必殺
前回のあらすじ
勇者+黒魔石+木+その他=でっかい化け物
勇者だったものからは無数の木の根が出ており、それが絶え間なく襲って来ている。
「多けりゃ良いってもんじゃねぇーけどよ!」
空のミナトが叫ぶ。
「多過ぎる!」
クウさんも火炎で燃やして対応するも、どんどん湧いてくる。
俺も避けてはいるがさっきから掠っている。
そしてついにくらった。
横腹のあたりを木の根が抉り、そのまま吹っ飛ばされる。
お札を即座に使うが、このお札、傷なら早く治癒出来るが、欠損部位は痛み止め程度にしかならない。
「いったん距離とるぞ!」
ショウの声で全員前線を下げる。
ショウが土で壁を作り、クウさんが認識阻害の魔法をかける。
「涼太郎、見せて。」
「悪いな。」
クウさんに治療をしてもらう。
「だけどさ、どうする?やっぱり完全開放で押し切るか?」
「勇者が生き残った場合こちらの手の内をほぼ全て晒すことになる。その状態での長期戦はもっとキツイぞ。」
「でも、キリがないよね。燃やしても燃やしても際限なく出てくるし。」
ミナト、ショウ、クウさんが議論する。
「黒魔石を使ってる以上、あいつもかなり負担があるはずだ。」
3人がこっちを見る
「今まで、黒魔石を使って体がまともに残った奴はいない。勇者なら残るかもしれないが、ダメージはでかい筈だ。ここまで来たんだ。ありったけぶつけてやろうぜ?」
実際、1年の間に黒魔石の事件が何回かあったのだ。
「だが、リョウ、手の内を晒すのは…」
「この際全部晒してやれ。それくらいのハンデは必要だろ?」
「押されてるのこっちなんだけどなぁ…」
「でも、いいんじゃない?可能性はあるよ。」
決まりだ。
全員回復を済ませ、もう一度勇者のところへ行く。
「呑気に戻って来やがったか!」
「かかって来な!最終ラウンドだ!…多分…」
「涼ちゃんそこは消極的なんだね…」
超獣化して突っ込む。
木の根を交わしつつ懐まで突っ込む。
しかし、近づくにつれ、量が増える。
直撃の一瞬前でスイッチを入れる。
半獣化、超獣化は獣人族に近かった。
あくまで“人と獣の力を混ぜた”形態だ。
この先は、“完全な獣の力のみ”の形態。
純粋なウベルや姐さん、カラちゃんや玉さんの力オンリーの形態。
体毛が伸び、骨格が完全に獣そのものになる。
口が伸び、牙が伸び、手の形も変わる。
今までよりも加速する。
「おらぁ!避け切ってやったz…グヘッ!舌噛んだ…」
「まだその形態での喋りかたに慣れてないの?ま、俺クチバシだからあんまりだけど!」
と、空のミナトが喋る。
尾羽が伸び、足も完全な鳥足になり、腕が翼になりつつも手先は指のようになりつつ羽毛が生えていて、関節のついた大きな羽のようで、弓をしっかり携えて飛んでいる。
顔はもろカラスそのものでクチバシが伸びている。
「僕も慣れるのに時間かかったんだよね!」
と、爆炎を操りながら木の根を払うクウさん。
尻尾が5本に増え、全身がキツネ色の毛に覆われている。
「口じゃなくて体動かせ!」
ショウも完全な熊になり、合体剣を片手で振り回している。
左手が大きく、発達していて、岩石で盾を作っている。
「姿が変わったところで!!!」
木の根は止まることを知らない。
「湊人!」
「あいよ!」
ミナトが高高度まで一気に上がり、弓を構え、“詠唱”を始める。
普通、魔法には詠唱がいる。
無詠唱の魔法は詠唱した魔法より威力や効果は減衰するも、使い勝手が良い。
そのため、冒険者などは基本無詠唱だ。
戦場のど真ん中で長々と詠唱する余裕などない。
しかし、詠唱すれば、威力、効果は無詠唱の数倍に跳ね上がる。
そもそも、詠唱とは、魔法の術式を組み立てる儀式みたいなものだ。
詠唱と無詠唱の違いは、例えるなら証明問題か否かだ。
無詠唱は問題の答えだけを出すもの。
詠唱する方はしっかり説明をした上で答えを出すみたいなものだ。
そして忘れてはいけないのが、魔法にはそれぞれ“名前”が付いている。
ファイアボールとかそういう感じだ。
つまりは、詠唱する魔法とは、“必殺技”みたいなものなのだ。
[我射るは一つの矢、我操るは一陣の風、我舞うは百日の夜!]
「お前ら予定通り避けきれよ!【百矢夜行】!」
放たれた1本の矢は2本になり、4本になり、どんどん増え、数百の矢が勇者と俺たちめがけ降って来た。
「多くねえか!?100じゃないの!?」
「サービスだ。」
「洒落になんねえ!」
しかし、そこはミナト、しっかり俺らの周りは数が少ない。
刺さった矢1つ1つから風がおこり、合わさり、旋風になって、木の根を一掃した。
「空成!次頼むぜ!」
[我が焔は楔、我が力は鎖、我が炎は汝の未来を焼き尽くす!]
「じっとしてもらうよ!【燼滅式・炎鎖】!」
勇者の体(特大)を炎の鎖が縛り付け、木の根も生まれて1秒も経たず灰になる。
「シラト!上げてくれ!」
「いい加減自分で跳ぶこと覚えろよ〜名前も“翔”なんだから!」
ミナトがショウを足で掴んで飛び、高高度から1回転して勢いをつけて落とす。
[我が拳は大地を割き、我が剣は命を絶つ!]
「【ガイア・ディザスター】!防げるもんなやってみなぁ!」
空中から回転しながら勇者にショウが突っ込む。
いわば剣を持った状態での大車輪。
勇者も魔法で障壁を十何枚張る。
しかし、ショウの剣には特別なエンチャントがある。
名前はまだ考案途中なので無いが、魔力やスキルによる耐性、障壁を貫通でき、時間が経たないと再使用出来なくする。
勇者の障壁は紙切れのように散り、勇者の体(特大)に大きな裂け目を作り、そこからは本体の勇者の体と黒魔石が見えた。
「やっば…目回っ…ウップッ…リョウ、あと頼む…」
「だから辞めとけって言ったのに…」
と、ミナトが俺の上につく。
俺はありったけの脚力で跳ぶ。
「ミナト!」
「全く俺は昇降係かい!」
ミナトの手を踏み台にさらに上に跳ぶ。
刀を2本を飛ばし、氷で包み一本の長い槍にする。
【魂喰らうは第1の牙、凍てつく刃は第2の牙!]
「2つ合わせて第3の牙!貫き穿て!【アイシクル・ライザー】!」
槍をオーバーヘッドキックで蹴り出す。
槍は真っ直ぐに黒魔石を貫き、砕いた。
降りた俺はミナトとショウを担ぎ、下がる。
最近覚えた妖術で刀を手元に戻す。
「クウさん、回復。」
「ウップッ…すまん…」
「回りすぎだよ。」
「あれほど辞めとけと言ったのに…」
勇者の体(特大)は崩れ落ち、灰になった。
しかし、勇者本体はまだ生きているようだ。
「とどめ刺しに行くか。」
「出来ればもう死んでいてほしいけどね。」
次回、儀式は、急に、止まれない。
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