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ゲー4(元)  作者: 鬼雨
目指すは再開、出会いは豪快
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老い

前回のあらすじ

頭突きの理由は、可愛い。




頭突きでカラちゃんから情報を得た翌日。

久しぶりに蓮子さんに話しかけることにした。

実はこの間、忍さんが体調を崩し、それ以来寝たきりなのだ。医師曰く、そう長くないらしい。

蓮子さんにとってはこのままいけば、家族を失うのは二度目になる。

神経質になっているだろうと考え、距離を取っておいたのだ。

宿の客も気を使い、宿を移ったり、近所の人々も看病の手伝いなどを積極的にしている。

が、蓮子さんは正直滅入ってきている。

稲美さん達に掛け合ってみたが、当の本人たちに医学の知識がないため、妖術で何処をどう弄ればいいかわからないらしい。

それに人の体は繊細なので、下手に弄るとどこか他のところに異常が出る可能性があるらしい。

家族を失うのは辛いことだ。

だからと言って俺に出来ることは特にない。

みたところ、食事をしていないようなので、涼太郎仕込みのお粥を作った。

「何か口に入れないと、蓮子さんも倒れるよ?」

「ありがとうございます…」

ゆっくりだが、しっかりと食べている。

お腹が空いていたのだろう。

「すいません…お客様に…こんなこと…」

「俺もな、小さい時に爺ちゃん亡くしてるんだ。」

「え?」

「五才くらいのときかな。病気でね。俺も死に際にいた。」

「…」

「その爺ちゃんの言葉でな、『死んでも、いなくなるわけじゃない。死んだ人は、三つの道を辿るんだ。』って。」

「三つの道?」

「『一つは生まれ変わって次の人生を歩む。一つは天国でゆっくりと暮らす。』」

「最後の一つは?」

「『大切な人を側で見守る。』」

そう話すと蓮子さんはうつむき、涙を流し始めた。

「もう一つ爺ちゃんの言葉があってね。『泣きたい時はしっかり泣け。でないといろんなこと溜め込んで太っちまう』ってな。」

蓮子さんは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら少しだけ笑った。

すると、奥から、忍さんが蓮子さんを呼んだ。

距離的に今の話も聞こえていただろう。

俺も部屋の入り口で見守る。

忍さんはそばに来た蓮子さんの手を握って話し始めた。

「蓮子、私はね、これから雀さんのところへ行くんだよ。」

「え?」

近い。

そう感じた。

恐らくあと数分の命だと感じた。

しかし、内心、「そう来たか」と驚いた。

「私はね、蓮子が来てくれて本当に嬉しかった。私は旦那さんがいなくて、娘がいなかったから、あなたが娘になってくれて、ほんとうに嬉しかった。」

声はか細く、周りが静かでなければ聞き取れないだろう。

「私はこれから雀さんのところへ行って、そこからあなたを見守っているからね。」

「いやです…ここで見守っていて下さいよぉ…」

「泣かないの。綺麗な顔が台無しよ?」

忍さんの顔は笑顔だが、涙がポロポロと流れている。

「湊人さん、この娘をよろしく頼めるかしら。天狗さん達と一緒のあなただから。」

「出来る限りの事は。」

外はまだお昼時で、まだ明るい。

「蓮子…来てくれて、ありがとう…ちゃんとご飯食べるのよ…」

「うぅ…はいっ…」

「お昼寝もほどほどにね。犬だから、なかなか起きないからね、あなたは…」

「…はいっ…」

すると忍さんは不意に外の方を見た。

「あら…雀が…いっぱいね…」

窓から見える木には雀が十数匹止まっていた。

カラちゃんに頼みなんとか集めたのだ。

爺ちゃんに言われた言葉の中に、

『人と別れる時は、その人が出来るだけ悲しまない別れ方をしろ』と。

これが俺に出来ることだと思った。

そして少しして、忍さんは息を引き取った。


翌日、近所の人も手伝い、通夜が開かれた。

昔から優しく、時に厳しい人だったらしい。

数日後、葬式が行われ、俺と空成も参列した。


それから二日が経った。


蓮子さんは未だに元気が無く、一応食事は俺が作っている。

今日はこれまた涼太郎仕込みのお茶漬け。

食べてはいるが、相変わらずペースが遅い。

「すいません…お仕事もあるのに…」

「うちの上司兼彼女は物分かりが良いのでね。」

近くでヤタもご飯を食べているが、空気を読んで、喋らない。

「宿はどうするんだ?続けるのか?」

「それは…まだ…」

一応後を頼まれた身として何かしらしてあげなければならない。

そこで、良いことを思いついた。

「じゃあさ、俺、近々引っ越すんだけど、そこに住み込みで手伝いしてくれない?」

「え?」

「まあ、宿を続けるなら、続けるで構わないけど、向こうは最近少し人が増えてるし、広いから。」

「えっと…その…」

「別に今答えを出さなくても良い。まあ、宿を続けるなら俺はここに残るし、まあ、引っ越すって行っても建て替えに便乗しよっかくらいのあれだから。」

「はあ…」

とりあえず、忍さんの死を引きずってズルズル生きるより、心機一転させた方がいいと考えた。

もちろん彼女のこの宿に対する思い出が並々ならないことも承知の上だ。

この場はそれだけで俺とヤタは立ち去ったが、どうするかは彼女次第だ。


翌日、蓮子さんに呼ばれ、食事場へ行った。

すると、前のような、まだ少し元気はないが、いつもの蓮子さんがそこにはいた。

「お手伝いの話、受けさせていただきます。不束者ですが、よろしくお願いいたします。」

蓮子さんの表情は、なんだか振り切ったような笑顔で、外では雀が鳴いていた。

次回、劇的!妖術改築!

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