市長、そして既視感
今回から作品名を改めたということで2話分突っ込んでみました。
応募の方、ありがとうございました。
前回のあらすじ
地球空洞説って割とマジ。
偵察で穴に飛び降りた俺は正直降りる途中で気でも失ったかと思った。
目の前に広がる光景で改めて実感した。
ここは異世界なのだと。
とりあえずみんな揃って役所に行くことにした。
パッと見でなんとなく予想のつく種族が多くいた。
鬼はもっとも多い。
そのほかには茶子さんのように獣人だったりする。
他にはちらほらと人間も見える。
涼ちゃんの方の国はいろんな犯罪やら何やらで騒がしいが、“東側”は平和なものだ。
実際、前に“東側”の周りをみたときに気づいたが、大陸側が山脈になっている上半島になっていたので、文化的にも他と隔絶されていることがわかった。
まあ、逆にどうしてそこに文明が生まれたのかという疑問はあるが、まあいい。
そうこうしてるうちに役所に着いた。
大きな建物だ。
城に近いが、階層が少ないのか、背が低い。
入ると、役員の人が忙しなく働いている。
そして、奥に一際目立つ机が一つ。
そしてそこに座る貫禄のある男性。
翔ちゃんが役員に話をつけ、その男性と話が出来るようになった。
その男性は身長が二メートル越えの大男だった。
ヒゲを蓄え、筋肉質で、頭に二本のツノ、そこそこの強面だ。
「君たちが外から来た人たちだね?」
強面とは裏腹に優しい感じ。
こういう時は翔が話をつけるのが俺たちのセオリー。
だって元委員長だからね。
「ええ、その、何から話せばいいか…」
流石の翔ちゃんも戸惑っている。
「まずは自己紹介かな。私は閻羅だ。まあ、気軽に閻さんとでも呼んでくれればいい。職場のみんなもそう呼んでるしね。」
その後、順番に自己紹介を済ませる。
そして翔ちゃんが事の経緯をはなす。
だが、内容はただ迷い込んだだけということにした。
「君たちについては大体わかった。それで、どうした
い?今すぐ帰るか、少し残るか。」
「そうですね、せっかくですし、観光でもしていこうかと。」
「わかった。帰りたくなったらまたここに来てくれればいいから。あとひとつだけ約束してほしい。ここのことは内密に頼むよ。」
「と、言いますと?」
「元々、ここは上で迫害されたものたちが築いた街なんだ。」
「さらなる迫害を避けるため。ですね?分かりました。ここのことは墓場まで持って行きます。」
「そうしてくれると助かる。では、良き旅を。」
役所から出て、少し休憩する。
「ねー、いい加減俺に交渉とかさせる決まりやめない?学校とかの時もそうだったけどさー。」
「いいじゃん。ショウの仕事で。てか、顔に合わないほど温厚な人だったな。」
「人というか、鬼だったけどね。でも、僕らのこと信用してくれたみたいで良かったよ。」
「あ、文華どれくらい滞在する?」
ふと聞いてみた。ここに来たいと言い出したのは文華だからだ。
「記事に出来そうにないですけど、面白そうなので、二、三日いたいかと。」
「だそうですよ?引率の翔ちゃん。」
「引率やめろや。ま、宿見つけて、解散かな。」
『はーい』
それから、手頃な宿を見つけて部屋を取り、解散した。
涼ちゃんは珍しく自分からディアナについていった。
理由を聞くと、
「途中でいくつも居酒屋があったんだ。それであいつに好き勝手させたら絶対ヤバいから監督しに行く。いや、割とマジで酒豪だぜ?あいつ。」
話には聞いてるけど、ちょっと見てみたいかも。
文華は記者なので心配はしてない。
ヘルカとイーネスには空成がついていった。
念のためらしい。
ロボルたちは宿でお昼寝するらしい。
翔は少し寝てから街を見て回るそう。
俺は…お土産買っとくか。
翔の交渉係のように、俺はお土産係なのだ。
目が覚めてもみんなは戻ってなかった。
意外にも楽しいのだろう。
さて、俺もお出かけしよう。
そう思い、宿から出た。
交渉は神経使うから疲れるんだ。
リョウの方がこの世界には慣れてるはずだし、空成も上手いはずなのになぜ俺が…
とりあえず近場の飯屋に入る。
と言っても殆どが居酒屋なのだ。
鬼はお酒が好きってイメージまんま。
まあ、俺も飲むけどね。
ただ、量はちびちび。
まだ18だもの。
ちなみにエヴリーヌたちに俺たちの誕生日は教えてない。
なぜって?
とんでもないことになるからに決まってるじゃん。
少しずつ飲みながらおでんを食べてると、ひとりの客が来た。
一言で表すなら美人だ。
着物を着こなし、赤いロングの髪、額のツノ。
スタイルもいい。
ただ、男勝りだった。
「おーい!酒とツマミー!」
「お!勇麟じゃねえか!」
客の一人が名を言った。
名前は可愛らしいが、すでに酩酊しているし、お座敷にあぐらなあたり、親も想定しない育ち方なのだろう。
というか、初めてあった気がしない。
あ、わかった。この既視感はきっと姐さんだ。
『え!?あたし!?』
(だって、ヤンキーっぽいし。)
『まあ…否定はしないけど…』
どうやらここら辺の有名人らしい。
「なあ、あの人、有名なのか?」
となりの席の客に聞く。
「あぁ、有名さ。酒を飲ませたら右に出るものはいないね。前に酒の飲み過ぎで役所に注意されたこともある。」
「飲み過ぎって、どれくらい?」
「確か、店がいくつか潰れたな。その上喧嘩も半端ない。それこそ、店一つ持ち上げれるらしいぜ。」
え、なにその人。親戚の厄介な酔っ払いのオッチャンレベルじゃないじゃん。
店をいくつか潰すってなにそれ鬼超えて化け物やん。
姐さんできる?
