜ。」
「わかった。準備は進めておく。」
(やっぱり、戻っては来ないか…生き残れよ。二人とも。)
「涼ちゃん、爆発で死んだりしないよね?」
「知らん!」
半ばキレながら涼ちゃんが言う。
「帰ったら怒られるよなぁ〜みんなに。」
「うっ、それ今言うか…」
「六人分は胃が痛いよね。」
「…死ななきゃ許してくれる…はず…」
涼ちゃんの顔が不安でいっぱいになる。
「うへー、でもちょっと見てみたいかも。」
「やめろよ…でも、サンキューな、来てくれて。」
「へへへ、一回死んだんだ。二回目は怖かねえぜ。」
「だが、二回目はまだまだ先にするぞ。」
「おうよ!」
その後、目の前が一瞬、閃光に包まれた。
翼を魔力で限界まで強化して、前面を覆う。
その後、意識は途絶えた。
「翔!今!」
クウの合図で基地の前面に土の分厚い壁を展開する。
クウがそれを魔法と妖術で強化する。
一瞬後、耳を壊すような爆音がなり、壁に衝撃がくる。
衝撃は地面を伝わり、まるで地震のようだった。
数秒の衝撃の後、壁が崩壊し、吹っ飛ばされた。
目がさめると、壁は一部を残し、木っ端微塵になっていた。
基地と兵士達は守れたが、耳が「キーン」と鳴っている。
鼓膜が破れてないのが奇跡だ。
クウも無事なようだ。
「大丈夫か?」
「なんとか。翔は?」
「耳がやばいかも…でもなんとか平気。」
兵士達もお互いの安否を確認している。
核ではなくとも、それを彷彿とさせるようなものだった。
なんとか立ち上がると、指揮官が指示を出した。
「敵は今のをモロに食らっているはずだ!1時間後に侵攻する!各々、回復しておけ!」
「翔、行こう。」
「あぁ。」
俺たちは指揮官に後を任せ、リョウ達の所へ向かう。
ついさっきまで森だったところはクレーターとなり、跡形もなかった。
もちろん、リョウ達の姿もない。
「どうだ?追えそうか?」
「ダメみたいだ。」
「どうして?」
「涼太郎達は爆発をここで起こしたすぐ後に転移魔法で何処かへ飛んだみたいだ。きっと爆発と転移の順序を変えたんだと思う。」
「爆破を最小限に抑え、転移で離脱か。どこに行ったかも?」
「分からない。位置指定までしてないみたい。」
「そうか…」
「でも、二人のことだし、生きてるよ。それに、実は、家に全員分の安否確認用の鈴を作っておいたんだ。」
「鈴?」
「鳴れば生きてる。」
「鳴ってなければ?」
「…死んでる…かもしれない。」
その言葉にお互い黙ってしまった。
「と、とにかく、二人が繋いでくれたんだ。やる事をやろう。」
「あぁ、そうだな。」
生きていてくれよ。二人とも。
次回、戦争の終結
ツイッター
@kisame_novelist