共闘
前回のあらすじ
バイ◯ハザー◯がログインしました。
偉そうなこと言ったわりには何も考えてない。
だが、ヒントはある。それは、奴の左胸のあたり。怪しく光る心臓のようにも見える何か。
俺の予想ではあれが唯一のウィークポイント。
だが予想で動くほど俺はアホではない。
まずは短剣の一本をスキル”投擲”で刺してみる。それからだ。
小手の中から短剣を取り出し、構える。
「おい!少しでいい奴の動きを止めれるか?」
「その顔は策ありという顔だな。」
「人の顔みる暇があったら魔法の一つでも撃ってくれませんかね?」
「わかった、わかった。ちなみにその策において私に他の役割はないのか?実は何も考えていないのだ。」
構えた短剣を彼女に投げそうになるが、我慢、我慢。
「ない!今のところな!それより早くしてくれ!」
少しがっかりしたような表情をした後、彼女の杖から火の玉が出る。それはアダンにあたり、弾け、アダンはよろめく。
その隙に短剣を左胸めがけ投げる。
短剣は少しだけ刺さる。
しかし、アダンは苦しみ、悶え、短剣を抜き、投げる。
どうやら俺の読みは当たったらしい。
なら、あとは簡単。本命のナイフを腰から抜く。
そして俺がこの世界くる時、唯一覚えてきた魔法を使う。
延刃
自分の武器に魔力で作る刃を付け足し、リーチを延ばすというもの。鋭さは元の武器に準ずるらしい。が形成している間は魔力が減り続けるので注意。
左のナイフに延刃をかけて、刃の長さを増やし、ナイフは小太刀くらいの長さになった。
これで一思いにぶっ刺そうというわけだ。
「おい!俺が走り始めたら魔法でもう一回動き止めてくれ!」
「お前の策がなんとなく読めたぞ。任せろ!」
彼女が魔法の準備をしている間にナイフ、もとい小太刀を構える、距離は10メートル。アダンは俺をターゲットしてるらしく、こちらに向かって歩き始めてる。
そのアダンめがけ、走り始める。それと同時に彼女の魔法が飛んでいく。着弾と同時によろけるアダンの左胸めがけ、助走をのせた刃を突き出す。
「はああああ!」
勝った。そう思った。
だが違った。刃は中途半端なところで止まってしまった。俺の誤算。それは。
筋力だった。
斬る、投げるのはともかく、筋力も大してない俺にはアダンの左胸を完全に貫くのは無理だった。さっきの短剣のあとだったせいか、アダンは胸に力を込めて俺のナイフを止めたのだ。蚊を逃がさないために腕に力を入れるように。
しまった!
と思った時にはもう遅い。
アダンは俺の左腕を掴み、そのまま俺をぶん投げる。しかも掴んだついでに骨を折っておくおまけ付きで。
俺は宿のロビーまで吹っ飛んだ。15メートルはあっただろう。そんな距離ぶっ飛ばされたらもちろん無事なわけがない。
「ガハッ」
体中が悲鳴をあげてる。左腕も変な方向を向いてる。それでも意識を保っていられるのはステータス補正ってやつかな?まぁ耐久はティッシュだけど。
やられた。あの見た目でまだ知性が若干残ってるとは思わなかった。外からは魔法の音がひっきりなしに鳴ってる。彼女はまだ戦っているということだろう。
まだ体は動く。もう一回やられたら今度こそ終わりだろうけど。
さっきのミスは単純なチカラ不足。つまりそれを修正すればなんとかなる。だったら。
体を起こす。幸い生命線の足はまだ大丈夫。左腕はだらしなくぶらぶらしてるので右手でもう1本のナイフを握り、延刃。宿から出て、アダンをみる。彼女の魔法が強いのか後退の跡が見られる。
「!よかった。まだ生きていたか。無事…ではないようだが。」
「さっきのもう一回頼む!」
「だがそれでは「ただし!」「?」
「俺がナイフ刺した後、5秒。稼いでくれ。多少の誤爆は覚悟するから。」
「…5秒で足りるのか?」
「さあね。それで?出来るの?出来ないの?」
「出来るが、死ぬなよ?」
「それはわからんな。ハハ。」
そう言って、もう一度構える。今度はより集中して。
彼女も覚悟を決めてくれたのか、魔法の準備をする。
さっきより助走距離はある、念のために延刃に返しまでつけた。これで楽には抜けない。
息を整えて、一気に走る。
彼女が魔法を撃ち、怯む。そして俺は右でナイフを刺す。
待ってましたと言わんばかりに胸に力を込め、ナイフを止め、俺を掴もうとするが彼女の魔法が炸裂。俺を掴もうとした腕が止まる。
勝負は一瞬。
右足を半歩さげ、それを軸に反時計回りに回転する。その遠心力と自慢の脚力をのせた回し蹴りをナイフの持ち手に叩き込む。
「くたばれエエエエエエ!」
蹴られたナイフは深々とアダンの左胸に入り込む。
俺はすぐさまバックステップで距離を取り。アダンを見る。
アダンは苦しみ、もがき、叫び、ナイフを取ろうとするも、返しのせいで抜けない。むしろ中でその返しがアダンの肉体を抉る。しばらくすると、動かなくなり、後ろに倒れる。
まだ生きていると思って警戒するが、アダンの体から煙が出始める。そしてアダンの体の表面が溶け始める。まるでフライパンの上で溶けるバターのように。その跡に残ったのは、俺のナイフ、湿った地面、そして割れた黒魔石だけだった。アダンの本体は跡形もなく消えた。いや溶けたというべきかもしれない。
脅威が去ったのを確認し、安心したせいか、俺も彼女もその場に座りこむ。
その時周りは驚くほど静かだった。