『無理。大体酒を飲んだこともあんまりないわ。てか、あたしが元々熊だって忘れてない?』
あ、そうだった。
後ろで男たちと飲んで騒いでいるのをよそにおでんを食べていた時だった。
「おい、あんた、この物はなんだい?」
テーブルに立てかけておいた剣を見て言われた。
てか、絡まれた…
「え?あー、俺、外から来たものだからさ、物騒だからこれくらい持っとかないと危ないからね。」
「ふーん。」
すると大剣の方を軽々と片腕で持ち上げた。
まだ俺も片腕じゃ振れないのに…
「こんな軽いもので大丈夫なのかねー硬さはあるみたいだけど。」
いや、軽くないんだよ?多分5キロはあるよ?
「は、はは、まあね…」
すると剣を置き、ニヤッと笑ってグイッと掴まれた。
てか、酒臭い。
「てことは、腕っ節に少しは自身があるんだろう?」
「い、いやーそうでもないよ?」
「なんだよー男らしくないねー。ま、いいか。少し相手しな。」
「へ?」
「最近貧弱な奴らばっかで退屈してるんだよ。な?」
「いやいやいや!」
次の瞬間、上から拳が降ってきた。
なんとか後ろに飛んで避ける。
座ってた椅子が木っ端微塵になった。
「へー?避けれるじゃないか。」
あ、やべ、避けるのは失敗だった。
「んじゃ、遊ぼうや!」
すかさず店の外へ飛び出す。
それを追って勇麟が来る。
通りの人たちが逃げる。
最悪なのは、俺は逃げる暇がないってこと。
勇麟のラッシュを避けながら下がり続ける。
(やばいやばいやばい!)
『シャキッとせい!』
(無理無理!こっちは熊だぞ!金太郎には勝てねーよ!)
『金太郎は男だろ!』
姐さんとそんな会話をしながら避ける避ける。
「なんだい、逃げてばっかりかい?」
機動力は勝っててもパワーが違いすぎる。
思いっきり飛んで距離を取る。
正直これはやらんことにはどうにもならなそうだ。
(姐さん、半獣化フルで行くよ。でないと、こっちが潰れる。)
『いいが、正直あたしも無理そうって感じてきたんだけど?』
(骨折れるくらいならクウが直してくれるから、多少の怪我覚悟で行くよ。でないと止まらなさそうだし。)
『わかった…』
半獣化して、さらに手足に岩石で鎧を作る。
肘から手にかけて、膝から足先にかけて岩石で覆う事で、重くはなるが、防御力を高めた。
「へー、面白いもの使うねー?」
「使いたくないけどね!」
覚悟を決め、勇麟に立ち向かう。
周りからは逃げることを勧める声と歓声が聞こえる。
勇麟の拳は1発1発が殺人級だ。
腕の鎧が掠れるごとに削れてく。
これ結構硬いんだけどなぁ…
ただ、隙が無いわけではない。
一瞬を見極め、少し申し訳ない気持ちもありつつ、腹に1発ぶち込む。
その後、すぐに下がる。
間合いを間違えれば首が潰れる。
正直1発が精一杯で、すでに汗だくだ。
「へー、いいじゃないか。」
するとくしゃっと笑い、大振りがきた。
ここしかない。
そう思い、体をひねり、構える。
勇麟の拳は顔狙いだ。
となれば答えは一つ。
特撮でよく見るアレだ。
勇麟の右ストレートに合わせて左の拳を出す。
そして勇麟の拳よりも内側を取る。
クロスカウンター
首を思いっきり横に倒し、勇麟の拳をスレスレでしのぎ、左拳を勇麟の頰に叩き込む。
少しの間の静寂。
終わったと思ったその時、勇麟の左のアッパーが顎を捉えた。
俺は後ろに吹っ飛ばされ、近くの店の看板に突っ込む。
半獣化も解けてしまった。辛うじて意識は残ってる。
だが、顎が痛い。
外れてないのが奇跡だ。
体が重い。
衝撃が頭まで登ってきた。
クラクラしていると、勇麟が近寄ってきた。
マジか、まだやる?それは勘弁して!
っと思っていると、肩に手を置かれた。
見上げると、笑顔の勇麟。
「お前、気に入った!」
その後、勇麟に連れられ、前の店に戻った。
それからめっちゃ飲まされた。
なんとか誤魔化しつつ飲んでる風でやり過ごしす。
「お前、名前は?」
「風間 翔…」
「翔か。よし、覚えたぞ。」
「あんちゃんスゲえよ。勇麟とやりあって2発も入れるなんてよ。」
周りからかなり褒められた。
店の中は大騒ぎ。
しばらくして、勇麟に連れられ、店を出た。
「んじゃ、次行くぞ。」
「いや、俺そろそろ戻ろうかと…」
「いいじゃんかよー。な?もう一軒。な?」
「うそだろ…」
しばらく宿に戻れそうにない。
次回、地下の主
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